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スペキュラティヴ・デザインについて考えてみた

サムネイル:Digicars, 2012/13, United Micro Kingdoms (UmK) series CGI rendering by Tommaso Lanza © Dunne & Raby

ここ最近、ますますポースト・ヒューマンデザインに興味を持ってしまっている私ですが、「問題解決するデザイン」の先にある「スペキュラティヴ・デザイン」について調べてみることにしました。

「スペキュラティヴ・デザイン」(ここからはSVDと呼びます)を勉強するためのスタート地点としてアンソニー・ダン氏とフィオナ・レイビー氏の本「Speculative Everything」を読むことにしました。自分の思考をまとめるためにも、この本から学んだこと、気づけたことについて簡単にまとめていきたいと思います。


スペキュラティブデザインとは

※ 英語の本は、日本語訳では伝わらないニュアンスもあったりするので、基本元の英語で読むようにしています。そのため、日本語訳でこの本を読んでいる方には、ちょっと違う説明やワードが度々出てくるかもしれません。
※日本語訳タイトルは【スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。】です。
※「Speculative Everything」は、デザイナー学者であるアンソニー・ダン氏とフィオナ・レイビー氏が書いたスペキュラティブ・デザインについての本です。

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「デザイン」と言う言葉は、かなり幅広く捉えることができます。

デザインと聞いて、思われがちなのはかっこいいモノ、かわいいモノを作ることだと思います。最近ではデザインの理解が深まり、問題解決を行うための手法であることだったり、「WHY」(なぜ)を追求するための手法だと思われることも増えてきたと思います。この本では、「デザイン」の手法を使って様々な現実について「WHAT IF」(もしこうだったら。。。)という*問いを作る*手法として使うべきである、と書いてあります。

なぜ「問いを作る」必要があるのか。
「問題解決」することと「問いを作る」ことの違いについて考えていきたいと思います。
まず、デザインを問題解決するための手法という捉え方について。
そもそも問題とは、すでに明らかになっている苦痛のことを示しています。
起きてしまったことを起きないようにする、もしくはプラスに変えるために「問題解決」を行います。つまり、「問題」とは何らかの形で社会に悪影響を与えてしまっていて、その悪さを追い払うために「問題解決」を行う必要があります。このような問題解決するデザインは社会を「よくする」ための手法だと考えられます。

次に、デザインを問いを作るための手法という捉え方について。
問いを作るデザインは、目の前の問題を解決するための手法ではありません。目の前の問題や現状、未来の可能性を見つめることで、現状とは違うオルタナティブ(二者択一、同一でありながら別の状況)のシナリオをデザインすることをSVDと呼びます。
つまり、別視点で現状を見つめ、「もしこうだったらどうなるだろう?」という新しい現実を想像して作ってしまうことです。新しい現実を作ってしまうことで、今まで明らかではなかった予想や問題が見えてくることになります。「WHAT IF」を始め、たくさんの「WHY」が生まれるのです。
そして、その「WHY」たちが、新しい視点の問題、「問い」に変わっていくことで、より巨大な問題に立ち向かうことができたり、問題になる前に物事を見つめて解決することができるのです。


長くなってしまいましたが、この二つのデザイン手法についてまとめると、

問題解決するデザインは、現実視点からWHYの答えを探っていき、現状の問題を解決していく手法である。

問いを作るデザインは、現実視点からWHAT IFのシナリオを作り上げていき、現状の問題を明らかにしていく手法である。

世の中には両方のデザイン手法が必要になってきますが、一度スペキュラティブデザインの手法を挟んでから問題解決に挑むと、より大きな、社会のためになる問いを見つけることができるのではないかと私は思っています。


問いを作るデザイン

問いを作るデザインについてもう少し考えていきたいと思います。
自分は、「デザインとは何ですか」と聞かれるたびに、「問題解決する手法です」といつも答えていました。問題解決を行う手法であるからこそ、何でもデザインであると言い切れるものだと思っていました。
しかし、先ほどお伝えしたように「問題解決」は問題がなければ行えないもの。となると、問題がない限りデザインは必要ないのか?この本を読んでから、「デザイン」という言葉に対して考え方が変わりました。

デザインは、問題を予知する、もしくは隠れている問題を発掘するために活用できると思います。
そのためには、「WHY」について考えるのではなく、「WHAT IF」を形にしていくことが重要になってくると思います。問題解決するだけでなく、問いを作るためにもデザインは役立つんじゃないでしょうか。

「問題」が発掘できる問いを考えるためには、デザイン分野の知識だけではなくあらゆる分野に関わって、世界の動き方を観察していく必要があると思います。人々にとって想像できる良い「WHAT IF」を考えるためには、世の中の働きに合わせていく必要があるからです。

良い問いを作るためには、今まで以上にいろいろな分野とコラボレーションをして、知識を深めていく必要があります。
様々な企業や大学、海外やローカルコミュニティーとつながって、問いを作るための「WHAT IF」を探し続ける必要があると思います。


SVDが「アート」ではなく「デザイン」である理由

SVDは芸術じゃないのか?とよく聞かれますが、はっきりと分かれている重要なポイントがあると思います。それは*共感性*にあると思います。
辞書でデザインという言葉を調べてみると、このように定義されています。 


作ろうとするものの形態について、機能や生産工程などを考えて構想すること。

一方で、芸術を辞書で調べてみると以下の通りに書かれていました。

特殊な素材手段・形式により、技巧を駆使して美を想像・表現しようとする人間活動。 ​

この二つの定義を見比べてみると、「実現性」を訴求するか、「美」を訴求するかに大きな違いがあることがわかります。
どちらも存在することで、人々の生活に影響を与えることはできますが、デザインされたものは、実現しているからこそ何らかの形で人々の生活に変化を起こさないと、存在価値がありません。

SVDがデザインである理由は、存在しないWHAT IFの実現性を感じでもらうことにあると思います。

さらに、存在する形だけでは、人の心に刺さるデザインを作るのは難しいでしょう。実現性があるかというのは、ただ形にできるのかだけではなくあり得るデザインなのかというのも重要です。
つまり、私たちの現状の世界と関連しているかどうか、どれほど現実性を信じられるかでデザインの影響力がかなり変わってきます。
そうするためには程よく新しさと共感性をミックスさせる必要がありますが、その掛け合わせをうまくデザインすれば実現性を感じさせれることが出来、あらゆる現状の批評につながるでしょう。

SVDはユーザーに現状を批評させることで、ユーザーに様々な問いを生成してもらうのが最大の目的です。

ここでハリーポッターの本と映画を比べてみましょう。

なぜハリーポッター?それは、魔法のようなパラレル・ユニバースだからです。SVD視点から言うとちょっとファンタジーすぎますが、まあまあ、わかりやすい例だと思ったので選びました。


文字だけで出来ている本は、読者が登場人物や環境を想像しながら物語を進めていきます。そのため、読者だけのユニークな世界観が出来上がるので、読者によって想像していることは異なるでしょう。ユニークな世界観が生まれる反面、ハリーポッターについて語る時にズレが生じたり、同じコトやモノについて話しているかどうかも怪しくなります。
しかしこの本を一つの世界観にまとめると、どうでしょう?
映画にすることで、ハリーポッターというWHAT IFが実際存在するかのように感じます。
「私も、11歳になったら魔法使いであることが判明するかもしれない。。。」
「へえ、ホウキって、そうやって飛ばせるんだ!近い未来飛ぶための道具になるのかもしれない!」
「人が自分と違う能力を持ってるからって、いじめちゃダメだな。。。」
など、WHAT IFを実現することでいきなり現実世界と紐付けやすくなるのです。そうすると、未来の希望や現在の問題に対して気付くことができ、新しい問いが生まれるのです。
「魔法使いになるためには、どんな人生経験が必要なのか」
「ホウキを飛ぶための道具にするには、どうすればいいのか」
「自分と違う人をいじめないためには、どうしたらいいのか」

SVDの成果物を作ることは、ハリーポッターの映画版と一緒だと思います。
なぜなら、WHAT IFという抽象的なシナリオを実現することで、そのデザインに触れる人全員が問いを作ることができるからです。

繰り返しになりますが、どれほど現実性を信じられるかでデザインの影響力がかなり変わってきます。
上手くデザインしていくことで、ユーザーに現状を批評させることができ、ユーザーに様々な問いを生成してもらうのが最大の目的です。

まとめ

長くなってしまいましたが、以上が「Speculative Everything」を読んで、私が思ったことや気づいたことでした。
まだまだ知識は浅いですが、今のデザインに必要な思考だと思うので、これからもきちんと考えていきたいと思います。書いたことは全て私の主観や解釈なので、本を読んでいる人にとっては異なる意見や情報があると思います。その時は優しく指摘していただけると幸いです☺️


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