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人生を変えた一言

大学3年生の頃、他大学に通うS君をクラスメートが紹介してくれた。キャンパス内のカフェテリアでの、何気ない出会いだった。

それから、幾度となく大勢で遊ぶ様になり、数年後にはふたりで出かける事も多くなった。互いにパートナーの事を相談したりして、S君は女友達同然だった。むしろ、女友達よりも気楽に何でも話せたし、彼にとっても私は同様の存在だったと思う。

互いに社会人となり、パートナーがいる時もいない時も、気のおけない友達としてよく遊んだ。社会人になった私たちの定番の遊びは、「モデルルームのはしご」だった。買う予定はなくても、家を見るのが好きと言う共通の興味があったからだ。

程無くして、S君はアメリカで、私はカナダで、それぞれの道を歩むようになり遊ぶ機会も減っていったが、会えば悪ふざけもしつつ、キャリアや人生について、他の男友達とはあまりしない様な真面目な話もした。

とある日、夜中におしゃべりしていた時のこと。彼が放った何気無い一言が、私の生き方を大きく変えた。

「人生って、いろんなことを経験する為にあると思うんだよね。だから、何でもやってみた方がいいと思うんだ。」

当時の私は、安全な道を選び、既定路線から外れない様にと人生を歩んでいた。16歳から海外留学をして既定路線を逸脱しまくっていて説得力が微塵も無いが、「高校→大学→就職→キャリアを積み定年退職に備える」と言うレールの上をまっしぐらだった。

一方S君は、大学卒業後に長期に渡るアジア放浪の旅に出たり、「アメリカの方が稼げるから」とシアトルに引越したと思ったら、「太陽が燦々と降り注ぐカリフォルニアに住みたい!」と、サンフランシスコに引越したりと、ダイナミックに動き回っていた。

その上、多趣味で好奇心が旺盛な彼は、バレーボール、ハイキング、ドラゴンボート、スノーボード、コイン収集、投資、カメラ、ワインなど、いろんなものを好きになる達人だった。また、質問上手な人で、人からいろんな知識を得てどんどん博識になっていった。奥さんにプロポーズする直前には、ダイヤモンドにも相当詳しくなっていたのには驚いた。

そんなS君のお陰で、私も「可能な限り、何でも一度はトライしてみよう、好奇心を持とう」と思う様になった。

結果、怖かったけれどキャリアチェンジをしてみたり、5週間と言う短期間ではあったがヨーロッパひとり旅にも出かけた。勤めていた会社でカヤックの体験会があると聞いては参加し、ヨガのクラスを開催すると聞けば参加したりと、小さな事にもあれこれトライする様になった。船酔いが心配で乗り気ではなかったクルーズ船の旅も、高さ150mの丘の上から海の上を滑り降りる全長約800mのジップラインも、やってみたらどちらも大好きになった。

あまり関心のないものでもとりあえず一度はやってみる、何事もやってみないとわからない、と言う気持ちになったのは、S君の言葉があったからだ。彼の一言が無ければ、まるで興味のなかった結婚もしなかったと思うし、女性らしさとは縁遠い私がフラダンスに手を出す事もなかっただろう。

今となってはS君を紹介してくれたクラスメートとは疎遠になったが、S君は数年会わなくても友達で居られるかけがえの無い友人だ。日常的には、これまた共通の趣味であるウルトラマンや犬やハワイの話題を、ごくたまに挨拶代わりに送り合うだけの付き合いだが、会えばすぐに深い話ができる。

当時は無難な道ばかりを選び、石橋を叩いて渡る前に割っていた私にとって、大切な一言を告げる為に現れたのかもしれないとさえ思ったS君。これ程にも貴重な友達が一生の間に一人でも、ほんの一瞬だけでも私に寄り添ってくれた事によって、私の人生に少し彩りが出た。

その彩りは時間と共に、そして新たな出会いの数々によって色を増し、一段とカラフルになった。勿論モノクロも素敵だし、カラフルである方が優れているとは思わないが、カラフルな世界も見られた事が嬉しい。

そしてこの先どんな事があっても、私はS君に出会えた事に感謝し続けるだろう。

aloha & mahalo.

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