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急死したバイト仲間の思い出

急に思い出した人のことを書こうと思う。

大学4年の頃、私はある英会話教室の受付でバイトをしていた。
そこに同じバイトとして入ってきたAさん。
私と同い年くらいの女性だった。
大学生ではなかった気がする。
多分、フリーターのような感じでアルバイトを渡り歩いてる雰囲気だった。
色白で、ウェーブした茶髪のミディアムヘア。わりとガッシリした体格。
受け答えも最低限で、明るく元気いっぱい!みたいなタイプではない。

でもこのAさん、すごく人懐こいのだ。
彼女がシフトに入ったあと、ほぼ常に私に手紙を残していく。封筒に入れてスケジュール名簿にクリップで止めておくのだ。
今ならLINE交換とかするだろうけど、なんせ携帯登場前のアナログ時代。メインは電話や手紙だったのですよ。
「山田氏へ」という独特の呼び方で、どうということのない内容が書いてあった。
受付の仕事は授業中などは暇な事が多い。
退屈しのぎに手紙を書いたんだろうと思った。
私も時間のある時は同じように返事を書いて、スケジュール名簿に挟んでおいた。
そんな文通を何度か繰り返し、シフト交代時に話をするようになった。

とはいえ、すごく気が合ったわけでもなく、普通にバイト仲間として話してたにすぎない。
だから彼女が突然「山田氏の家に遊びに行きたい」と言った時は驚いた。
別に断る理由もなかったので遊びに来てもらった。
何を話したかも覚えてないけど、そんなに話が弾んだわけではない。
「どうしてこの人は私と仲良くしたがるんだろ?」と不思議でしょうがなかった。
時々沈黙が訪れ、何を話せばよいのか気詰まりで正直いつ帰るかなと思ってたくらいだ。

不快ではない。でも楽しくもない。
夕方6時を過ぎても彼女は帰るそぶりを見せなかった。
母親が「よかったらご飯食べてく?」と礼儀上聞いてくれたのだが、彼女は「はい」と答えた。
マジかー、この空気感でかーと思ったw
普通にご飯を食べ、そのうち父親が帰宅した。
父親もとまどいながらも「○○さんは何人きょうだいですか?」みたいな会話をしてくれた覚えがある。

数ヶ月して彼女はバイトを辞めた。
その後は特に付き合いもなかったのだが、ある日上司から彼女に電話をするように言われた。
少し前の英会話教室のキャンペーンで、入会した生徒と担当者に図書券か何かが貰えることになっていたのだ。
彼女が担当した人が入会していたので、図書券を渡すために連絡する必要があった。

彼女の自宅に電話をすると若い女性が出た。
経緯を簡単に説明したところ、彼女は声を震わせてこう言った。
「実は、姉は1ヶ月前に交通事故で亡くなったんです……」

信じられなかった。
え、なんで? まだ22とかじゃん。
そんなことあるの? て思った。

彼女が自分の運命を知っていたとは思えないけど、短い人生だったからこそ、あんなに人懐こかったのかなと今になって思う。
どういう訳か私を気に入ってくれて仲良くしたいと思い、行動に移した彼女。
特別、仲良くなれたわけではなかったけど、こうやって30年近く経った今も私の記憶の中で彼女は生きている。

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