都立家政で鍋をつつく

なぜその6人が集まったのかはわからない。普段からつるんでいたというわけでも、特別気があうわけでもなかった。大学の同じクラスの友人に、「鍋をするからおいでよ」と都立家政のアパートに呼び出された。

アパートは当時私が住んでいたマンションの隣駅にあったが、妙なところで自意識の強かった私は一番乗りで到着するのがなぜか恥ずかしく、わざわざ皆より少しだけ遅れて行った。部屋にあがると、すでに鍋の具材は寂しくなりつつあり、他の5人はできあがっていた。もう卒業後の進路が決まっていた頃で、なんとはなしに皆で今後のことついて話し始めた。

私はすでに半期大学に残ることを決めていて、5人はそれぞれ内定をもらった会社に入るのだと言った。東京、大阪、北海道、群馬。それぞれがそれぞれの道を決め、今だけはと昔を懐かしみ、大いに騒いだ。この場にしんみりとした話はそぐわなかったので、私も笑い声をあげた。

特に仲良くもない6人、カラカラになったキムチ鍋と安い酒。その晩終電を理由にあとにしたその家の記憶は、私が恐れていたとおり薄れつつある。
私が何もしなくても、皆勝手に就職し、勝手に引っ越し、勝手に結婚し、勝手に生きる。寂しいことのようにも、当たり前のことのようにも思った。

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