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柳美里さんという「人」の力、それを間近でまざまざと感じ続けた1年半

なんで麻衣ちゃんは、そんなに柳美里さんに入れ込んでいるの?
とは、度々聞かれるのです。
ほぼボランティアで、片道60キロ以上をかけて、本屋フルハウスのイベントや青春五月党の公演、クラウドファンディングのサポートと、東奔西走しているからですね。

芥川賞作家・劇作家である柳美里さんが、東日本大震災後に移住した南相馬市の自宅を改装して開いた本屋を私が手伝うことになった理由は、以下のマガジン航の記事に詳しく書いたのですが、
https://magazine-k.jp/2018/05/28/fullhouse-in-odaka/
実ははじめから柳美里さんの読者やファンであったわけではないんです。むしろ、作風や生き方が激しい、ちょっと近寄りがたい人なのではと、世間の皆さんが思うのと同じような印象を持っていたくらいです。

でも実際に、柳美里さんの現場を手伝うようになってすぐに感じたのは、柳美里さんの気遣いや人を信じる思い、そしてなにより、熟考して、言葉を選び、発言し、行動をされる姿勢の真摯さでした。

原発被災地、と呼ばれている南相馬市で、2012年から臨時災害FMの番組を通じて現地の人の声を聞き続けた柳美里さんは、当初は神奈川県鎌倉市の自宅から通ってラジオ番組の収録をしていましたが、地元の人たちと悲しみや辛さはこの地(南相馬市)にあるのに、安全な場所に自身が暮らすことに違和感を感じ、南相馬市に居を移しました。その行動にまず、とても誠意を感じますし、同番組をボランティアで受けていたことを考えればとても思い切った行動であったと思います。

その後、柳美里さんは、約600人の地元の人の話を聞く中で、「本も被災した」(強制的に避難させられて、6年以上自宅に戻れなかった家に置き去りになった本は、カビや動物たちの糞尿などで汚れ、捨てるしかなかったのです)ことや、地元の人たちが本という文化に触れる機会を失ってしまったことを知ります。(もちろん、そのほかにもたくさんたくさんの悲しみに触れていらっしゃいます)

また2017年4月には、南相馬市小高区で高校が再開しました。最寄り駅は、JR常磐線の小高駅です。ですが、小高駅周辺にはまだ震災前の1/4しか人口が戻っておらず商店も少ないため、1時間に1本の電車を待つ高校生たちの溜まれる場所がありませんでした。
自分ができることは何か。
学生時代にいじめに遭い、その時の唯一の逃げ場所が「本」だったという経験を持つ柳美里さん。18歳の時から「書くこと」が生業となり、アルバイトもしたことがなかったといいます。
ただ、本のことなら誰よりも知っている。本屋ならできるのではないか。

そんな思いが連なって昨年4月に、自身の著書から名を取った、本屋「フルハウス」をオープンしたのです。

フルハウスは、「本屋は儲からない」という周囲の声に反し、地元の人たちはもちろん周辺のまだ本屋が再開しない地域や、柳美里さんのファンが遠方から訪れるだけでなく、「被災地訪問」として南相馬市を訪れる人たちの訪問スポットにもなっていきました。柳美里さんが、反対を押し切ってオープンした結果です。
フルハウスでは、柳美里さん自身と柳美里さんの友人の作家たちが選んだ本だけを並べており、本のセレクトショップのようです。フルハウスに来るようになって本の読み方が変わったという方や、今まで体育会系だったので本をほとんど読まなかった高校生が、自分で文章を書くようになったとか、素敵な変化が生まれています。(ちなみに、儲かってはいませんが赤字にもなっていないそうです)

同じ年に柳美里さんは、自身が主宰する演劇ユニット「青春五月党」を復活させました。
この復活公演に関しても、greenz.jpで記事を書かせていただいたのですが、
https://greenz.jp/2018/10/17/seisyun_gogatsuto/
この公演は、地元の高校生やシニアの方の、東日本大震災の記憶を柳美里さんが聞き取って脚本に落とし込んだもので、出演者もその人たち自身。とても生々しく、ともすれば当時の記憶を引き出し、トラウマを感じてしまうのではと思ってしまうくらいでした。(その脚本は、戯曲集「町の形見」で読むことができます)

ですが、実際に公演を終えた出演者の皆さんから聞こえてきたのは、しっかりと気持ちを聞いてもらえてうれしかった、抱えてきたものが剥がれ落ちたような気がした、というすがすがしさにも似たようなものだったのです。
それは、柳美里さんが彼らの話を聞くときに真摯に向き合い、寄り添い、言葉を選び、選び、選び抜いて戯曲化し、演出したからにほかならず、特に高校生たちの変わっていく姿には目を見張るものがありました。

本屋も演劇も、儲からないんです。でも、そこから生まれる、何にも代えがたい「体験」を、柳美里さんは生み出し続けたいのだと思います。原発事故という大きな悲しい経験をしたこの地だからこそ。

そして、そんな大きな思いを抱くだけでなく、柳美里さんは身近な人たちにも常に気を遣われています。
フルハウスの朗読会のゲストに対しては、その人の性格やバックボーンに合わせて、気を付けて欲しいことをイベントMCである私に常に伝えてくださっていましたし、青春五月党のキャストやスタッフたちへの気遣い(喉を気にするキャストたちへの飲み物をお茶にするか水にするかという細かいところまで)、そしてもちろん私の体調なども気にかけてくださっています。

私はこの1年半、ずっとそばで柳美里さんが起こす、町と人の変化を見続けてきました。私の少しのお金と、ライターとしての情報発信、イベント時の何でもスタッフで、その活動を支えられるならいくらでもしたいと思って、お金をもらえる時ももらえない時もサポートしてきたつもりです。

そんな柳美里さんがいま成し遂げたいと思っていることが、どこにも居場所がない人に、本という扉が並んだ居場所=ブックカフェをつくること、です。それは自身の、最後の居場所・避難所として本があった、という経験によるものでもあるし、30年の作家活動で、本という文化の力を信じているからでもあります。

そのためのクラウドファンディングが、あと3日で終わります。
▽芥川賞作家・柳美里とあなたがつくるブックカフェ―福島県南相馬市 本屋「フルハウス」に、あなたの思いを染み込ませたい―
https://motion-gallery.net/projects/fullhouse-bookcafe

このコピーを作ったのは私です。「まだ未完成の段階から、多くの人がここを訪れて、本を眺めたり、立ち読みしたり、語り合ったり、思いを寄せたり、そういったひとつひとつが重なっていくことで、柳美里だけの本屋ではなく、ここを訪れる、思いを寄せる人たち、みんなの場所にしたいと考えている」という柳美里さんの思いに心を打たれたからです。

そんな思いで、柳美里さんに、フルハウスに関わっている人間がいる、ということを知ってほしくて書いてみました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

#柳美里 #フルハウス #ブックカフェ #クラウドファンディング #青春五月党 #芥川賞 #岸田國士戯曲賞

ご支援いただいた分は、感謝を込めて福島県浜通りへの取材費に充てさせていただきます。