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香水に秘められた記憶

ここ10年ほどずっと、夜眠る時につけている「セロファンの夜」という名前のついたセルジュ・ルタンスの香水。
繊細で透明感のある金木犀が香る「セロファンの夜」をベッドに入る時につけるようになったのは、この香水に添えられた物語を知ってから。

【セルジュ・ルタンスは、暑いマラケシュの街中から自宅に戻り庭で休んでいた。
いつの間にか空気が透明になり、
虫たちの話し声が聞こえ出し、
空には星の姿が映り始め、夜の帳が下りる。
“なんという素敵な時間なのだろう”
“この空気や気配、すべてのものをラッピングしてプレゼントして差し上げたい”
美しい夜行性の虫たちがリクエストする。
「もしもしお嬢さん。このあたりの空気を
ぜんぶ包んでいただけますか?」
「贈り物ですか?」
「ええ、あなたへの」。】

あまりに美しい夜を、そのまま残すために薄い薄いセロファンでラッピングするという、私の心を一瞬で虜にした、この詩的な香水の物語。

最近ちょっと気分転換に違う香水にしてみようと思い、色々な香水店をまわったのだけど、なかなか「セロファンの夜」以上にポエティックなものには出会えずにいる。

ここまで書いていて思い出したのは、以前一緒にお仕事をさせてもらったフランス人調香師さんに言われた「フランス人は香水の事になると饒舌になる」という話。

新しい香水の制作中、調香師さんが言っていた言葉「この香水が出来上がって販売を始めたら、いかにお客さんが香水について多くを語るかに、きっと驚くと思うよ」。
それまでアクセサリーやジュエリーの販売経験しかなかった私は、きっと香水も同じ感じだろうと思っていたのだけど、実際香水を売り始めたらその違いは歴然。

自分のつけている香水との出会いや、母親がつけていた香水の記憶。
季節によって変える理由、もしくは何年も同じ香水を使い続ける訳、、、。
普段はあまり話さないタイプのお客さんも、香水の話になると目を輝かせて語っていく姿には本当に驚かされたり。

フランスにいると、人は香水についてたくさん語るようになるみたいです。

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