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集団孤軍奮闘-どい書店行ってみた-

 愛媛の県庁所在地から車を走らせること約1時間、川のせせらぎとひなびた町並みが続く、内子町小田。穏やかな商店街に佇む築100年の大きな古民家、その中に若者がぽつりぽつりと。好奇心の集まる本屋こと「どい書店」の姿がそこにありました。

 交流のある映像クリエイターのKo-kiさん(HP)やフォトグラファーのミズモトセイジさん(instagram)らが活動していることで、かねてより興味を持っていた「どい書店」。本屋だった古民家を改装して作ったイベント・コワーキング・その他多目的スペース、もう聞くだけでワクワクしてきてしまいますね。ずっと行きたいと思っていたのですがやっと足を運ぶことができました(といっても連れて行っていただいたのですが)。

 曲がりくねる川沿いの山道を進んだ先、初夏の日にたたかれた古民家は想像よりずっとすてきに見えました。ガラス戸を引いて足を踏み入れると、古びた書棚や箪笥に並ぶ色とりどりの本や、そよ風の抜ける爽やかな畳、ほのかに点る裸電球が迎えてくれました。おばあちゃんの家のような安らいだ空気が心地よく、すぐにくつろぎ始めてしまいました。

 今回はKo-kiさんの映像作品への協力ということでどい書店にお邪魔したわけですが、収録後少し時間があったので、わたしも何かしら作業を進めることに。ちょうど、「魔女になる装身具」の構想や、ライブの手売りチケット用の文章(前売り券をご購入いただいた方にお渡ししているとても短い文章の書かれた紙のやつ)のタスクが溜まっていたのでそれに手を付けることにしました。6畳ほどの居間の片隅に胡坐をかいて、PCで作業をするミズモトさんを横目に万年筆を手に取ります。

 松山でもよく喫茶店(主にコメダ珈琲店に滞在しています)などにてこういう作業をするのですが、明るいし人の気配が多いしで中々集中できません。美味しいコーヒーを飲みながら作業をするのは好きなのですが、電源とWi-Fiが完備されているそういう場所はいかんせん人の出入りが多く、また滞在する人も様々で、情報量が多いのです。ランチタイムだから混んできたな、隣に座った人も勉強をしているな、バイトが交替したな、待ち合わせの人がいらついているな、注意が散漫なわたしにとってはとにかく気が散る。そういう情報量や気づきの多さは良いところでもあるのですが中々作業は進まずモチベーションも上がらぬところ。そのあたりが静かでほどよく安らげるどい書店は抜群で、だから惹きつけられる人がいるのでしょう。

 しかし、ただの静かな古びた場所とは違った、もっとインタレスティングな趣がどい書店にあるのは、やはりそこが「好奇心の集まる本屋」、孤軍奮闘する若者がいる場所だからだと思いました。わたしは初めだらだらと絵を描いたり、座卓に伏して居眠りしたりしていたのですが、その隣ではミズモトさんが黙々とPCで作業、別室でもKo-kiさんが編集作業をしていました。静けさのなかに渦巻く、ただならぬクリエイティビティ。突っ伏した机上から目線を上げると、隣室の縁側に青々とした光が差すのが見えました。

 クリエイターと名の付く人たちは、基本的に謎めいているし、そもそも人間は分かりあうことができないと思っています。誰もが孤独で、そのなかでも企業などに属さない人たちは途方もない孤軍奮闘をすることになります。しかし活動は違っても同じように試行錯誤をする人たちと集い、共存するとき、わたしたちは知らず知らずのうちに勇気づけられ、進められなかった筆を進め、目を背けていた前を向けるのだと思います。

 集団孤軍奮闘——そんなアツい言葉が頭をよぎりましたが、どい書店の空気はとっても涼やか、ミスマッチすぎてちょっと笑えました。けれどここに集まる好奇心は、静かにその芽吹きに向けて闘っています。洗濯物揺れる中庭に西日が差してくる頃、Ko-kiさんが今日出来上がったコンテ映像を嬉しそうに見せてくれました。新しいものがあること、面白い人がいること。そのことはきっと明日のわたしを生かしてくれます。またここに来たい、集いたい。初めて心からそう思えたような気がする夏なのでした。

どい書店(https://doitshoten.com/)

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