カンプ・ノウで何が起きたか?【クラシコレビュー】

 18-19シーズン最初のエル・クラシコはカンプ・ノウが舞台。昨季スペイン王者と、低迷する欧州王者が相見えることとなった。
 結果は5-1。蓋を開けたらバルセロナの圧勝・マドリーの惨敗という結果に終わった伝統の一戦であったが、果たしてカンプ・ノウで何が起きたのか?


 前半は全体を通してバルサが安定したポゼッションを維持し続けた(支配率62%)。それに対してマドリーはハイプレスをかけず。ボール保持を放棄したかのような姿勢であり、もしかするとこれはロペテギの狙いだったのかもしれない。
 バルサはon-possession時、両WGがインサイドレーンに絞り、サイドレーンにSBが進出するのが基本的な動きである。この動きはゴール方向への密度を高める一方で、自陣の密度が極端にスカスカになってしまう。このためバルサは対策として、「とにかくカバーリング能力の高いCBを置く」作戦を実行してきた(数年前までのプジョル+ピケのコンビがその最たる例である)。しかし最近はピケのカバーリング能力の衰えが垣間見えるようになってきたので、ここがバルサの泣き所となってくる。
 マドリーは、GKからのリスタート時とゾーン1に相手ボールが入った時、ベンゼマ(orベイル)が左サイドに流れてピケとマッチアップする形を作っていた。これは意図的なものであり、実際にこの試合最初のチャンスはピケとベイルの速さ勝負からのものだった。
 マドリーがバルサのビルドアップに対して執拗なハイプレスを敢行しなかったのは、彼らの狙いがロングカウンターだったことの証言である。バルサのハイラインでのビルドアップを許すことでピケの背後に40mのスペースを作り、速さ勝負を優位に進める狙いがあったのだろう。

 対してバルサの狙いは「ボールによる支配」。マドリーのビルドアップに対してハイプレスを敢行し、ロングボールを蹴らせていた。
 バルサのハイプレスは興味深かった。それは相手CBに対してCFとIHでプレスをかけるというもの。これによって相手CBが中央にパスを出せるだけの時間とスペースを消し、見事にロングボールを蹴らせていた。

前半11分。早くも両者の明暗が分かれる。コウチーニョがインサイドレーンに絞った瞬間にSBのジョルディ・アルバが大外から内へのダイアゴナルラン。ラキティッチがそのジョルディ・アルバに浮き球のスルーパスを送り、完全にナチョの裏を突いた。
ここでジョルディ・アルバがフリーになれたのは明らかにマドリーの構造上の欠陥である。ナチョがコウチーニョとジョルディ・アルバの2人を同時にマークすることなど不可能だ。しかしだからといって、ベイルにジョルディ・アルバのマークをさせるのはナンセンスであった。なぜなら彼はロングカウンターという大きなミッションのキーマンだからである。


 この後バルサはPKでリードを広げ、2-0で後半に突入。
 マドリーは後半からヴァランに代えてルーカス・バスケスを投入。なぜヴァランを下げたのかはよくわからないが、もしかすると前半にPKを献上してしまったことが1つの要因かもしれない。
 マドリーはカゼミロを一列下げ、最終ラインをセルヒオ・ラモスーカゼミローナチョの3バックに変更した。このシステム変更が効果を発揮する。

 3バックに変更すると、マドリーは見違えるようにボールを保持するようになった。要因としては、バルサのプレスが機能しなくなったことが挙げられる。先にも書いたように、前半に仕掛けていたバルサのハイプレスは、相手の2CBを基準点としている。この基準点が後半になってうやむやにされたことで、思うようにボールを回収できなくなっていた。
 また、3バックにしてインサイドレーンを封鎖することで、前半は曖昧だったマーキングを明確にしようという意図があったようにも考えられる)。特にナチョは、前半よりもはるかにやりやすそうにプレーしていた。

 50分にマルセロが得点。その後はマドリーが果敢にゴールを脅かすも、決定機を決められず。ここで同点に追いついていればこの試合は全く違うものになったかもしれないから残念だった。

69分。バルサが完全にマドリーのリズムに慣れ始めた時、ラフィーニャ→セメドの選手交代。プレーメイカーであるセルジロベルトを2列上げた。その後の74分にはコウチーニョ→デンベレの選手交代。デンベレースアレスーセルジロベルトの3トップが完成した。この3人が相手の3バックに対して常に数的同数の状況を生み出す。75分のスアレスの得点も、この数的同数によって生まれたものだ。(…といってもスアレスの反応速度は見事としか言いようがないが。)

 この後も3トップのカウンターでリードを広げたバルサ。スアレスはハットトリックを達成し、カンプ・ノウで魅惑的な夕刻を過ごしたに違いない。


 所感。幽体離脱したような気分だった。今、こんなに好きなマドリーが残骸となって横たわっている姿を上から覗き込んでいる。単に敗北を見慣れただけだろうか。
 試合としては興味深かった。マドリーのHT中のシステム変更とそれに伴うバルサの修正は見もの。バルセロナには賛辞を贈りたい。セルジロベルトを3トップの一角に組み込んだあのバルベルデ監督の采配。ブスケッツの鮮やかなターン。ハングリーなスアレス。おめでとう。試合を公平にジャッジしていたホセ・マリア・サンチェス・マルティネス主審にも感謝したい。
 ベルナベウでは勝ちたいですね。今のままじゃ無理ですが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?