【中継】朝のスタメン争い。負けられない戦いがそこにはある。ヨーグルトの運命はいかに。
紺野家の食卓では熾烈なスタメン争いが繰り広げられている。
主食は パン? ご飯? それともシリアル?
主菜は ハム? たまご?
副菜のサラダは? レタス? トマト? きゅうり?
飲み物は コーヒー? 紅茶? 牛乳?
デザートは フルーツ? ヨーグルト? プリン? ゼリー?
ピッチに呼ばれるかどうかハラハラしながら食べ物達は冷蔵庫や台所の戸棚に控えている。
薄暗い冷え冷えとした冷蔵庫の中
ヨーグルトの右隣では、甘ったるいプリンちゃんがフェロモンたっぷりに香っている。
左隣ではクールなイケメンガイ、コーヒーゼリー君が控えている。
ヨーグルトは彼らとポジション争いをしなければならない。
……いや、それだけではなかった。
上の段には、皿に盛りつけられたフルーツ達が待っていた。
デザートポジションのスタメン争いは他のどのポジションより熾烈を極めている。
朝7:00 ダイニングルームにある掛け時計からオルゴールがなる
試合開始のホイッスルだ。
階段をドタドタと降り、家族が寝室から出てくる物音がする。緊張感が一番、高まる瞬間だ。
いち早く台所とダイニングを往復している監督(母)が冷蔵庫を開けた……
とここで、試合始めるまえに、
紺野家の家族の紹介をしよう。
父: 一家の大黒柱。朝は寡黙に新聞を読んでいる。舐めてはいけない。たまに放たれる彼の鶴の一声には要注意だ。
母: 台所の主。彼女に認められなければピッチに立てない。我々は彼女を監督と呼んでいる。監督からお声がかからなければジ・エンドだ。
兄(まさし):寝坊しがちで朝食食べないことも。ただ朝食を食べるときは育ち盛りで一番食べる。 元気な高校生。
妹(あかね):彼女は乳製品が大好物。せひとも彼女を味方につけたいところ。 多感な中学生。
さて、この四人がくだす采配はいかに……!?
まずは主食。
紺野家の朝食は洋食だと決まっているらしい。ここ数年朝食の食卓にご飯さんは呼ばれていない。炊飯器のコンセントが抜かれたまま。
監督は朝食のピッチにもベンチにもご飯を呼んでいない。
ということは、パンとシリアルの一騎討ち。
まずは大黒柱の父が席について、新聞を広げる。
「お父さん、パンは一枚? それとも半分?」 監督が尋ねる。
「うむ。一枚」父が答える。
監督がトースターにパンを投げ込む。わかってはいるもののシリアルさんは肩を落とす。
そうなのだ、父にシリアルという選択肢はない。父の選択はパン一択だ
「バターでいいわよね?」
「うむ」父は新聞に夢中だ。
コポコポとコーヒーメーカーの音がする。この香ばしい香り、間違いなく飲み物ポジションはコーヒーに軍配が上がったか??
いや、まてよ、監督はパンを焼いている間に、ティポットの中でティバッグを揺らしている。え、紅茶も用意されているのか??
あ、そうそう、と言って
監督はティーポットを揺らし終わったかと思うと、冷蔵庫を開けて、牛乳パックを取り出した。
コーヒー、紅茶、牛乳、三者ともにピッチに上がっている。これは、もしや、全員活用か???
「おはよー」
目をこすりながら、妹のあかねが食卓にやってきた。
「ああ、あんた、今日もシリアルでいいわよね? 牛乳は自分で好きな量いれなさい」監督が言う。
シリアルがガッツポーズする。そうなのだ。シリアルがピッチに立てるのはこのあかねの存在があるからだ。
「うーん。どうしよっかなー。最近、シリアル飽きてきたんだよねー」
シリアルが上げた手の行き場をなくす。パンが聞き耳をたてる。
「あら、それじゃ食パン焼く?」 監督が娘に尋ねる。
いいそ、もっとやれ、とパンが叫ぶ。
「うーん。でもなー、パン一枚食べれるほどお腹の余裕もないし」
「じゃあ、母さんとパン半分こする?」
そうだ、半分でもいい、食べてくれ、とパンが懇願する。
「うーん、気分じゃないんだよなー」
「あ、そうだ、あんたが言うから、新しい種類のシリアル買うてきたんよ。ドライフルーツ入り。フルーツグラノラ。 コーンフレーク飽きたんならこれは?」
ナイス助言! シリアルの期待が跳ね上がる。
「あ、たしかに、フルーツグラノラ試してみよ」
シリアルが歓喜した。
あかねはボウルにフルーツグラノラを入れ、そこに、適量の牛乳を注いだ。
ヨーグルトはその様子を見ていた。絶対強者のパンを出し抜いて、シリアルに軍配を上がったのをめでたく、思ったのだが、一緒に注がれる牛乳を見て、焦りを感じる。
ヨーグルトにとって、乳製品大好きあかねは、絶対に選んでくれる味方なのであるが、とある条件が重なると選ばれない。
あかねは、牛乳を飲み物として選んだ日はデザートにヨーグルトを選ばないことが多い。
そしてシリアルに牛乳が注がれるときもヨーグルトが選ばれる確率は五割になってしまう。
あとまれに、あかねが6Pチーズを冷蔵庫から取り出して食べるときはもっと最悪だ、牛乳とチーズのコンボで摂取される場合は十中八九デザートはヨーグルトではない。チーズを選ばないでくれと念をとばす。
ヨーグルトのあせりを見て、コーヒーゼリー君が不敵な笑みを見せる。
監督は、出来上がったコーヒーメーカーから一杯注いで父の席の前に置いた。父はだいたい朝の一杯はコーヒーだ。
コーヒーの香ばしい匂いにつられたのか、新聞紙でかくしていた顔を出し、アツアツのコーヒーを啜った。
「あかね、飲み物は? 牛乳? 紅茶?」監督が娘に尋ねる。
ああ、監督よ、牛乳を勧めないでくれとヨーグルトが叫ぶ。
「グラノラに牛乳いれてるし、牛乳はいらんよ」
「じゃあ、いつのもとおり、紅茶ね」
そう監督は言って、ティーカップに紅茶を注ごうとする。
「あ、まって」 あかねの待ったがかかる
「え、なんやの、今日は食欲がないん? 機嫌わるいん?」監督がイライラしている。監督がチラッと壁時計を見る。
「ああ、もう、まさし、まだ起きてけーへんわ。また遅刻するってのに」
持っていたポットをおき、監督は階段に向かう。
「まーさーしー、はよ起きなさい。また、遅刻するよ。また今日も朝食食べへんのか?? いいかげんにしなさい」
監督は階段下から、上階のまさしの寝室に向かって、怒号をとばす。
朝の忙しない時間、監督はいつもピリピリしている。
「母さん、ハムとたまご、忘れてる」寡黙な父が発する。
父はたいていトーストと一緒にハムとたまごを食べる。
主菜ポジションは、一緒にピッチに上がっていることが多いから、他のポジションに比べ、争いが少ない。
というかハムにトロリと半熟の黄身をつけて食べる絶品さ。相性の良さを物語っている。食材界では、ハムさんとたまごくんがデキているというのは周知の事実だ。
バタバタしていたせいもあってか、監督はハムが盛り付けられた皿にとフライパンのうえの目玉焼きを乗せるという作業を忘れていたのだ。
監督はハムと目玉焼きのセットを二つつくり、ひとつを父にわたした。
「あかね、ハムたまごは?」
「いらない」
「ダイエットか? ちゃんと食べへんと、体もたんよ」
監督は小言を行って、残りのひとつを自分の席の前にセットした。監督は他の家族の分の食卓準備を優先するため、いつも、選ばれなかったものを回収することになっていた。
「ねえ、母さん、わたし今日、コーヒー飲む」
そうだった、まだあかねの飲み物オーダーが決まってなかったのだ。
「あら、めずらしいな。コーヒーの苦いのん嫌いやったんちゃうの?」
「コーヒー飲まれへん言うたら、友達に馬鹿にされた。お子ちゃまな舌やなって。練習しよ思て」
「ああ、そう、ほんなら、砂糖とミルク入れるか?」
「砂糖はいいや、牛乳いれる」
あかねはそう言って、コーヒーを注いだあと、牛乳を大量に投入した。
ヨーグルトは悩む。
コーヒーに入った牛乳は飲み物牛乳にカウントされるのか否か。それによって自分が選ばれる確率がかわる。でも牛乳飲料というようりコーヒー飲料だから、大丈夫だろうとも思える。
さきほど不敵な笑みを浮かべていたコーヒーゼリー君が絶望していた。たしかにコーヒーを飲んだあとのデザートにコーヒーゼリーを選ぶことは考えにくい。
あかねはコーヒーは苦手だが、コーヒーゼリーにクリームをいれたものはデザートとして受け入れていたから、コーヒーゼリーくんにもチャンスがあったのだ。
しかし、今朝はあかねに選ばれることはないだろう。
悩むヨーグルトと絶望するコーヒゼリーくんをよそにプリンちゃんはご機嫌だ。
苦いもののお口直しには甘ーいプリンが最適だろうと。
「母さん、ヨーグルト」
新聞をたたみ、食事をそろそろ終えようとする大黒柱、父が宣告する。
ヨーグルトは喜ぶ。ありがとうございます。いつもありがとうございます。
ただ父の采配はいつも決まっている。嬉しいものの、父票はいつもヨーグルトに入るから、そこまでテンションはあがらない。
父の采配は パン、ハム、たまご、コーヒー、ヨーグルト。
これがいつもの定番。
「父さん、サラダとかフルーツはいらん?」監督が薦める。
「葉っぱの気分じゃないな。フルーツはなに?」父が尋ねる。
「今朝はリンゴとバナナを切ってるよ」
「ほな、それももらおか」
大黒柱父の前にヨーグルトときゃぴきゃぷ喜んでいるフルーツの皿が置かれる。
父の食事が終了する。
あとのメンバーの采配は各々の食欲と気分によってかなり変わる。
これまでのやりとりのとおり、あかねはなかなかの気分屋だ。
兄のまさしはそもそもピッチに来てくれるかどうか微妙なので、カウントしていいのか怪しい。
そして、監督の采配は他の人員の采配に左右される。
ドタドタドタと階段から騒がしい音が聞こえる。
「母さん、なんで起こしてくれへんかったん。遅刻やん」
兄まさしの登場だ。
「はあ? あんた、よぉ、言うね。何回も何回も朝から大声上げさしといて」
「やばいやばい、はよ準備せな」まさしが洗面所に駆け込む。
じゃばじゃばと水音がする。顔を洗い、髪を濡らして寝癖を撫でつけているんだろう。
「あんた、ごはんは?」監督から怒号が飛ぶ
「いらん。間に合わん」
「そんなん言うたかて、お腹すくやろ?」
「ほなすぐ食べられるやつ」
「今あるんは、フルーツ、ゼリー、ヨーグルト、あと、ハム。ちょっと待ってくれたらトーストやら、目玉焼きとか」
「ほんじゃ、フルーツとハム」
まさしはそう言いながら、髪の毛をセットしている。急いでいるというわりに髪にワックスを塗り込み、揉みこんだりねじったりとセットは時間をかけている。
その時間短縮すれば、ゆっくり食事できるものの。
ヘアセットを終えたまさしは、椅子に座らず、立ったままフルーツとハムを口にほうり込んだ。
それでもまだ足りなかったのか、
あかねに振られた、コーンフレークに手を伸ばした。
「牛乳いる?」
「いや、おれ牛乳嫌いやから」
まさしはあかねと違い、乳製品が嫌いなのだ。
手に持ったコーンフレークの箱をどうするのかと観察していると、まさしはそのまま口にコーンフレークを注ぎこんだ。まるでスナック菓子の最後のほうを食べるかのように。
「ああ、もう行儀わるいねえ。床にこぼしてへんか?」監督の怒号が飛ぶ。
「大丈夫大丈夫、ほんじゃ、いってきます」
まさしは口いっぱいにコーンフレークをぼりぼり食べながら、玄関に向かった。
兄まさしの食事が終了する。
まさしの采配は コーンフレーク、ハム、フルーツのリンゴバナナ。
牛乳入りのコーヒーを啜るあかねの食事も終盤をむかえていた。
牛乳を入れてまろやかにしても、コーヒーの苦みがまだ消えないのか、あかねが顔をしかめながら、啜っている。
「あかね、デザートは?」監督が尋ねる。
プリンちゃんは、私が選ばれるのに決まっていると自信満々だ。
コーヒーゼリーくんとフルーツのリンゴバナナは諦めモードだ。デザート枠でなく主菜枠と飲み物枠で摂取されている。
ヨーグルトは奇跡よ起きないかと祈っている。
「じゃあ、ヨーグルトにする」
ヨーグルトは信じられず、茫然としている。プリンちゃんは納得できないのか憤慨している。
どうして、その心は?
「フルーツグラノラ、結構甘ったるかったんよね。コーヒーの苦みが相殺したけど。あと足りないのは酸味。これでバランスがとれる」
妹あかねの食事が終了する。
あかねの采配はシリアル(フルーツグラノラ)、コーヒー(牛乳入り)、ヨーグルト。
家族の食事の行方を見守った監督はようやく席につく。
選ばれなかった食べ物たちが監督を見つめる。
監督はトースターにパンを入れて待っている間に、
冷蔵庫から、誰も食べたがらなかった副菜枠のサラダボウルを取り出し、
誰にも飲まれなかった紅茶をティーポットに注ぎ、
選ばれなかった、プリンとコーヒーゼリーをどっちも目の前に置いた。そして好物のフルーツも置いた。
監督は目先の気分だけでなく、今後の食材配分バランスを考えなければならない。
監督母の采配はこうだ。
パン、ハムたまご、サラダボウル、紅茶、フルーツ、プリン、コーヒーゼリー。
監督母は思った。デザート枠はいつも悩ましい。ついつい、自分が糖分をとりすぎてしまう。
でも、フルーツは自分の贔屓だとしても、ヨーグルトの安定感は信頼にあたいする。(たまの家族の気まぐれがあるが)
また来週からのお買い物の参考にしようと監督は思った。
~試合終了~
本日の試合を振り返ってみましょう。
父(大黒柱):パン、ハムたまご、コーヒー、フルーツ、ヨーグルト。
母(監督):パン、ハムたまご、サラダボウル、紅茶、フルーツ、プリン、コーヒーゼリー。
兄(まさし):シリアル(コーンフレーク)、ハム、フルーツのリンゴバナナ。
妹(あかね):シリアル(フルーツグラノラ)、コーヒー(牛乳入り)、ヨーグルト。
いや~、今朝の試合は予想外の展開でハラハラしましたねー。
また明日の決戦も楽しみですね。
中継は以上です。
紺野家の食卓からお送りいたしました。
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