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書籍「仕事と人生がうまく回り出すアンテナ力」 ~「はじめに」「序章」公開しちゃいます~

改めまして、吉田将英と申します。

広告会社で人の心を動かして行動してもらう仕事を、いろんな領域でやっていたり、プライベートでも様々なトピックで企画したり講演したりしています。具体的には、こんな仕事やら活動やらをしてきました。

今年の4月に、そんな企画やプロデュースをしていくうえでいつも意識している「好奇心を大事にする方法」を一冊の本にして、「仕事と人生がうまく回り出すアンテナ力(三笠書房)」という名前で出版しました。ビジネスハウツー本のように見られることもありますが、ほんとに書きたかったのは、やっぱり好奇心のことです。その時の思いのnoteはこんな内容。 

出版から半年経った今、より多くの人にこの本に触れてもらう機会を届けたいと思い、「はじめに」と「序章」を全文公開します。自分が好奇心に対して抱いている可能性と問題意識について、読んでもらえたらと思います。そして、できれば本体の書籍を手に取ってもらえたらうれしいです。

好奇心と上手に向き合える人が少しでも増えれば、世の中もっと、シンプルに、明るく、他人の足を引っ張ったりする人が減って、前に進むと本気で思うので、広まれ広まれーーーー…!



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仕事と人生がうまく回り出すアンテナ力
~人、情報、チャンスが集まる仕組み~

はじめに

「情報・人・チャンス」が飛び込んでくる仕組みをつくる
そして、集まってきたものを仕事や人生に生かしていく――

 これが本書でいう「アンテナ力」です。

 僕たちの周りには、おもしろい情報や人、チャンスのきっかけがあふれています。仕組みを使って効率的にそれらを集めれば、仕事も人生もうまく回り出すのです。

「そういうあなたは誰なんだ」と思われそうなので、少し自己紹介をさせてください。僕は、電通という会社で、さまざまな企業や組織を「アイデアで活性化させる仕事」をしています。戦略プランを立てたり、共同プロジェクトを実施したり、会議のファシリテーションをしたり……。さまざまな形で関わっているため、最近は「自分はどういう仕事をしているのか」を一言で言い表せずに困ることもあります。また、「電通若者研究部」の研究員として、大学生たちと月に何度かミーティングを行ない、彼らと企業のコラボレーションをサポートする活動をしています。

 会社の仕事以外では、「世界ゆるスポーツ協会」や「考好学研究室」などといったプロジェクトを立ち上げたり、運営したりしています。

 さらには、1年に100本の映画鑑賞、週に一度のサウナ通いなど、趣味の時間も楽しんでいます。また、毎年、20種類の「初体験」をするというのも決めていて、つい先日は、自分の好きな香りを見つけるワークショップに行きました。

 こんなふうに、今ではいろいろな活動をしていますが、以前は、日々の仕事をこなすのがやっとで、会社外の活動や趣味などに全然時間を使えていませんでした。それをなんとかできないかと試行錯誤した結果、少しずつ効率的に情報収集や人付き合い、チャンスの獲得ができるようになり、日々の仕事や生活がうまくいくようになっていったのです。つまり、本書の内容はすべて、もともとは僕自身の切実な必要性から生まれたものだということです。僕が変わることができたのは、アンテナを張ることで、情報や人、チャンスが「向こうから飛び込んでくる状態」をつくったから。

 情報を集める、人と付き合う、チャンスをつかむ、というと、自分のほうからアプローチして成果を得るイメージがあるのではないでしょうか。とはいえ、自分からアプローチをかけるのは、やっぱり大変です。狩りに出るライオンのように、毎回、毎回、かなりの労力をかけなくてはいけません。一方、ふだんから「アンテナを張って日々を過ごしている」と、はるかに効率的に、質のよい成果が得られるようになります。情報も人もチャンスも、「自分から動いて得る」より、「向こうから飛び込んでくる」ほうが、じつは多いものなのです。

 だから、アンテナを張ると、たとえば、こんな「いいこと」があります。

✓ 取りに行かなくても、情報が勝手に「集まってくる」
✓ わからないことがあっても、誰かが「教えてくれる」
✓ 自分の存在や使った言葉を相手に「覚えてもらえる」
✓ チャンスに気づいたとき、すぐさま「捕まえられる」
✓ 重要な判断をするとき、自信を持って「決められる」

 さらに、アンテナを張ることで、「センスのいい人」「アイデアがある人」になれる、というのもポイントです。みなさんの周りにも、「いつもいい視点で物事を見ている人」や「みんなが思いつかないようないいアイデアを出す人」はいませんか?そういう人を見ると、往々にして人は「あの人は感覚が鋭いから」「天才的な発想を持っているから」などと「天性の違い」として片付けがちです。でも、その「センス」「発想」は、多くの場合、じつは天性のものではありません。センスのいい人、アイデアがある人は、天才に生まれたわけではなく、物事との関わり方が違うのです。

 具体的にいうと、物事と「点」で関わるか、「線」で関わるかの違いです。

 たとえば、「明日は企画書の提出日だ」と気合を入れて資料集めをする。これは、いってみれば「点」の関わり方です。一方、「明日は企画書の提出日だ」という日に、これまでに収集してきた情報からアイデアを考える。これは「線」の関わり方です。比べてみれば、「線」の関わり方のほうが、効率的で、肩の力は抜けているのに精度は高い、ということがわかってもらえると思います。センスのいい人、アイデアがある人は、そのつど、ゼロから天才的なひらめきを得ているわけではありません。アンテナを張り巡らせ、周囲の物事と「線」の関わり方をして、日常的に情報、人、チャンスを集めている。そうやって底上げされた「状態」で考えたり動いたりしているのです。

 このように、「センス」や「発想」は天性のものではないのだから、その「状態」を自分でつくれば、誰だってセンスのいい人、アイデアがある人になれる。みなさんも、そんな自分のポテンシャルにかけてみてほしいと思って、本書を書きました。

 というわけで本書では、僕自身が、日々の仕事や生活を楽しく、有意義にするために編み出した「アンテナの張り方」を紹介しています。これから、みなさんのアンテナに、多くの「情報」「人」「チャンス」が舞い込みますように。そして、本書が1人でも多くの人にとって、仕事もプライベートも充実していくきっかけになればと、願っています。

吉田将英 

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序章
「アンテナ力」で仕事も人生もうまくいく
「3つのアンテナ」で、超効率的インプット!

「欲しいもの」「必要なもの」だけ集めよう

 情報、人、チャンスを効率よく集め、仕事と人生に生かすには「アンテナ」が必要。 それも「自分のためにカスタマイズした、精度の高いアンテナ」が――。

 ではどうやったら、そんなアンテナを張ることができるのか? 
 これからお話ししていくのは、僕が、ここ10年ほどの間、いろいろと試すなかでつくってきた「アンテナ設置法」です。いってみれば、何度もテストを繰り返した末にできあがった「自分のアンテナの取説」です。

 そんな試行錯誤を繰り返してきたのは、何より僕自身が、ちゃんとアンテナを張っていなかったために「仕事と人生がうまくいかない時期」があったからです。当時は、そもそもアンテナが必要だという発想すらありませんでした。

 社会人2、3年目のころ、僕はビジネス書を読み漁っていました。「勤勉」といえば聞こえは悪くないけれど、すべては「不安」の裏返し。話題のテーマやベストセラーは、すべて読んでおかないと「社会人としてやばい」という思いに駆られて、次から次へと手に取っていました。

 でも、どれほど読んでも不安は消えないし、1冊読み終えるころには、また別の話題本が出ていて、「読むべき本リスト」はどんどん長くなっていく。いったいどれだけ読んだら、この漠然とした不安が消えるんだろう。自信を持ってやっていけるんだろう……。20代前半は、いつもそんなモヤモヤを抱えていました。しかし、それから10年あまり経った今なら、当時の自分に、はっきりと、こういってやれます。

 読んでも読んでも不安なのは、
「流行」や「話題」に流されているからだよ!

 

 どういうことかというと、たとえば……、

✓いくら流行のテーマを追いかけても、自分自身が「おもしろい」と思えなければ身につかない
✓いくら世間で話題になっていることでも、自分の中に「知っておくべき理由」がなかったら、すぐに忘れてしまう

 ということ。
 裏を返せば、自分が「おもしろいな」と思えないもの、「知っておくべき理由」が見出せないものは、追いかける必要なんてないんじゃないの?という話なのです。

 そんなの当たり前だと思うかもしれません。
 でも、実際には、いったいどれほどの人が、自分自身で理由づけをしたうえで情報に触れているのでしょう。残念ながら、20代前半のころの僕は、そんなこと、考えもしませんでした。だから、世間的に「要チェック!」とされているものは、とりあえず全部、知っておこうとした。手当たりしだいに情報に触れて、頭に入れようとした。そうやって、なんでも知っている「情報通」になろうとした……。

 要するに、情報をとらえる自分のアンテナが、周囲に振り回されまくっていたわけです。樹海の中でグルグルと回り続ける方位磁針みたいに。それが、いくら本を読んでも不安が消えなかった理由――「仕事と人生がうまくいかない」一番の理由でした。

 自分の中に「その情報を集める理由」がなくては、いくら多くの情報に触れていても、自分の血肉となる部分は少なくなって当然です。ただ、そう聞いて、「情報に接するのに、いちいち理由づけをするなんて、ちょっと、いや、かなり面倒くさいな……」と思った人も多いのではないでしょうか。

 それはそうでしょう。僕だって、いちいちそんなことを考えるのは面倒だし、第一、それでは日々の仕事が追いつきません。だからこそ、アンテナを張り、「自分が欲しいもの」「自分に必要なもの」だけが入ってくるようにしていくのです。そんな話を、これからしていきたいと思います。

「一生懸命やっているのに……」という人へ

 ここで少し、「そもそも」な話もしておきましょう。
 そもそも、なぜアンテナを張ると仕事と人生がうまく回り出すのでしょうか。

 まず、「アンテナを張る」というと、「インプットを増やす」という意味で語られることが多いと思います。「より多くの情報を入れる」「より多くのメディアに接する」――そんなイメージです。
 でも、手当たりしだいにインプットを増やしても混乱し、不安に陥るだけ、というのは、20代前半の僕が身をもって実感したことです。あとでも触れますが、情報だけでなく、人付き合いも、「手当たりしだいに集めようとしても効果が薄い」という点では同じです。

 自分が欲しいものや自分に必要なものだけが入ってくるようにするには、当然、「いらないもの」をはじくことが必要です。つまり、「いらないもの」がはじかれるようにする、「欲しいもの」「必要なもの」が入ってくるようにする。この両面がそろってはじめて、「アンテナを張っている」といえるのです。

「いらないもの」とは、言い換えれば「嫌い」「つまらない」「マイナス」……など、なるべく自分の人生に入ってきてほしくない「アンラッキー」なこと。「欲しいもの」とは、言い換えれば「好き」「楽しい」「プラス」……など、なるべく自分の人生に入ってきてほしい「ラッキー」なこと。 また、ラッキーの中には、自分がまだ「欲しい」「必要だ」と気づいていないような偶然の出会いや、一見無駄に見えるけれど実は自分を豊かにしてくれるもの、なども含まれます。

 そして、アンテナを張るというのは、仕事からプライベートまで、「アンラッキーを減らし、ラッキーを増やす仕組み」をつくるということです。
そんな仕組みがつくれたら、いったい何が起こるでしょう。だんだんと「アンラッキーの最小化×ラッキーの最大化」に近づいていくのです。この掛け算が実現している状態こそが「仕事と人生がうまく回っている」ということだと、僕は考えているのです。

 一生懸命努力するのは、すばらしいことです。
 しかし、ただ一生懸命なだけだと、意外と多くの「アンラッキー」が混ざってしまうもの。そのせいで仕事と人生がうまくいかないという、思わぬトラップにはまりがちです。そんな「一生懸命やっているのに、どういうわけかうまくいかない……」という思いを抱えた人にこそ、僕は本書を読んでほしいと思っています。

 本書でご紹介する方法でアンテナを張れば、歯車がクルクル、コロコロと心地いいリズムで回り出すかのように、仕事と人生がぐんぐんはかどり出すでしょう。

人間の集中力は〝金魚〟以下!?

✓ 2020年には、「44ゼタバイト」もの情報が飛び交う
✓ 現代人の集中力は「金魚以下」

 これだけ聞いても「?」という感じだと思いますが、どちらとも、ひと言でいえば「情報をすべて集めるのは無理!」ということを示しています。
「ゼタ」とは、10の21乗。言い換えると「1ゼタバイト=1兆ギガバイト」で、44ゼタバイトは44兆ギガバイト。とにかく「途方もない量」です。IT専門の調査会社IDCが発表した試算によると、2020年には、そんな途方もない量の情報が飛び交うだろうと予測されているのです。

 では「現代人の集中力は金魚以下」というのは何かというと、マイクロソフト社の研究チームが2015年に行なった、ある実験からきています。 約2000人の参加者の脳波などを計測したところ、集中の持続時間は「約8秒間」でした。ちなみに、2013年の同様の実験では「約12秒間」だったといいます。この比較からも、現代人の集中力は確実に衰えていることがわかりますが、とくにこの実験結果をショッキングなものとしたのが「金魚」との対比でした。じつは金魚の集中の持続時間は「約9秒間」といわれています。つまり、人間の集中の持続時間は、ついに金魚すらも下回ってしまった……というわけです。

 それほどまでに、人間の集中力が続かなくなっている。その最大の要因は、やはり飛び交う情報量の増加です。四方八方から情報が飛び込んでくるために、人間の脳が次から次へと「目移り」してしまっている状態なのです。すべての情報を集めるなんて到底できないし、絶えず飛んでくる情報にいちいち反応していたら、僕たちの集中力はさらに下がり、何ひとつモノにできない頭になってしまうに違いありません。

 こうした時代背景からも、アンテナを張る重要性は、否応なく増しています。これだけ情報があふれているなかでの情報収集は、どこか「漁」に似ていると思います。仕掛ける網が、とりあえずなんでもすくい上げる「地引網」では、たちまち情報過多になって混乱してしまうでしょう。かといって「一本釣り」では、釣り上げるたびに大きな労力がかかって、すぐに疲れてしまいます。情報の海に網を投げる。それも、目が粗すぎず、細かすぎず、ちょうどいい塩梅の網を投げる。「アンテナを張る」というのは、情報においては、「欲しい魚」だけかかるように、網の目を調整するようなものなのです。

 1章で詳しく説明していきますが、それはたとえば、

✓ 「マイ賢者」を持つ――周りの人が自分の欲しい情報を教えてくれる
✓ 「定点観測地」で変化を観る――観察場所を決めることで、変化に自然と気づける
✓ 「好きなもの高精細メガネ」をかける――「好きなもの」を意識して世の中を見ることで、自分にとって有用な情報が飛び込んでくる

 といったこと。このように網の目を調整してしまえば、自分の求めている情報が自動的に集まり、蓄積されていくのです。

SNS全盛期、だから「ラクにつながる仕組み」を

 ここまで、主に「情報収集」という文脈でお話ししてきましたが、アンテナを張ることで集まってくるのは情報だけではありません。本書の章立てからもわかるように「人とラクにつながる」、さらには「チャンスが自然とつかめる」というアンテナを張ることもできるのです。

 20代のころ、あふれる情報の中で混乱し、不安を募らせていた僕は、同様に、人間関係でも迷いに迷っていました。

 僕は、もともと人付き合いが得意ではありません。
 それでも、「人と会ったほうがいい」「人脈を広げなくちゃ」なんて思って、無理して飲み会や交流会に顔を出していました。でも、ほとんど成果を得ることができず、ただ疲れて帰ってくるだけ、というのを繰り返していました。当時の僕が陥っていた大きな勘違い、それは「人脈は広げれば広げるほどいい」ということでした。

 つまり、人付き合いの価値を「量」で計ろうとしていた。手当たりしだいに情報に触れようとするのと同じで、手当たりしだいに人に会おうとして疲弊していたのです。

 今ならはっきりとわかりますが、人付き合いで大事なのは、「量」ではありません。「量」ではないのだから、闇雲に人と接すればいいわけでもありません。これも情報と同じで、大事なのは、自分の中の「理由づけ」です。

✓ どんな人とつながっていたいのか?
✓ どんな集まりだったら参加したいのか?

 こうした意識を欠いたまま人に会っても、いい人付き合いはできないのです。自分の周囲にあまりにも多くあふれていることで、かえって不安になる。この現代特有のジレンマ構造が、情報と同様、人間関係でも生じているのです。

 きっと、みなさんにも思い当たるはずです。たとえば、SNSが普及したことで、人とのつながりが「自然消滅」しなくなっています。直に会うことはなくても、SNSでつながっている。ひと昔前にはなかった形態で、「つながりの総量」は増え続けるいっぽうです。そして、関係は薄いものが多いとはいえ、なまじ大勢の人とつながっていると、自分というものを見失いがちです。

「SNSの向こう側にいる大勢の人たちに、自分がどう見られているのか?」

 そればかり気にして、「自分のしたいこと」ができなかったり、そもそも「何をしたいのか」がわからなくなったりする人が、若い人を中心に増えているように思えるのです。

 つながりの総量が増え続けているなかで、人間関係に疲れを感じてしまう。でも、さっきもお話ししたように、人間関係で大事なのは「量」ではありません。自分の中でしっかり理由づけをして、必要な人と、必要な分だけ付き合うことが大切なのです。アンテナを張って、無理せず、有意義な付き合いができるようになれば、人とのつながり方に悩むこともなくなっていくはずです。

「チャンス受け入れ仕様」にアップデート

 では「チャンス」はどうでしょうか。

 チャンスは自分でつかむもの――とはよくいわれること。しかしそれだと、仕事術や思考術など、何か具体的な「技」を磨いて、「チャンスを取りに行ける自分」になろう、という話になりがちです。

 でも、本書でお伝えしたいのは、もっと根本的な土台づくりのこと。パソコンで考えるとわかりやすいと思うのですが、仕事術や思考術がチャンスをつかむための「アプリ」だとすれば、本書でお話しするのは、自分の「OS」を、チャンスを受け入れられる仕様にアップデートしておこう、という話なのです。もしみなさんが、「自分にはチャンスが訪れない」「全然つかめない」と感じているとしたら、それはアプリの問題というより、そもそものOSが、「チャンス受け入れ仕様」になっていないからかもしれません。

 本書でいうチャンスは、じつは、そこら中にふわふわと漂っているもの。突如として「現れるもの」でも「訪れるもの」でもありません。周囲に対する見方や、日々の習慣を少し変えてみることで、身のまわりのヒト・モノ・コトがチャンスに変わっていくのです。

 僕も仕事柄、チャンスを次々とモノにしている人に会うことがありますが、そういう人は、特定のチャンスに向かってがむしゃらに努力するというよりも、目の前のものや人、起こっていることをうまくチャンスへと変換させています。そういう土台をつくっていくことが、本書でいうところの「チャンスのアンテナを張る」ということなのです。

アンテナを張ると「アイデア体質」になれる理由

 ピカソにまつわる、こんなエピソードを知っていますか?
 あるとき、カフェで一服しているピカソに気づいたウェイターが、「絵を描いてくれないか」とお願いします。するとピカソは、鉛筆を取り出して、紙ナプキンにサラサラと、ものの30秒で絵を描き上げてくれました。ウェイターは喜び、「ありがとう。お礼にここのお代はいらないよ」と言いますが、ピカソは急に怒り、「何を言っているんだ、この絵の価値は100万ドルだ」と返します。これに驚いたウェイターが「そんなバカな! たった30秒で描いた絵じゃないか」と言うと、ピカソは「違う。40年と30秒だ」と言い返したというのです。

 僕はこの話が大好きで、よく会社の後輩や、仕事で接する学生さんたちにも話しています。じつは場面設定や金額などには諸説あり、本当のところは、よくわかっていません。でも、たとえ架空のエピソードであったとしても、大事なことを教えてくれていると思うのです。
 それは、「積み上がっていくもの」には価値があるんだ、ということ。今このときに、たった30秒で仕上げた絵でも、そんな絵が描けるようになるまでには、何十年分もの蓄積がある。だから、その年数に見合うほどの価値があるんだと、ピカソは伝えたかったのです。

 これは、「アンテナ」にも通じる話です。今日、アンテナを張れば、1年後には1年分、2年後には2年分の「ラッキー」が蓄積されていきます。その裏側では、「アンラッキー」がはじかれています。そして、そこから生まれるアウトプットの質も自然と差がついていきます。いってみれば、アンテナを張ることこそが、「発想力の源」であり「アイデアの原石」になる、ということです。選別されたものが集まってくることで、「思わぬ化学反応」が起きるようになるのです。

 たとえば、1年前にアンテナに引っかかった情報と、たった今、アンテナに引っかかった情報が、いきなり自分の中でバチーンとつながって、おもしろいアイデアが浮かんだりします。情報収集が、自転車操業的な行き当たりばったりだったり、「量」重視で闇雲だったりしていては、こうしたダイナミックな展開は起こらないでしょう。

 これは人付き合いでも同様です。

 かつて知り合って、しばらく疎遠になっていた人が、思いもよらないところで突然、力になってくれたりするというのも、じつはよくあること。そんなミラクルも、手当たりしだいに人と接している限りは、まず起こりません。

 新しい仕事を任されたときなどは、「蓄積されたもののありがたみ」を感じやすいと思います。その仕事に対する自分のパフォーマンスにも、先ほどのピカソの話が当てはまります。勝負は、「仕事を任されてから結果を出すまでの3週間」ではありません。

✓ それまで生きてきた数十年間で、どんな情報を得てきたか、どういう人
  とのつながりをつくってきたか
✓ いかにそれらを、目の前の仕事に向かって適切に引っ張り出せるか

 この2つが問われているのです。 
 となると、「3週間」でやっつけようとしている人が、「数十年と3週間」で勝負してくる人に勝つのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
 しかも「これまで受信してきたもの」を適切に引っ張り出せるようになると、効率が上がるだけではありません。
「ほかの人が3週間で考えたもの」とは違う、「オリジナリティが高いアウトプット」ができるようになります。

 こんなふうに、一見、関係ないように見えた情報や人との関わりが、バチーンとつながって新しいものが生まれる、というセレンディピティは、アンテナを張ることではじめて生じるものといえます。アンテナを張り続けていると、情報や人を通じて、いわば「アイデア体質」「発想体質」へと、自分を変えていくことができるのです。

「ここぞ!」のときに力を出すために

 アンテナを一度張ってしまえば、自分のスタンスは基本的に「受動」でかまいません。つまり、アンテナを張ることで省エネができ、情報収集や人付き合いやチャンス獲得のために、今まで無用に割いてきた労力が浮くということです。 すると何が起こるでしょう?

 浮いた分の労力を、本当に必要なところに使えるのです。たとえば、ちょっとがんばって、情報からアイデアを考える、もう一歩踏み込んだ人付き合いをする、新しい挑戦をしてチャンスをつかむ……まとめていえば「ここぞ」というときに、頭と体を使えるようになります。人の労力は有限です。その前提からすれば、本書の最終的な目的は、アンテナを張って「基本、受動でいい」という状況をつくり出すことで、本当に必要なときに能力を発揮できるようにすること、といってもいいでしょう。

 さてここで、ちょっとした「見取り図」的に、これからお話ししていきたいことの概要をまとめておきましょう。

✓「情報」が勝手に集まる仕組み
 欲しい情報も、必要な情報も集まってくるようにして、省エネ化しようということ。また、意識しないとどんどん流れていってしまう「じつは大事な情報」を確実にとらえ、蓄積していこう、ということでもあります。こうして情報が集まり出すと、物事を見たり考えたりする際の発想力、アイデア力がたくましくなります。

✓「人」とラクにつながる仕組み
 内向的な人でも、ラクにコミュニケーションを取れるようにして、人付き合いのハードルを下げていくこと。また、自分からアプローチしなくても、人から誘われたり、呼ばれたりするようになること。今ある付き合いが有意義になったり、人間関係の幅が広がったりします。つながっている人からもたらされる有益な情報も増えていくはずです。

✓「チャンス」が自然とつかめる仕組み
「チャンスを受け入れる土台」をつくっていこうということ。まだピンと来ないかもしれないけれど、やってみれば、徐々に変化を感じられるはずです。今まではチャンスとも思っていなかったことを、チャンスとして生かせるようになっていくでしょう。
 たとえていえば、ここで紹介するのは、対症療法的な西洋医学ではなく、じわじわ体質改善していく東洋医学。実践することで、いつの間にやら「チャンス体質」になっていく。そんなイメージです。

 これからお話ししていく中に、ハードな方法はほとんどありません。なかには、「え、そんなことで?」と思うようなものもあるでしょう。それでも意識的に行ない、仕組みとして確立すれば、仕事と人生は今よりずっとうまく回り出すようになる。それでも意識的に行ない、仕組みとして確立すれば、仕事と人生は今よりずとうまく回り出すようになる。そんな「効果効能」を想像しつつ読み進めてもらえたらうれしいです。 


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「はじめに」「序章」はここまで。完全版を読みたくなっていただけたならうれしいです…!完全版には、かわいくてわかりやすい中尾仁士さんのイラストや、「マイ賢者」「関心の因数分解」「余白の日」など具体的にどう日々行動すると好奇心を鋭敏にし続けられるかを紹介しています。

また、本を出して嬉しかったもう一つのこととして、この本をご縁の起点に、いろいろなイベント登壇のご縁をいただいたことです。上梓から早半年たってしまいましたが、引き続きイベント登壇のお誘い、お待ちしております!

それでは、またー!感想お待ちしております。

サポートありがとうございます! 今後の記事への要望や「こんなの書いて!」などあればコメント欄で教えていただけると幸いです!