東京ジンジャーエール百景 9杯目『神社声援』

いわゆるキラキラネームと言っていいだろう。私の名前は『神社声援』。読み方は『ジンジャーエール』だ。

私はてっきりどこかの飲食店に納品されるとばかり思っていた。しかし瓶詰めされてラベルが貼られたとき、目を疑った。そこにはしっかり漢字で『神社声援』と書かれていた。カタカナでも英語でもなく、漢字。それも当て字。ヤンキーが『ぶっちぎり』のことを『仏恥義理』と書くと聞いたことがあるが、ほぼそれだ。私は、周りからなるべくラベルが見えないように工場の隅で小さくなって出荷を待つしかなかった。

三重で生まれた私だが、トラックに数時間乗せられて着いたのは東京の神田明神という場所だった。商売繁盛や仕事運の神様がまつられているらしい。

神田明神に着いてからも、すんなりと店頭には並ばなかった。まず“神田明神の声援を込める”という。声援を込めるとは一体どういうことなのか。そこの記憶がすっかり抜け落ちているので、どういう風に声援を込められたのはわからないが、気づけば力がみなぎっているように思えた。ドラゴンボールでいうナメック星の最長老さまのようなことが行われたのだろうか。

店頭に並べられて数日が経った。『神社声援』という名前が話題になっているようで、若い客が同僚たちを買っていく。SNSにアップしていいね!をもらうらしい。周りを見渡せば、『ラブライブ!』や『僕のヒーローアカデミア』とのコラボ商品も売られている。そういうのに積極的な神社らしい。嫌いじゃない。

ある日、男が1人でやってきた。年齢は30代、見た目はコロチキの西野に似ている。もう少し太っていたときはかまいたちの山内と言われたこともありそうだ。男は「これください」と私を指さした。「神社声援ください」と口に出すのは恥ずかしいのだろう。気持ちはわかる。

男はきっちり280円を払うと、神社に設置されているベンチに座り、さっそく写真を撮り始めた。こいつもSNSに毒されたクチか。仕方ない。男はそのまま栓を開け、一気に私を飲み干した。どうだ、生の生姜が効いた本格的な味だろう。

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男は売店に戻り、空き瓶を店員のおばちゃんに返却した。するとおばちゃんは「はい、これご祈祷した5円玉ね。大事に使ってね」と言って、『心願成就』と書かれた袋に入った5円玉を男に手渡した。男の顔には「大事に使うって、いつ使えばいいんやろう」と思いっきり書いてあった。

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かくして、私は役目を無事終えた。神田明神の声援が効いたのか、男の携わった特番とやらは結果を残せたらしい。しかしSNSで「B’zのライブチケットが当たらない」と毎日のように書き込んでいるが、これは神田明神の管轄外なので自分で何とかしてほしい。

#Bz #ジンジャーエール #神田明神

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