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「愛」

「私この椅子嫌い!!」
「絶対にいやだー!!」
「なんで私の椅子なのにお母さんが決めるの!!」
「やだー!いやだー!絶対やだー!!」
大声で泣きじゃくるお子さん。
そして困り果てたお若いパパとママ。

この春、小学校に新入学のお嬢ちゃまの座姿勢が悪いので、色々調べていたらアップライトにたどり着いたとのことでした。座骨を立て姿勢を正すための背もたれの三次曲線をまずは大人であるご両親に体験してもらいながら、製品解説をしていたところ、それを察したお嬢ちゃまが全面拒否の態度表明をされたわけです。
聞いてみると以前量販店で目にしたハートの形をした椅子?がとても気に入ってしまったそうで、どうしても譲れない。アップライトを挟んで大人が話をしている姿を見てきっと自分の気持ちが無視されているように思ったのでしょうね。
気づいてあげられなくてごめんね。

でもお若いお母さんは偉かった。泣きじゃくるお子さんを説得しつづけ、お子様は完全には納得してはいないのでしょうけど、最後にはお子様が根負け。ご購入いただくことになりました。
伝票を書くにあたって「ご注文頂いて本当に大丈夫ですか?」と小声でお母さんにたずねると、このお母さんはきっぱりと「取り寄せてください!」と笑顔でおっしゃいました。このお母さん偉いですね。本当の意味でのお子様への愛情を感じました。

ずいぶん前に事になりますが、今は亡き建築家 宮脇檀氏のお嬢さんが何かの雑誌にエッセイを載せられていて、自分が子供の頃、お友達を同じような学習机が欲しかったけど建築家でるお父さんは頑として聞いてくれなかったそうです。買ってくれたのはシンプルな木製平机だったそうで、その時はとても悲しい思いをしましたが、やがて中学年高学年と成長するとともに、そのお父さんの愛と行動に心から感謝するようになった…とかいう内容でした。
当時、僕も仙台に戻ったばかりで実家の店の改革を始めていた頃で、1960年代ころから始まった漫画キャラクターによる学習机商法の撲滅運動(笑)をしていた頃ですから、流石!宮脇さん!そしてその血と知をちゃんと引き継いでいるお嬢さんも偉い!って思ったことを覚えてます。

工業デザイナー・故 秋岡芳夫氏は当時著書の中で、あの学習机のことをおまけつき子供机と皮肉っていましたが、これはお子さんがわがままとか、聞きわけがないとかいう問題ではなく、適切な判断が出来ない年齢なので、購入の判断はお子さんに比べ長年の経験があるメタな知識を持った大人の大切な役割だということです。そしてそのメタ知を本質で刺激することの出来る解説者、つまり売り手の存在がとても重要だという事です。
今はどうなんでしょうかね?今でも春先の量販店の学習机売り場では、スポンサーであるおじいちゃん、おばあちゃんの「いいよ、いいよ。孫の好きな机買ってやれ~」の声が聞こえるのでしょうか?
机に限らず足し算の商法は、さすがに時代とともに減少傾向にあるとは思います。TVショッピングなどではまだまだ花盛りのようです。

今回はあのお客様が帰られた後、大泣きしたお嬢ちゃんにお手書きを書こうと真剣に思ったのですが、もうちょっと大きくなってから見て頂けるように、僕の気持ちはこのエッセイに残そうと思いました。

お手紙

おおなきしたけど、さいごがんばったきみへ

あのとき、おかあさんたち、
きみにはそうぞうできないほど
いろいろとかんがえて
きみにとって
さいこうのいすをえらんだんだよ。
かたちも。
いろも。ね。
おとうさんも
おかあさんも
ほんと、きみのことがだいすきなんだ。

おとうさん、おかあさん、ありがとう!って
おもうときが、かならずくるからね。

しょうがっこう、はじまりましたね。
がっこうはいかがですか?
おともだちたくさんできましたか?
まずはたのしく!
そして
がんばるんだよ!

くらし座 大村正

 

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