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家族ってむずかしくて、おもしろい。

箸休めのように、ちょこっとつまめるお話はないかな? と近所の本屋に本を探しにいったときのこと。

レジの前に平積みされていた文庫本のオビのことばに、私は引き寄せられてしまった。

「夫がUFOを見たと言い出した」

え? これって、うちのこと……?

そう、私の夫も以前「UFOを見た」といって騒ぎ出し、その時私はかなりいらだっていた頃を瞬時に思い出した。

こんなに気になる内容が含まれているなら、読まないわけにはいかないな、と手に取った。

「我が家の問題」奥田英朗 著(集英社文庫)

奥田英朗さんといえば「空中ブランコ」が一番有名な作品といえるのだろうか。「サウスバンド」や「ガール」なんかも映画化された。この「我が家の問題」も、「家」シリーズとして「家日和」「我が家のヒミツ」が刊行されている。家族という社会の最小単位内で起きているちょっとした、でも当人達にとってはかなりの大問題が、おもしろおかしく描かれている短編小説集だ。

どの家族にも、多かれ少なかれ問題はある。

我が家もそうだ。

今回、この本を手に取るきっかけになった「UFO事件」についても、問題、と言えるかもしれない。この問題は、解決しておらず、我が家では現在進行形なのだ。実際に、夫がUFOを見た、と言ったのは、こともあろうか結婚式の打ち合わせにはじめていったときだ。その日は飛行船が飛んでいて「魔女の宅急便みたいで、珍しいね」となどと言いながらふたりとも何度も空を見ていた。

式場との打ち合わせが始まる直前だった。まだ少しだけ時間も早いし、ぶらぶら歩いていようか、と目的もなく歩いていたとき。夫が急に「ねえ、あそこ、見てよ!」空を指差し、少し緊張感を含みながらも、私にだけ聞こえるような声でささやいた。私は視力があまりよくないため「え? なに? めずらしい鳥でも見つけたの?」とのんきに空を見上げた。すると、夫はさらに声を潜めて「UFOがいる。UFOが飛んでるんだ」と目線は空にくぎ付けになったまま、呟いたのだった。

結局、私はUFOを見ることができなかった。けれど、夫はその日はずうっと「またUFOが現れるんじゃないか?」とキョロキョロし続けていた。その日は結婚式場と契約する日だったのに、夫はあまりにも上の空だった。そして、私はそんな夫に対して、いらだちを隠せなかった。式場の担当者さんは、心配してくれていたけれど「この夫婦、すぐ離婚するだろう」と思ったに違いない。

式場での打ち合わせがあるとき、夫はいつもキョロキョロしていた。「今日、またUFOがやってくるかもしれない」と、空ばかり見上げていた。そうして、その度に私のイライ度合いがアップしていったのは言うまでもない。

結局、夫がUFOを見たのは、はじめの一度きりだった。それ以降は見ていない。けれど、テレビで放送しているオカルト的な番組だったり、「テレビ局の屋上でUFOを呼ぼう!」などという特集にはくぎ付けになっている。私がつい「ファンファンファンファン……」と、テレビでおこなわれている「UFOを呼び出す呪文」をマネでもしようものならば「しっ!!! UFOに聞かれたらどうするんだ! おれは一回見てるから、アブダクション(UFOに連れ去られること)されるリストに載っているかもしれないんだぞ!」と、結構な勢いで言い返される。正直なところ、夫はちょっとおかしな人だなと、UFO特集番組にくぎ付けになっている姿をみながら、私は小さくため息をついたりもする。

それぞれの家庭のなかで、ちょっとした問題はあるだろう。こどもの反抗期、とか年老いた両親の介護問題、というような類いのものもあるだろう。けれど、それだけが家族の問題じゃない。「こんなことで揉めてるの、うちだけだろうなあ……」と思うような、些細な、けれど当人達にとっては暮らしていくのに重荷になっているようなこと。

この、「我が家の問題」に描かれている家族の姿は、私の家族の問題でもあり、あなたの家族の問題でもあるだろう。ささやかな、けれど悩ましい問題があり、それをのりこえていくからこそ「家族」と呼べるようになるのかもしれない。

*今回私が購入した「我が家の問題」のオビは、TSUTAYAで販売さている限定のオビのようです。表紙とオビがほぼ同じサイズになっていることに、あとから気がつきました。おもしろいですよね。


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