The Pianist by Roman Polanski・・・人間の愚かさと至宝の音楽とのコントラスト

観たかった映画を思い出して、ようやく観た。(ホロコースト関連は辛くて、当時は避けていたから。)
監督はロマン・ポランスキー。彼の作品は「テス」しか観ていなかった。有名な作品はいくつかあるが、監督自身のスキャンダラスな人生が知られているため、やはり少し敬遠していたところがあったと思う。
しかし、ショパンの調べに誘われて・・また、ひょっとして日本も戦争に巻き込まれていくのではないかという危機感から手に取った。

実在の人物がモデルとなっている。第二次世界大戦時、ナチスドイツのポーランド侵攻から物語は始まる。ユダヤ系ポーランド人ピアニストが主人公。
ユダヤ人への迫害がどんどんエスカレートしていく様が重苦しい。人間はいくらでも残忍になりうるのだとしみじみと思う。戦争で行われる非人間的な行いは、特別に残虐な人達によって為される訳ではないのだ。昨日までは平和な暮らしの中で愛と思いやりを大切にしていた庶民ですら、特殊な状況の中で鬼畜と化す。そこが一番恐ろしい。

どんな大義名分を振りかざそうと、それは人としてあるべき姿ではない。だから戦争に加担するようなことが社会の流れの主流となって欲しくないと切に願うのだ。

求心力を失い恐怖政治を布いている某国リーダーが核実験を実施させたのは、確かに脅威である。だから法整備を!という人たちは、有事の時に誰かが前線に立つことになっても、それは自分や自分の愛する人ではないと考えているのだろうか。私にはそんな事態はとても耐えられない。
それを自己中心的と非難されるような世の中になって欲しくないとも考える。
 
合間に奏でられるショパンのバラードやノクターンの美しさ!主演のエイドリアン・ブロディが素晴らしい。音は吹き替えでヤニュシュ・オレイチャクという人の演奏らしいが、エイドリアン・ブロディはかなり特訓したそうだ。

何もかも失われ傷ついたポーランドの、瓦礫の中に響き渡るショパンの調べの・・・なんと切なく、美しいことか。ショパンがなかったら、この映画を直視できなかったと思う。
まだポーランドの宝は・・・「心」は失われていなかった。
胸を打つ最後だ。