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劇団鹿殺し『ザ・ショルダーパッズ』【#まどか観劇記録2020 26/60】

~銀河鉄道の夜~

初めてフライヤーを見た時に、これはなんだかやばそうだと予感していたように思う。
それでもまだ、その時はわかっていなかったのだ。まさか、衣装が、ショルダーパッド二つだけなんて。ザ・ショルダーパッズがショルダーパッドの複数形ということだなんて。

肩パットふたつの衝撃の衣装。

しかし、フライヤーは正直すぎるほど真実そのものでした。
舞台に照明がともり、演出・出演を兼ねる菜月チョビさんが話し始めたのは、コロナ禍を経た劇団鹿殺しの在り方、そして、肩パットふたつだけの衣装のこと。

(そもそも、最近の洋服って肩パッド入っていなくないですか?ショルダーパッズがショルダーパッドふたつのことを表しているってすぐに気づけた人どれくらいいたのでしょうか?いろんな意味で衝撃の衣装です…。)

以前も劇団鹿殺しは前バリ公演をやられていたという事前知識を頭の片隅に、菜月チョビさんの開演前の話を聞いていましたが、さあ、肌色を見るぞと覚悟を決めたものの、いざ始まってみると、出てきたみなさんシャツもズボンも身に着けているじゃありませんか。

と、油断したのもつかの間。さながら早変わりのように二人が両側から引っぱるとシャツもズボンも真ん中で裂け、男性陣が次々とショルダーパッズの姿になっていく。それはもう清々しいほどに潔く。

目の前で衝撃的な光景が繰り広げられているというのに、耳に流れ込むのはタテタカコさんの美しい旋律と菜月チョビさんの優しい歌声。もはや神聖さすら感じるその楽曲、しかし、目の前にはどんどん肌色になっていくショルダーパッズだち。そしてよく聞くと、美しい旋律が歌い上げているのは「この身一つで」「ショルダーパッド」、なんだ、結局ショルダーパッズなのか。

もう最初から感情が追い付かない。笑


星空と肌色の間の銀河鉄道

ストーリーは銀河鉄道の夜。私たちがよく知っているカンパネルラとジョバンニが星まつりの夜に銀河鉄道で旅をするのだ。視界の肌色の面積が少しばかり多いだけで、これは銀河鉄道の夜なのです、多分。

先ほどから肌色が肌色がと書いてはいるものの、人間の順応性というのはすごいもので、5分もしたら少々特殊な衣装のことは気にならなくなり、物語に没頭し始める。のですが、そこは一筋縄ではいかせてもらえず、事あるごとに思い出させられる肩バッドの存在。

しんみりするはずのところに、いきなり引き戻される肌色の世界。笑っていいのか、悲しんでいいのか。こんなに無理やり感情を揺さぶられたことは初めてで悔しいながらもこれは新しい感覚でした。笑


各キャストのキャラの濃さとシーンの強さ

とりあえず、みなさん身体を作られていてそもそも美しい。美しいからだの贅沢遣い。
そして動きのキレがすごい。劇中曲でのダンスも含め全力の動きは見ていてすがすがしいし、うらやましさすら感じます。

1シーン1シーンが濃くて、知っている話なのに予想外の表現が起きるから、強すぎるインパクトに前のシーンが上書き上書きされて絵具の盛り上がりすぎた油絵みたい。

そして、劇団鹿殺しのメンバーはもちろん、客演のキャラの濃さがもう何とも。。。
ダビデ像もかくやという君沢ユウキさんのカラダを見せたい先生役、こういうガキ大将いたな~という梅棒/ゲキバカの伊藤今人さんの引っ張り力、五十嵐結也さんはとりあえずビジュアルが濃すぎる…漁をしているはずのお父さんはポセイドンだった…。

各キャストが大暴れという状況を目の当たりにし、演出家の手腕に感嘆を禁じえません。


振り返った時に楽しい感情が思い出される作品

最高にバカバカしくて、最高にしんみりして、最高に生きていた。

今の時期に、観たかった作品でした。観れてよかったと、とても思いました。心が少し軽くなった。生きることが愛おしくなった。

銀河鉄道の夜の物語の最後は少し悲しいものです。ジョバンニの決意と共に観客は静かに悲しみを抱えて次へと思います。ですが、このザ・ショルダーパッズは、このラストで衣装のことは忘れてしっかりしんみりするものの、思いかえしたとき、楽しい思い出になっている、そんな作品のように思いました。

だって思いかえしたらみんなほぼ裸なんです。それだけでなんだか笑ってしまう。観劇しているその時は様々に感情を揺さぶられるけれど、思い出す時は楽しい記憶として。

上演は、「銀河鉄道の夜」だけではなく、江戸川乱歩の「少年探偵団」を元にしたお話もあります。残念ながら明日(11/15)が千秋楽なのですが、まだ残り3公演あり、どちらの作品もライブ配信で見ることができます。

肩の力を抜いて笑いたい人はぜひ。
笑いだけでないあたたかいものを見つけられると思います。



おすすめの作品などを教えていただけるととてもうれしいです。