見出し画像

新しい米国労働ビザ規制について思うこと

米国外国人就労者ビザ規制

最近、アメリカで非移民ビザへの規制が厳しくなってきています。対象となるビザはH1B、L、J等とその帯同する家族に対してで、年末までこれらのビザの新規発行は無くなり、その間はビザ更新もできないようです。(2020年7月21日現在)

ビザ発行停止の主な理由としては、コロナ禍において雇用の喪失が進んでいるアメリカにおいて、外国人就労者がアメリカ人の雇用を奪っているからだそうです。

下記が、今回影響を受けることになったビザの内容です。

(1)特殊技能職(H-1B)、熟練・非熟練労働者(H-2B)、(2)交流訪問者(J)、(3)企業内転勤者(L)

これらのビザは、アメリカの雇用を奪っているのでしょうか。

今回は、若干自分の経験に絡めながら、H1Bビザについてお話したいと思います。

OPT制度とH1Bビザ

私は2年間アメリカで大学院に通ったのち、幸運にもOPT制度を利用して就職、そしてそのままH1Bビザを雇用主から申請していただけることとなりました。現在は結婚しグリーンカードを取得しましたが、このH1Bビザはアメリカで就職する上で必要となるビザで取得に大変苦労もしたので、私にとってかなり思いの入った(思い出深い)ビザです。

その肝心な、H1Bビザとはどのような人が必要なビザなのでしょうか・・・

"H-1ビザは事前に取り決められた専門的仕事に就くために渡米する方に必要です。このビザを受けるためには、雇用の許可を申請する専門分野において学士またはそれ以上(または同等)の資格が必要です。この雇用が専門職に相当するか、そしてその方が業務遂行に相応しいかは移民局が判断します。" ー在日米国大使館・領事館

そして、OPT制度とは、Optional Practical Trainingのことで、簡単に言うとF1ビザ(学生ビザ)を利用してアメリカの大学または大学院を進学・卒業し、そこから一年間ビザなしでアメリカ国内で合法に働くことができるというものです。

OPT期間中に企業へ就職すると、大抵、OPT期間終了した後どうするかを見越した上で採用されているので、OPT期間終了時にはH1Bビザを会社側から申請の手続きをしてもらいます。

なぜ見越した上での採用かと言うと、OPTは1年しか働けないので1年だけ働いてもらってもビザがサポートができないから解雇、といった非効率的な採用はしないからです。OPT制度を利用した人を雇う場合、その後のビザサポートを視野に入れ、お金や時間をかけてまでその人を雇う価値があるかを考慮してから採用します。

H1Bビザ申請開始の4月1日に間に合うよう、そのOPT期間中にH1Bビザの申請の準備にすぐ入る場合が多いです。もはやH1Bビザ申請するためのギャップをOPTで埋めている、という感じですね。

アメリカの大学を卒業した人以外にも、そのまま母国の大学を卒業し、そこからいきなりアメリカで就職するためにH1Bビザを申請する人もいます。もちろん採用が決まってからですが。

ただ、年間でビザをいくつまで発行できるかが毎年設定されています。2020年度は大学院卒業(修士)以上の枠で20,000件、大学卒業(学士)以上の枠で65,000件となっており、この設定数以上の件数の申請(petition)が届いた場合は、申請に進むための抽選がそれぞれ行われます。この時点で、かなり狭き門になっているのです。(ちなみに大学院卒は大学卒業以上の枠でも再抽選可。)

H1Bビザは「悪いビザ」なのか

コロナ以前からも目の敵にされてきたH1Bビザですが、アメリカではH1Bの利用者はインド人のIT部門担当で、彼らがアメリカ人の仕事を奪い低賃金で働いてるという謎のステレオタイプがつけられています。以前、アメリカの大手企業が大量にインド人を採用し、元々働いていたアメリカ人を解雇したことがきっかけで、H1Bビザはよくないというイメージがメディア等を通じて植え付けられるようになりました。

ビザ自体がよくないとされているのですが、そこでなぜそのビザを悪用した企業が悪いということにならないかが個人的には不思議です。ある程度、悪用した企業も批判は受けているとは思いますが、「H1Bビザはよくない」と、短略的に批判はいつもビザに対して向けられています。

実際、H1Bビザの申請を経験したのですが、移民局に出す書類で、「なぜアメリカ人ではなく私ではないといけないのか」、「前任はアメリカ人であったのかどうか」、などと、いくつもの細かい質問に答えるので、簡単に誰にでもどのポジションにでもビザを発行できるわけはないのです。

H1Bビザは特殊技能(何かに特化したスキル)を持った人のためのビザなので大学も卒業必須ですし、大学での専攻に関しても、ビザを利用して働くポジションの仕事内容とある程度マッチしていないといけません。例えば、政治専攻の人がマーケティング部で働きたい、とH1Bビザを申請してもおりないのです。

よって、企業側が何か抜け目を悪用して申請しない限り、移民局をごまかせないのです。

数年前、出張から帰る飛行機を待つ空港でH1Bビザに関したニュースがテレビで流れていたのですが、一緒にいたアメリカ人の同僚に、「ねえ、H1Bビザは悪いビザよ!考えてみて。ITのxxx(名前)が急に解雇されてインド人に仕事を奪われるのよ!それっておかしくない?」と、言われました。

私はすかさず、「ちょっと待って。私も今そのビザ使ってるんだけど。ビザが悪いんじゃなくて、それを悪用している会社がおかしいんじゃないの?ビザの申請は結構厳格だから、一概にビザが悪いなんて言えないし。しかも私はアメリカ人の雇用なんて奪ってないよ。」と、反論しました。

その後彼女は何も言えなくなっていたのですが、やはりメディアはただ悪いというだけで何も実情を報道しないし、それを鵜呑みにしてる人がアメリカで多く、自分で調べないんだな、とガッカリしてしまいました。

非移民労働ビザの役目と今後

H1Bビザは、アメリカ人に取って代わって仕事を奪うビザなのではなく、アメリカ人では補えないギャップを埋める役目を果たしていると考えます。語学だったり、エンジニアや科学者、医療などの技術を、バックグラウンドの違う国や文化からやってきてた人たちのスキルにより、新しいアイディアや必要な能力として成長発展に貢献しているのです。通訳さんもH1Bビザを利用してお仕事されている方も多いですし、決してITだけではありません。

また、アメリカでの教育レベルや教育にかかる高費用の問題等に関連して、その仕事に対して全うできる能力の人が少ないのも現状なので、一概にH1Bビザの発行を停止したからと言ってすぐにアメリカ人の雇用が回復するとも限りません。

もちろん今回の停止措置は政治的な動きからのパフォーマンスとされていますが、このまま大統領選に突入して政権が変わらないままでいれば、停止措置は当分続く可能性があると予想されています。

この措置が仮に12月末に終了しても、H1Bビザに対する風当たりが強くなって今後も審査がかなり厳しくなるので、以前のように企業側がH1Bビザを必要とする外国人就労者を積極的に採用しなくなりそうです。

私自身もアメリカで働きたいという夢を持って、アメリカ大学院進学を目指し、渡米し(この時は2度目の渡米)、無事卒業、そしてOPTを経由しH1Bビザをスポンサーしていただける企業に就職できました。それだけに、今回の措置を考えると、私のようにアメリカで働くことを目指してきた学生や卒業生にとっては厳しい状況になってしまい、とても残念です。

アメリカの大手企業は、H1Bビザを利用した外国人就労者を現在も多数採用しており、その功績もあってこのように大きく企業が発展してきたと主張しています。今後、このビザの措置が影響し、これらの優秀な外国人就労者はアメリカではなく違う国を選んだ時、アメリカは今の成長が止まってしまうのでしょうか。また、そこで初めてやっと外国人就労者の貢献度、そしてアメリカと他国の教育制度の違いに気づくことになるのでしょうか。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?