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いっしょに、大きくなろう

「ああっ!」
Rくんが、小さな叫び声を上げた。顔に少し血がついている。
大変、鼻血⁉と思いきや、
「歯が抜けた、ほら。ついに!」と
誇らしげにRくんは、血がついた小さな粒を高々上げ、皆に見せてくれた。
「おめでとう、R。」「よかったね。」「やったあ!」
祝福がしばらく続くのを、微笑ましく見守る。

私の教え子達は、乳歯が永久歯に生え変わるお年頃である。
にっこり笑うと、口の中のどこかに、可愛い空間をもつ子供がほとんどだ。

Rくんの右下の歯は、自分の番でも、永久歯と交代したくなかったようだ。
グラグラしているのに、中々抜けなかった。
Rくんは食べるのに苦労し、最近は時々、食欲を失いがちだった。
ようやく、歯が抜けたRくんの口を、皆がのぞき込む。

Rくんの口元を見ていたせいか、私の口元につい、目が行ったのだろう。「あれっ、先生、歯が抜けたの??」
子供の1人が気づいて、声を上げた。
うん、そうだよ。先週にね。

「ごめんね、気づかなかったよ。おめでとう!」
おめでとう!おめでとう!おめでとう!おめでとう!おめでとう!
可愛い「歯抜けの先輩」達から、私は祝福を受けた。
ありがとう。でも先生は大人だから、歯が抜けても、どうかな・・?
「どうして?歯が抜けるってことは、大きくなるってことでしょ。」
なるほど、そうか。じゃ、先生も、大きくなれるかな。
「先生、一緒に、大きくなろうね。」
うん、そうしよう。一緒に、みんなと大きくなろう。

「ところで、Tooth Fairy(歯の妖精)は何をくれたの?」
私が暮らすところには、歯の妖精がいる。
その妖精は、抜けた乳歯をその子供が眠っている間に持っていくかわりに、
コインやプレゼントなどに交換して、置いてくれるのだ。
子供達にとって、まるでサンタさんのような存在である。
乳歯から永久歯への生え変わりは、成長への通過儀礼の一つ。
その橋渡しを素敵に担っているのが、このTooth Fairyだ。
そのTooth Fairyは、乳歯でなく永久歯を差し出す私に、
何をもたらすのだろう。

一瞬考えて、こう答えた。
これからTooth pillow(抜けた歯を置く小さなクッション)に
歯を置こうかな、と思っていたところなの。
でも、この歯が大好きだから、Tooth Fairyに渡さないで、
このまま持っているかもしれないけどね。

夜、歯を磨くのに時間がかかる中、考えた。
もし、私の歯をTooth pillowに置いたら。Tooth Fairyは何と交換するのかな。
私の家に来るTooth Fairyは、通常Quarter(25¢コイン)と交換してくれる。
本数分、コイン置いていってくれるかも。

いやいや。「歯抜けの先輩達」が教えてくれたじゃないか。
これからも私は、「大きくなる」らしい。
Tooth Fairyは、私に「成長」、人として成熟を深めることを、
きっと置いていってくれるんだ。

いっしょに、大きくなろう、みんなで。

(今日うれしかったこと)
雪などでしばらく閉ざされていた林道が、再び歩けるようになった。
(今日のありがとう)
「歯抜けの先輩」から教わった市販のRice pudding。美味しい。
食べるもののバリエーションが増えた。ありがとう。






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