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ヨリミチクリーニング

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【ヨリミチクリーニング】

 駅前のビル街の中にこじんまりと、そのクリーニング屋は確かに存在していた。入り口には大きな花輪がふたつ飾られていて、できたばっかりというのも本当らしい。絹子さんは、右手は娘の麻子ちゃんとつなぎ、左手には旦那さんのワイシャツを持って、その店に入るべきか、それとも帰るべきかしばらく考えていた。お腹がすいたのか、幼稚園帰りの麻子ちゃんは「はやくかえろうよ」と少しぐずった。

 昨日、旦那さんの潔さんが帰ってきたときに、ワイシャツの首回りのサイズがきちっと合っていなくてだらしなく見えた。それだけで絹子さんは、潔さんが朝着ていったのと違うシャツを着ていることに気がついてしまったのだ。なぜ朝と違うシャツを着ているのだろう。これがまったく違う色柄ではなく、同じ白い色のシャツであることがかえって不信感をつのらせた。まるで何かを隠しているみたい。

 だけど、絹子さんは相手を問いつめるということが昔っからできない。何でもないように「朝とシャツ違うね。どうしたの?」と尋ねると、穏やかな笑顔をつくりながら潔さんの反応を見た。潔さんはちょっと狼狽えた表情をしたあと、胸の目立つ部分にしょう油をこぼしてしまったのだと告白した。それで、会社近くの店で新しいシャツを買い求め着替えたのだと。

「汚したシャツはどうしたの?」
「駅前に新しいクリーニング屋が出来ててさ、そこで染み抜きしてもらったんだ。それが、ちょっと変わった店でさ……」

 そこから潔さんは興奮したようすでその「変わった」クリーニング店のことを話すのだけれど、それは絹子さんにとってはどうだっていい事で、正直あんまり頭に入って来なかった。それよりもシャツから話をそらそうとするなんて、やっぱり怪しいという思いが強くなった。

 それで今、絹子さんは幼稚園に麻子ちゃんを迎えに行った帰りに駅前通りを確認しに来たのだ。確かにあったその店は、前にあったクリーニング屋がつぶれたあとに入った店らしく、入り口の上には緑の文字で「ヨリミチクリーニング」と書かれていた。でも、ここに来たからといって、いったいわたしは何を確かめようって言うんだろう。それでもし、潔さんの隠していることがオオゴトだったらどうするのか。麻子ちゃんが、さっきから店の前で動かない絹子さんの表情を心配そうにじっと見る。「アサちゃん、ごめんね。ここにちょっと寄ったら帰るからね」と絹子さんはその店に入った。

 受付には誰もいない。「ごめんくださーい」と奥に声をかけると「はいはーい。いらっしゃいませー! ここにいますよー」と思いがけず近くから声がし、カウンターのすぐうしろでぴょんぴょん飛び跳ねる「何か」の頭が見えた。びっくりした絹子さんがカウンターの中をのぞき込むと、そこにはカウンターの高さに届かない大きさのスポンジがいた。

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