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森山開次x新国立劇場バレエ団『竜宮』【#まどか観劇記録2020 16/60】

波だ。海だ。

森山開次x新国立劇場バレエ団『竜宮』
全編を通じて最も印象的に感じたのが、波と海の表現でした。

森山開次さんが演出・振付・美術・衣装デザインをした『竜宮』は「浦島太郎」の物語を元としています。

いじめられている亀を助け、お礼に竜宮城に招待され、時間を過ごすうちに元の世界が恋しくなり、地上に戻ったら時間が進んでいて、その時に持っていた玉手箱を開けたら一気に歳をとってしまう、という日本人の多くが知っている昔話です。

しかし、いまだかつて浦島太郎の物語で、これほどまでに波を意識したことがあっただろうか、観劇しながらずっとそう思っていました。

浜辺から始まり、海中に潜り、浜辺に戻る。

そう、ずっと舞台は海なのです。波なのです。
当たり前すぎて見逃していた海の存在を『竜宮』では強く感じました。

そもそもキャストの配役に「波」の役があるのです。
このことからもこの作品で波にこだわったことがわかるようです。
寄せては返す波は一瞬たりとも留まることを知りません。
その波の様をパドブレで表現した見事さ。音が聞こえないほど繊細なパドブレが新国立劇場バレエ団の技術の高さをうかがわせます。

更には、この作品のヒロインである亀の姫も波に乗って登場します。
波役のダンサーとのリフト。
このリフトも驚きの軽さ…!亀の姫はティッシュ1枚分しか重さがないのではと思うほどふわりと波の上を舞います。

真上からの照明の投射でフロアに波が描かれるシーンもありました。日本画的な強い線と色で描かれた波は最後列から見ていても鮮烈な印象を残しました。

その後もあらゆるシーンで波のような寄せては返す演出が見られるのですが、極めつけはエンディング。
カーテンコール直前の全ダンサーの挨拶の場面でも舞台上には波が見えるのです。

全編を通してこの作品は波でした。圧倒的な海でした。


日本的要素の数々

そして、本格的なバレエの振付けは初めてだとインタビューで語られていた森山開次さんが、バレエ団とやり取りを重ねて作ったという振付けはバレエの枠にとらわれず、森山さんらしい日本の能、狂言、歌舞伎を思わせる要素も取り入れ、従来とは少し違ったバレエの魅力を見せてくれました。
バレエはその発祥から洋の要素が強いものですが、こんなにも日本的に表現することができるものだとは、と感嘆する素晴らしい振付けでした。

そんな日本的な表現は舞台装置にも見受けられました。
平面的な絵を重ねて奥行を出したような舞台美術はまるで彩色版画のようです。語り部として随所に出てくる時の案内人役は仕草から歌舞伎や能の要素が強く、黒子のようでもあり、また、その際に使われる文字の投影が紙芝居のようでもありました。さらには能で使われるような翁の面をつけたり、舞台上での早替えがあったり。

わかりやすい日本的な表現に加え、何がとは明確に言えないものの、日本らしいと思う要素の数々が盛り込まれ、この表現の仕方は森山さん独自のセンスによるものなのだと感じました。

私は日本人だからか、そのような日本的な要素をどこか故郷に対する懐かしさや郷愁、大切にしたい気持ちとともに観ます。それが浦島太郎の昔話を元にしているこの作品の持つ懐かしさとリンクするように感じました。
これを海外の人が見たらどう思うのか、日本らしいと思うのか、興味がわきます。


大人も子供も楽しめる

全編を通して、時や波など止まることなく移ろうものを表現されたいたように感じた『竜宮』でしたが、よく知られる浦島太郎の昔話と違い、最後がハッピーエンドになっていたのものとてもよかったです。

衣装デザインも森山さんが担当されたとのことですが、どんな魚が元になっているのかというのが非常にわかりやすく、かわいらしく(ふぐの衣装と使い方には思わず笑ってしまった。あのふくらみをつつきたい)、大人と子供がどちらも楽しめるというコンセプトが今回も活かされていてすばらしかったです。


東京公演の最後の二日は中止になってしまいましたが、9月の長崎、富山公演は無事に開催されることを願っています。

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チケット情報はこちら
長崎公演 2020年9月19日(土)⇒ 公演詳細
富山公演 2020年9月22日(火・祝)⇒ 公演詳細

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