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2匹のHennessyと俺の話



南部です。

今回は自責の念もあり投稿しようかずっと悩んでいたお話をひとつ。

ヘネシーという名の豆柴を飼っている。


ヘネシーはすごくいいやつで、私が思い悩んで背中を丸めて啜り泣けば、何も言わずに横にずっと座っていてくれるし、夜な夜なひとりリサイタルを始めれば眠たい目をこすりながら観客役をしてくれる。

柴犬はニホンオオカミの遺伝子が一番濃い犬種とされており、しつけが難しく、塩対応な傾向がある。
実際「柴距離」という言葉があり、おいで〜といっても1mくらいは離れているし、ドッグランも10分で飽きるし、撫でて〜♡なんて口が裂けても股が裂けても言わない。
しかしそれが可愛くてたまらない。

この“ヘネシー”という名前に毎回つっこまれるのだが、その度に私は「自分、酒好きなんでねー!」なんて誤魔化しているが、実はその名の由来はロサンゼルス時代に遡る。
私が住んでいた家の近所にネグレクトされている犬がいた。ヘネシーという名のかわいくて心の優しい女の子だった。

2人でピクニックをした時


ヘネシーは民家の裏の物置スペースで飼われ、そこで糞尿を済ませ、お散歩など行ったこともなければ、飲み水には藻が生えて、撫でれば無数のノミが指先に触れた。

私は最初こそ柵の外から腕を伸ばして撫でてみたり、柵の向こうから“君を気にかけている人もいるからね“と伝わるよう毎日ヘネシーに声をかけた。

しかしいよいよ我慢ならず私はついにその家の裏庭に勝手に入り犬を誘拐し、勝手にお風呂に入れて勝手に健康診断に連れていき勝手にノミとりをした。
それからは一緒にご近所のアーリーンおばさんのお庭にお花を見にいったり、ご近所の名字はわからないご家族のバーベキューに2人で参加したり、一緒にベニスビーチに行ってスケーターを眺めたり、寒い時期にはホームセンターでセーターを選ばせて買って着せたりしていた。女の子のヘネシーはピンク地に白いお花の刺繍が入ったセーターを鼻先でつついて選んだ。おしゃれしたかったんだね。(本当だよ、犬って全部わかってるんだよ)

自分の犬のお皿が変わり、エサがグレードアップし、身なりがよくなり、しまいには見たこともないセーターを着ていれば、いくら犬に無頓着な家主でもさすがに気づく。
私の悪行はほどなくして家主にバレるのだが別にお咎めは無く、私はヘネシーを責任をもって引き取りたいと何度もお願いしたが、毎回断られてしまった。
奥義・ジャパニーズお菓子をもっていき媚びを売ったりしていたのだが、彼らがヘネシーを引き取らせてくれることはなかった。


私がロサンゼルスを出て2ヶ月ほど経った頃、ヘネシーが亡くなったと連絡がはいった。

あの子は一人で小さな物置の横で亡くなった。

家族に大好きだよと抱きしめられることも、
温かいベッドも、
特別な日に食べるごちそうの味も知らずに亡くなったのだ。

あの時私がもっと飼い主を説得していたら、無理やりでも連れ去ってしまえば、何かが変わっていたのかなあ。

今思い出しても涙が出る。

大好きだったけど、きっとそれだけだった。
何もしてあげられなかった。

今の犬をお迎えしたときに、うちの子にはうちの子の人生を生きてほしいけど、ヘネシーの気持ちもほんの少しだけ乗せて生きていってくれたら、温かいベッドもご馳走も、ほんの少しだけわけてくれたら、という願いをこめてヘネシーと名付けた。
我が家のヘネシーは塩対応な面もあるが、とっても心の優しい子なので、きっと天国のヘネシーも喜んでいるはず。

また会う日まで。


終焉

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