SXSWに日本企業が出展する意味はあるのか? 〜seek∞レポート:前編〜
先月アメリカで世界最大規模のエンタメ系カンファレンス、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)が開催されました。4月3日に開催されたFNN.jp プライムオンライン1周年記念イベント『seek∞』にて、実際にSXSWに出展した日本企業2社を含むSXSW報告会が行われたので、当日の様子を本イベントのプログラムレポーターとして(ざっくり)レポートします。
■そもそもSXSWとは?
まず、SXSWとは「テクノロジー・音楽・映画などを扱う、世界最大規模のカンファレンス」です。場所はアメリカのテキサス・オースティンで、期間はだいたい10日間(!)。
ただ、カンファレンスといっても、会期中はライブあり・パフォーマンスありのお祭り騒ぎで、過去には日本からPerfumeやDYGLなどもアーティストとしてライブ出演している他、人気ドラマ「シリコンバレー」のキャストが登壇するなど、かなりエンタメ色の強いイベントです。
わかりやすく言うと、フジロックに東京国際映画祭を足して2で割って倍にしたようなイベントを想像すると近いのかなと思います(たぶん)
■CESとの違いは?
もうひとつ、SXSWと並んでよく話題にされるのがCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。こちらは、毎年アメリカ・ラスベガスで開催されている、同じくテクノロジーを扱うカンファレンスです。
領域がなんとなく似ているので、私もハッキリとした違いはわかっていなかたのですが、seek∞に登壇されていた博報堂DYメディアパートナーズ・加藤薫氏によると、以下のような違いがあるそうです(※スライドの写真がうまく撮れていなかったので画像で失礼します)
加藤さんは他にも、SXSWを「解はないが、問いはある」と表現していて、個人的にはSXSWの方がより「知識を得られる」、CESは「モノを売り買いできる」場なのかなーという印象を受けました。
■SXSW出展事例① 「寿司シンギュラリティ」
では、そんなSXSWに日本企業が出展したらどうなるのか?という疑問について、seek∞の榊良祐氏 / OPENMEALS発起人による寿司シンギュラリティのセッションをご紹介します。
寿司シンギュラリティは、簡単に言うと 寿司を3Dプリンターで印刷する というプロジェクト。この前身になっている転送寿司 / 寿司テレポーテーションというプロジェクトは
1. 寿司の味・食感・匂いなどを「.cube」というファイル形式に出力する
2. データベースに保存
3. データを転送し、3Dプリンターで印刷する
というシンプルなもので、「寿司1貫で印刷に30分かかる」「つまり1人前の寿司を刷るのに5時間かかる」「そして今のところそこまで寿司の味じゃない」などなどの問題を抱えつつも、大きな話題になりました。
寿司シンギュラリティはこれを更に発展させた超未来型レストランの構想で、2020年OPEN予定となっています(榊さんいわく「言ってしまったのでやらないといけない」とのこと)。 違いとしては、
1. レストランを予約すると、ヘルスキットが送られてくる
2. 尿や唾液などの遺伝子から、ヘルスIDが発行される
3. レストランで遺伝子に合わせた最適な料理を印刷する
というヘルスケア要素が付け加えられていることで、現在イメージ図としていくつかの寿司メニュー案が発表されています。
榊さんいわく「3Dプリンターで刷っているため、今までになかったような食感のタコの寿司が食べられる」とのことで、個人的には今から2020年が楽しみになるような素敵なプロジェクトだと思いました(タコ食べてみたい!)
が、このプロジェクト、実はまだまだ試用段階で、必要な人材や技術も不十分な状態でSXSWに出展したとのこと。
どういうことかというと、ここで榊さんが紹介していたのが ビジョンオリエンテッドメソッド というやり方です。
通常、プロジェクトを行う時は「人を集める→商品を作る→発表する」という段取りで進めますが、ビジョンオリエンテッドメソッドはこの順番をひっくり返して行います。
1. 最初のアイデアを、ありったけ大きい規模にする
2. そのアイデアが伝わる精緻なビジュアルを作る
3. それを広く外に出す
4. プロジェクトに興味を持ってくれた人を通じて、必要な資源を集める
5. 問題を解決する
つまり「発表する→人を集める→商品を作る」というやり方で進める方法で、この「発表する」場としてSXSWを活用したというお話でした。
また、このビジョンオリエンテッドを実践する中で留意していたこととしては
・リアリティのあるビジュアルを作り込む
・技術ではなくプロジェクトの魅力を発信する
・発表を通じてマーケットを作る
ということ。実際、このプロジェクトは当初は榊さんが社内で1人で始めたそうですが、この方法を通じてだんだんと人や技術などのリソースを集めていき、プロジェクトを実現することが出来たといいます。
そんな榊さんいわく、SXSWに出展したメリットは以下3つとのことでした。
1. 露出や認知を効率的に獲得できる
国内での広告効果だけでも6億ほど。さらに海外での方が広い認知を獲得できたので、費用の30-40倍の宣伝効果があったとのこと。
2. イノベイティブな人脈を一気に得ることができる
SXSWを通じて、国内外含めた協力者が増えたことが最もプロジェクトにとってありがたかったそう。
3.プロダクトバリューがわかる
多くの人からフィードバックをもらえるので、気づかなかった価値や問題に気づくことができたとのこと。
特に広告効果は非常に高かったということですが、個人的にはいずれも「SXSWで認知を獲得する」という目的がハッキリしていたからこそのメリットでないかと思います。SXSWだけでなく海外イベントに出展する上で参考になりそうな、非常に面白いセッションでした。
■SXSW出展事例② 「Riiiver」
もうひとつ、今回のseek∞で紹介されたのがCitizenのスマートウォッチのプラットフォーム Riiiver です。
こちらはCitizenから大石正樹氏、山﨑翔太氏が登壇されていたのですが、こちらのプロジェクトは元々、社内の3名が本業とは別にサイドワークとして行っていたプロジェクトだそうです。
そのため、当初は「意見が割れたときに誰が決めるか」といった決定権から「会議の日程を組む」といった進行係も決まっていない状態だったとのこと。
そこで会社と相談し、途中からプロジェクトを組織化して 責任を取るチーム を作ったことで、次第に進むようになっていったそうです。
また、メンバーについては、立ち上げの3名に加えて「社外の人ではなく、やる気のある社員でやれ」という指示のもと、社内公募を実施。
そうして入ってきたメンバーの一人が、今回の登壇者の山﨑さんで「どうしてもやりたくて、面接の前日は一晩中寝られなかった」と笑いながら話していました。
その上で、大石さんは「社内でイノベーションや新規事業を行うには、組織として『やるぞ』という決断と、プロジェクトにジョインするメンバーの決断が重なることが大事」と話し、Riiiverについても「会社にそれなりに大きい決断をしてもらった」と述べていました。
...と、ここまで聞くと「とりあえずCitizenがめちゃくちゃいい会社なのでは?」という話で終わりそうなところですが、ではそんなRiiiverがSXSWに出展したメリットは何でしょうか。
大石さんと山崎さんのセッションで出ていたメリットは以下の3つです。
1. 外から社内を盛り上げられる
Riiiverに社内から批判的・攻撃的な意見は特になかったものの、中立的な人や、距離を置いている社員はやはりいたそう。しかしSXSW出展や、出展後のメディア露出を見て、中立的な社員も積極的に応援してくれるようになったそうです。
2. 人脈ができる
最も大きかったこととしては、やはり多くの人にRiiiverに興味を持ってもらい、パートナー等と知り合えたのがありがたかったとのこと
3. マーケティング調査ができる / フィードバックがもらえる
時計を作る側よりも、使う側の方が柔軟に使う発想があるので、多くの人に触れてもらうことで、フィードバックをもらえたのが良かったとのこと
このほか、話を聞く中で私が個人的に感じたのは「SXSW出展のような『発表の〆切』を決めておくことで、社内イノベーションが進めやすいのでは?」ということでした。
特に、RiiiverはSXSWまで準備期間が半年しかなく、「発表の場はあるのに商品はない」というプレッシャーの中で進めていったとのことですが、社内のサイドワークであったプロジェクトが成功したのには
・SXSWのような大々的な発表の場があった
・「出展」という、チームに共通するハッキリした目的があった
ということも影響しているのかな、と思いました(ちなみに、Riiiverは来年もSXSWに向けて商品開発していくそうです!)
■まとめ
SXSWに実際出展した日本企業のセッションを2件ご紹介しましたが、両社ともにメリットとして上がっていたのは
人脈ができる
フィードバックがもらえる
ということでした。
また、SXSWというイベントの性質上、「今すぐ売りたい」という商品よりは「開発段階」「ローンチしたばかり」という商品の方が合いやすいのではという印象を受けました。あくまでイベントを通じての雑感ですが、少しでも参考になれば幸いです!
それでは後編は、日本でも話題になっていたSXSW日本館「The New Japan Islands」についてのレポートです。良ければこちらもお楽しみください〜
落合陽一のSXSW日本展示とはなんだったのか? 〜seek∞レポート:後編〜
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