あいあむ

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最近の記事

わたしのたいせつなおしごと

夕飯どうしようかな、冷蔵庫の中何が入ってたっけ、なんて考えて、目の前の白髪頭にはっとする。一瞬のワープ。白髪頭の男は喋り続けている。わたしは話の合間を見計らって相槌を打つ。聞いてますよ、のアピール。 話がつまらない。これって相当な罪だと思う。他人の時間と精神力を奪うのだから、立派な窃盗だ。この男とわたしの間にははっきりした従属関係があるので、「敬う」というポーズが必要だけど、例えば彼が父親だったら、友人だったら、今のように笑顔と呼ばれる何かを顔に貼り付けたりはしない。

    • 愛され慣れていないもので

      きらいじゃない。むしろ好きだ。シンプルな考え方もストレートな伝え方も、見ていて気持ちがいい。優しい言葉、楽しい話題、紳士的な振る舞い。これら全部、目的を達成するためであり、その目的は女を抱く、ただそれだけ。わかりやすくて好ましいじゃない。ホテル誘われた?行ってきなよ、一夜限りだし楽しんできな、なんて言っちゃう。他人事だから。 当事者になると話は別。今この瞬間、あなたはこの世でいちばん信用できない人です。その笑顔も甘い言葉も全て逆効果です。ちゃんと手順踏んでください。自己

      • こんな方を募集します(希望人材)

        社会的問題の解決に関心があり、目標の実現に向けて地道な努力を積み重ね、何事にもていねいに向き合い、工夫改善を続け、環境や他人のせいにせず、自分の意見を発信することが出来て、多様性を認めながら豊かな人間関係を育み、自己成長を続けられる人 あんたの会社は神さまでも募集してるのか? #エッセイ #ひとりごと

        • さよなら、サラリーマン

          本日が最終出社日となりました。入社以来35年間大変お世話になりました。今後は穏やかな暮らしを楽しみつつ、少し早目のお迎えがくればいいかな、と思っています。それではみなさまお元気で。 彼はそう言って笑った。それを聞いたみんなも笑った。でも、わたしは笑えなかった。笑ってあげればよかったと思う。寂しいお別れの言葉。わたしが生まれる前から働いていた人。 会社は働いた分お給料をくれる。でも、人生まで保証してくれない。 #エッセイ #ひとりごと

        わたしのたいせつなおしごと

          金曜日、渋谷で

          本気だよ、と彼が言う。 嘘だ、と思う。わたしは微笑む。彼に会うのは2回目だ。時間に換算すれば4時間程度。その間にお互いが得た情報は、職業と年齢と家族構成、それだけ。好きになる要素としては少なすぎる。いや、もしかしたら多すぎるのかもしれない。 彼は同じ台詞を繰り返す。誰に向かって言っているのだろう、と思う。わたしなのか、それとも自分自身なのか。おそらく、どちらにも。わたしは微笑む。 気付かないフリと傷付かない方法をわたしたちはそれぞれ身に付けて出会った。だから

          金曜日、渋谷で

          価値がなくて役に立たないこと

          週末はこの世界から消えることにしてるの。 わたしは首をひねる。休日の過ごし方について話しているつもりだったけど、いつの間にか話題が変わったのだろうか。目の前に座る彼女は少し時間を空けた後、笑いながら口を開く。 ごめん、もったいぶった言い方だったね。最近、週末はずっと寝てる、下手したら2日で6時間も起きてないかも。それくらい寝てる。病気じゃないよ。平日は普通に機能してるし、問題ない。強いて言うなら、月曜日は頭と腰が痛いかな。でも、それくらい。 平日そんなに忙しいの

          価値がなくて役に立たないこと

          想像力が足りない

          出会ってから21年、付き合って19年、一緒に暮らし始めて16年。結婚はしない。子供はつくらない。ずっと2人で生きていく。「なにかあるんだろうね」と、陰で言う人もいるけれど、特に何もない。病気もない。犯罪歴もない。お互いの家庭環境もいたって良好。ちなみに、異性同士だ。ただ、結婚という形を取らなかっただけ。彼女は彼のことが大好きだし、彼は彼女を大切にしている。彼女たちには世界の秩序を守るための言葉や法がいらなかった。ただ、それだけ。 1ヶ月に1回彼女に会う。彼女のことは好きだけ

          想像力が足りない

          いくつになっても弟はかわいい

          わたし拓ちゃんと結婚したいのだけど、どうだろう。 兄弟は結婚できません。 明日法律が改正されたら結婚したいなぁ。 やだよ、俺はお断り。 拓ちゃんが家に戻ってきてくれて本当に助かってる。お母さんの機嫌も良いし。 それはよかった。 女だけの時に比べて2人共家事をするようになったし、男の人が家にいるだけで、ちゃんとした生活を心掛けるようになるもんだね。 そんなもんかね。 だから、いっそのこと拓ちゃんと結婚したいよ。 うーん、そうだな。だとしたら俺たちの結婚にはお母

          いくつになっても弟はかわいい

          ためしてから選んでください

          わたしはもう働かない。と、彼女は言った。わたしには人に合わせて働く能力がない。この3年でそれがよくわかったから、もう働かないことに決めた。でも、働かないと生きていけないから何か手に職を付けようと思うんだ。とりあえず、世界を見てくるよ。そう言って、彼女は行ってしまった。 わたしは笑顔をつくる。上司のどうでもいい話に心の中で舌打ちしながら。そうやってお給料をもらっている。これから定年まで40年くらい。「仕事があるだけ幸せ」「雇ってもらえるだけ幸せ」そういう世間一般の価値観の中で

          ためしてから選んでください

          オプション付け忘れていませんか

          神さま、五体満足につくってくれてありがとう。風邪はめったにひかないし、大きな病気もしていません。そりゃね、もう少し目が大きくて、足が細くて、頭の回転が速かったらって思うけど、そういうことは言い出したらキリがないから、もういいの。健康がいちばん。ありがとう。 そう、基本的には満足しているの。でもね、やっぱりね、1コだけ言わせてください。ブスだって、バカだって受け入れているんだから、これだけは言わせてください。 可愛い女の子が「くしゅん」とか「くちゅん」とかするやつあるじゃな

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          ことばのちから

          随分とご無沙汰しておりました。20年ぶりでしょうか。あの時のわたしはまだ幼くて、少し大人になってからあなたがすごい人なのだと知りました。あなたをTVやCMでお見かけする度に、誇らしい反面、どこか遠くへ行ってしまったような気がしていたのですが、今日は改めて、あなたが冷静で頭が良く、愛に溢れて、近くて遠い存在なのだと実感しました。 先日、谷川俊太郎展を訪れた。 わたしが「詩」と関わった時間は短い。淡いパステルカラーとイラストが表紙の横長の本。小学1年生から3年生まで教材として

          ことばのちから

          わたしが会社を休む理由

          電車の扉とホームドアが開く。 マイクを通して聞こえる駅員さんの声は、静かだけど怒りを含んでいる。電車の扉とホームドアが閉まる。そして、また開く。これで3回目だ。 無理なご乗車はお止め下さい。電車が出発できません。 先程よりも強く、怒りを伝える声。 内臓が冷えていくのがわかる。 目の前でおばさんが電車に乗り込もうとする。アナウンスは続く。身幅と車中のスペースの差などまるで気にしない。身体の半分は外に出たままだ。いつまでたっても扉は閉まらない。アナウンスは続く。 頭の

          わたしが会社を休む理由

          男の子のふしぎな世界

          「あの2人仲良いよね。」 「そうかな。」 「だって、いつも一緒にいるじゃない。」 「歩くスピードが一緒だからだよ。」 「歩くスピード?」 「あの2人は歩くのが遅いんだよ。」 歩くスピードでグループが決まる男の子の世界。よくわからない。 #エッセイ #ひとりごと

          男の子のふしぎな世界

          自由にだまされない

          ブランドバックを買う時、赤が欲しくても失敗のない無難なブラックを選ぶ人が多い。売れ筋が消費者の本当に望んでいるものとは限らない。 というニュアンスの話を最近どこかで読んだ。 食べ物に置き換えてみた。わたしはからあげが世界でいちばん好きである。できることなら毎日食べたいし、毎食だってどんとこい。でも、身体のことを考えるとそれはいけないことだとわかる。(とか言いつつ、2日に1回は食べている) 服だって同じだと思う。金額やコーディネート、TPOとの兼ね合いで選択してい

          自由にだまされない

          おとなになったこども

          「どうして大人はわたしの気持ちをわかってくれないのだろう。こんなに傷付いているのに、どうして誰も救ってくれないのだろう。わたしは大人になったら子供の気持ちに気付いてあげよう。だから、今の気持ちを忘れないでいよう。」と、子供の時に思った。 その時の状況(私は車に乗っていた)、その時の景色(山の中を走っていて、葉っぱの間から光がキラキラしていた)を鮮明に覚えている。強く心に誓ったことも思い出せる。 なのに、肝心の内容がすっかり抜け落ちてしまった。どうして傷付いたのか、何が不満

          おとなになったこども