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想像力が足りない

出会ってから21年、付き合って19年、一緒に暮らし始めて16年。結婚はしない。子供はつくらない。ずっと2人で生きていく。「なにかあるんだろうね」と、陰で言う人もいるけれど、特に何もない。病気もない。犯罪歴もない。お互いの家庭環境もいたって良好。ちなみに、異性同士だ。ただ、結婚という形を取らなかっただけ。彼女は彼のことが大好きだし、彼は彼女を大切にしている。彼女たちには世界の秩序を守るための言葉や法がいらなかった。ただ、それだけ。

1ヶ月に1回彼女に会う。彼女のことは好きだけど、恋愛感情はない。彼女自身よりも、明確な目的を持って挑む彼女との時間が好きだ。目的とは身体を重ねることであり、彼女も同意の上である。そうでなければ、結婚を報告した時にこの関係は終わっていたはずだ。妻が少しでも勘付いたら、連絡先と履歴を削除して、証拠を消す。もし音信普通なったら、寂しいけれどそういうことだと思ってください。と、言うと、「寂しいなんて思うの?」と意外そうに彼女は聞く。僕は笑う。

ルールを確認する。バスタオルは何日使うのか。カレーのルウは何種類混ぜるのか。牛乳はどこのスーパーが安いのか。そして、10年ぶりに4人家族の生活が始まる。外でのストレスを家に持ち込まない。体調や機嫌が悪いときは部屋にこもる。一緒にドラマを観る。郵便物を受け取る。いってらっしゃい。と、言う。おかえり。と、言う。昔は出来なかったことが出来るようになったのは大人になったからではなく、家族が長くは続かないことを知ったからだ。次に家を出るのは誰だろう。それまでの家族ごっこ。

#エッセイ #ひとりごと

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