見出し画像

僕はそのカツカレーが僕らの知ってるカツカレーだと疑いもしなかった

 その日なんとなくカツカレーが食いたくなった私は近所のとんかつ屋にいった。ほかにもいくつかのカツカレーが食える店が頭に浮かんだが、その店がいちばん寄り道せずに行ける店だったしカツカレーは頼んだことないけどとんかつはウマかったからまあ安心だろうという気持ちからである。

 その店はいわゆる「街のトンカツ屋さん」というカンジで小さなお店でおじさんとおばさんの夫婦だけで経営してるカンジのまぁなんかそういうお店である。トンカツだのオムレツだのはうまい。が、カツカレーはさっきも言ったが頼んだことがなかった。メニューを見てみるとカツカレーのほかにコロッケカレーとウインナーカレーもある……。ここでひとつ疑問が浮かぶ。カツカレー、コロッケカレー、ウインナーカレーの3つとも同じ値段なのだ。730円(ちなみにふつうのカレーは580円だった)。ふつう、この3種が並んでいればカツカレーが少し高いのではないだろうか。店によってはウインナーはカツカレーと同列に並んでいることもある。だがコロッケも同じ値段とは少し不思議だ。どちらにしろカツカレーのカツも新しく揚げるわけではなく揚げ置きだから手間は変わらんとかそういう理屈だろうか。

 注文をすると揚げ置きはどうやら使ってないらしいことがわかった。なんか揚げてる。なんだろう。

 ほどなくしてカツカレーが供される。

 え! なにこれ。私の知ってるカツカレーと違うんだけど。

 なんか揚げ物が3つも乗っている。カツカレーというよりカキフライカレーとかそういうものを連想させる見た目だ。いったいなぜ? もしかして……上げる前に切り分けたとかそういうことなのだろうか?

 見覚えない佇まいのカツをカレーに浸しつつ食べてみる。硬い。歯ざわりが、硬い。断面を確認しようと噛み切ってみようと試みるが、できない。わかったスジだこれ! 偶然ひとつめがそうだったのか? とふたつめのカツを食べてみる。スジだこれ!

 ここに来てこのカツカレーの正体がわかった。この店はトンカツ屋だ。そしておそらく、メインのトンカツをおいしく作る際に掃除をした、削った肉が余るんだ。そしてその肉がもったいないから揚げてカレーに乗せてるんだ……。なんてことだ! 私は盲目的に、カツカレーといったらロースカツカレーのことだと疑うこともしなかった。だが実際はなんかスジだらけの硬い、ふつうは棄てる部分の肉を揚げたものがカレーに乗っていたのだ!

 悲しい。だが店は嘘は言ってない。だってロースカツカレーなんてメニューに書いてないんだから。カツカレーとしか名乗ってないんだから肉のどこをカツにしようと自由ではある。だからこの料理に文句をつけることはできない。いや、あんまり……全然美味しくないけど。カツが。

 そして悲しくなるだけだったかというとそうでもなく、意外なほどカレーが美味しかった。マジでほかの下手なカレー屋よりうめえ。だったらロースカツ乗せてくれよ!!!

 とにかく、次にこの店に来たときはカツカレーは頼まない。コロッケカレーかふつうのカレーにしよう。そう思ったのだった。


読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます