風の奏でる音に耳をふさいで
春の嵐と呼ばれる、ひどい雨風が吹き荒ぶ。
それでなくても、私の住まう場所は海風の影響を受けて春先は強い風が吹く。
この場所に引っ越してきてもう七年が過ぎようとしているけれど、なかなか馴染めないことがある。それは風が奏でるメロディーだ。
丘の上に大きな鉄塔が立っている。強い風が吹いたとき、その鉄塔のあいだを風が通り音が響くのだ。
それはとても不気味な音色で、初めて耳にしたときザワリと心が波立った。ピュー、ともゴウッとも違う、言葉にしにくい音色。一匹だけ取り残された恐竜が、仲間を探し求めて鳴きわめいているようにも感じられる。
夏や秋に訪れる台風だと、その音色はあまり聞こえない。春先の強い風の夜にばかり聞こえてくる。
音が聞こえないように、がばりと布団にくるまって耳をふさぐ。側では猫が不安そうな表情で、「あの音はなあに? こわいよ」と身体を寄せてくる。
大丈夫、大丈夫。
恐竜は、ここまではこられないよ。
猫を落ちつかせるためか、はたまた自分自身に言い聞かせているのか。猫のやわらかな毛を撫でながら、私は猫に身体をぎゅっと寄せた。
柔らかな猫の温もりを感じながら、耳をふさいで夜をやり過ごす。
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