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巡礼11日目〈ビジャマヨール・デル・リオ~ビジャフランカ・モンテス・デ・オカ、16.7km〉

同室の夫婦に別れを告げ、また歩き出す。

ゆったりとした様子の、とても素敵なふたりだったが、最後に奥さんのほうから名を尋ねられ、互いに名前を名乗りあったのもなんだか気持ちがよかった。出会ってすぐに儀礼的に名前を聞くのは当たり前のことだが、別れ際に名を尋ねるのは、「この先の人生においても、あなたに興味がありますよ」というサインに感じられたから(例え2度と会うことはなかったとしても)。彼らの名前は、ゲイリーとジニーだった。

単調な道が続き、ただただ歩き続けることに飽きたせいか、今日は夫があきれ返るような下ネタ――セクシーなものではなく、小学生が好むような――を繰り返す。道に落ちている牛フンにはしゃぎ、私が胸の上にぐっと食い込むバックパックのベルトを装着しているせいで“巨乳”に見えるといってはしゃぎ……げんなりした顔を見せてみるが、止まらない。しつこく繰り返されると、あまりにバカバカしく、こちらも「フフッ」と笑ってしまう。するとまた大喜び……。 

でも、私たちにはちょっとつらい別れが一度あったから、夫がそんな風に自然体(?)で笑って無邪気に過ごしている姿を見られるのもまあ、幸せなことなんだと思うことにする。

昨日たくさん歩いたから、と、今日は昼過ぎに目的地のビジャフランカ・モンテス・デ・オカ(Villafranca Montes de Oca)に到着し、はやめに宿に入ることにする。今夜の宿は、なんと高級ホテル!……に併設されたアルベルゲ。雑魚寝をするような格安の部屋もあったけれど、少しだけ贅沢をして、ベッドが並べられた集合部屋に決め、ひとり10€を支払う。

まだ風邪のだるさが残っていて、夫とふたりで長々昼寝をして起き出すと、同室のいかにもアメリカ人といった機嫌と勢いのよい大柄の男性が、突然「ハイ!俺はジムだ!」(本当にこんな口調だった)と握手を求めてきた。「あ、どうも……」と寝起きの機嫌で挨拶を返すと、彼は元気のない私たちをちょっと気味悪そうな目で見た。いつでもテンション高くなんて、いられない(とくにこんな旅の途中では)。

そういえば昨日、夫がジニーに「カップルだ」と自己紹介をしたとき、彼女に「カミーノで出会ったの?」と尋ねられた。あわてて”ちゃんとした”夫婦だと訂正すると、彼女はちょっと意外だというような顔をした。私たちは、旅で出会ってすぐに付き合い始めたようなふたりに見えるのだろうか? まるでオママゴトをしているような? だとすればなんて大がかりなオママゴトだ。なにしろ私は日本に本当に多くのものを置いて、出てきてしまったのだから。

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※夫の手記はハフィントンポストで連載しています。→起きて、歩いて、食べて、寝る。巡礼旅の日常風景

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