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69歳の母が一人でメキシコへ。

2020年の夏に私が日本へ一時帰国して以来、約3年ぶりに母に会った。コロナ明けで動きやすくなったこのタイミングで、LAにいる親友宅に訪問しつつ私のいるメキシコにも来てくれるという。一人暮らしで犬を飼っていて長期で家を空けられない私にとっては、とても有難い再会の形であった。

福岡発、仁川経由でLAへ。その1週間後にメキシコシティへ来て10日間滞在。またLAへ戻って2週間を過ごして福岡へ帰るという旅程。未だ現役で仕事を続ける母は、1ヶ月ちょっとの休暇を取って単身2ヶ国に足を踏み入れた。

いつも活発に動く母なので、「向こうでお金使いたいからなるべく安い航空券を押さえてほしい。」と依頼された私は、何の躊躇もなく韓国仁川空港経由を予約したが、友達から「お母さん、すごいね!」と言われて初めて「あぁそうか。海外で乗り継いでの長距離移動は体力以外にも不安要素があるものなのか!」と気付いたくらいだった。

しかし、一人で飛行機に乗るのは問題ない母も、言葉の通じない国で一人でウロウロするのは苦手。というより、日本でも常に誰かと出掛けるタイプでカフェすら一人で入れない。「メキシコには、あんたが仕事休める間だけいたいから、5日でも良いよ。」と言われていた。

3年ぶりに会う母。もちろん初めてのメキシコ。できるだけ楽しんでほしいし、話したいこともある。仕事をセーブして1週間くらいはいてもらおうか……そんなことを考えながら会社へ相談すると「Wakaさんの性格上セーブはできないですよ、きっと。完全にお休みしましょう!大丈夫です。」と有難いお言葉をいただき、私は10日間のお休みをいただいた。

よく「久しぶりに会う親は小さく見えた」などと聞くが、メキシコ国際空港で会った母は見た目も中身もほぼ変化がなく、「おぉ、久しぶりー!」と友だちのようにゲートから出てきた。

それからあっという間の10日間。観光は1日1ヶ所と決めて無理なくゆっくり見て回り、こちらでできた友だちにも会わせたりして、私の今生きている場所をひたすら感じてもらった。

最後の日も空港まで一緒に向かい、LAへ戻る母の姿が見えなくなるまで見送った後、私は15分くらいゲートの前に立ち尽くしていた。思い出に浸っていたわけではなく、なぜか泣きそうになるのを堪えていた。その感情がわからず、「自分はなんで悲しい気持ちになっているのか?」を立ったまま考えていた。

ゲートの前で、空港からの帰り道のUberの中で、更には家に帰ってからも、おそらくそうだと分かっていながらその理由を確実に知りたくて、色々な側面で考えていた。

また次に会えるのがいつかわからないから?一人の生活に戻るのが単純に寂しいから?母が心配だから?長めの休暇が終わるから?

どれも合っているようでちょっと違う。

こんなに見返りを期待することなく私のことを考えてくれる人は他にはいない。私が上手に想いを口にできなくても、「あんたはそんな人じゃない(もしくはそういう人だ)」と信じてくれる人はいない。

掃除が得意でない私のために家の隅々まできれいにしてくれて、あれば便利だからと生活に必要な物を半ば強引に買ってくれて(母は一人で生活していて決して裕福ではない。)、「まぁ、あんたは大丈夫だよね。」と笑って受け流してくれる。

それが嬉しかったというのもあるけれど、私が泣きそうになっていたのは実はそこではなく、その先である。

そんな存在が、ほぼ確実に私より先にこの世からいなくなるのか。子どもを持たない私は、その想いを受け取るだけで誰にも繋げることなく、見送って一人になるのか。そのとき、めちゃくちゃ悲しいだろうなぁ。

と、至極当たり前のことが現実に起こるというのを初めて実感して怖くなった。話を聞いてくれる友だちや助けてくれる上司など、私には勿体ないほどの人々が周りにいるけれど、親って全く違う存在なんだなぁと。恥ずかしながら私はこれまでそんなことを思ったことがなかったのだ。

まだ日本に帰るつもりはないけれど、あと10年くらいしたらそういう選択を考えても良いかもしれないと、海外に出て4年で初めて思った。

今日で母と離れて3日が経ち、悲しい気持ちはだいぶ薄らいできた。何事も時間が解決してくれると思っている私の考えは間違いじゃなかったことを再認識しつつ、母のきれいにしてくれた部屋を保つことを意識し掃除して、「朝はヨーグルトとバナナが一番良い。」という誰もが聞いたことがある習慣をすぐに取り入れている自分に驚いている。母が置いていったタオルに私が親戚中で一番尊敬しているおばあちゃんの名前が書いてあったりしてちょっと幸せな気持ちにもなりつつ。

母がLAで楽しく過ごせていたらいいな。安心してもらえるように私もしっかり毎日を生きて、お金も時間ももっと余裕を持たせられるようにならなきゃな。そんなことを思いながら、また始まる仕事の準備をしている週末。

私は決して一人ではないけれど、一番私を見てくれている人をもっと喜ばせられるように頑張ろうと、単純ながら嘘のない想いに気付けた10日間だった。来年は免許更新のために、きっと日本に帰るぞ!

いつも働いていた母。私が幼稚園や学校に行っていたことを考えると、どちらも休みで10日間も完全に一緒に過ごすというのは、赤ちゃんのとき以来だったかもしれない。

10年後にはまたそんな日々が来るのかもしれない。親ってすごい存在だな。

#私のパートナー

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