今後の医薬品工場の環境対策

去る2021年5月26日、改正温対法が参院本会議で可決され成立した。2050年脱炭素社会の実現が謳われ、温暖化ガスの排出を30年度までに13年度比で46%削減するという、かなりチャレンジングな目標も設定された。このニュースを受けて私は、企業はこれまでの延長線上の環境対策では全く歯が立たないと感じた。

私の勤めている製薬会社でも、これまでは努力目標のような形であった目標が、数値目標として達成度をより厳しく見られるようになった。ESG投資やSDGsも環境対策の追い風となり、今後はもっと加熱することは想像に容易い。そんな中、今後医薬品工場はどこまで環境対策に踏み込まなければならないのか。特に省エネや自然エネルギー導入については待ったなしの状況であるため、これまでの概念を捨てて考えてみたい。

まずは、私の勤務する医薬品工場のエネルギー消費設備は、①クリーンルーム空調、②ボイラー、③コンプレッサーである。特にクリーンルーム空調は、工場消費電力の約50%を占める大規模なエネルギー消費設備であり、1時間に室内容積の20〜30回換気するための大型送風機や、温湿度調整するための大きな熱源(冷温水設備)にエネルギーを費やしている。①〜③の設備は何も常時稼働しているため、消費しているエネルギーのうち、生産量に影響しない固定部分(ベース部分)が大きく、生産が少ないほど製品単位当たりのエネルギー消費量が大きくなる特徴がある。この構図は、どの医薬品工場も同じであると思う。

では、どうやってエネルギー消費量を下げるのか。上記特徴を考えると、生産を集中させて必要な生産数量を短期間で確保し、残りの期間は生産を停止して、空調・ボイラー・コンプレッサーを長期間停止することが考えられる。これは、生産計画を綿密かつ正確に立てる必要があり、要員や勤務体系の整備、突発的な生産に対する代替策などが必要になるが、トップの覚悟さえあれば大きなコストをかけずに実践できるため、生産設備の稼働率が低い工場であれば、第一選択肢となり得るのではないかと考えている。

さらに踏み込んだ第二選択肢としては、チラーなどの熱源設備、ボイラー、コンプレッサーを集約し、複数の小型機による台数制御を実現することである。ベース消費量を下げるという考え方だ。これはコストがかかるため、どこまで実施するのかは投資効果を検証して決めることになる。ゼロかイチかの話ではなく、効果が高いものに絞って投資していくことが必要であると考えている。

残りの第三選択肢としては、熱源配管の保温、スチームトラップの点検・修繕、ポンプへのインバータ設置などの省エネ活動をコツコツと継続していくことが考えられる。環境マネジメントシステムに組み込んで、途中で頓挫しないように活動していくことが重要と考える。

これまでに3つの選択肢を考えたが、どれか一つを選択するという意図ではなく、効果が大きい第一選択肢から順番に検討し、トータルでの効果が最大になるようにこの3つの選択肢を組み合わせることが大切であると考えている。

最後に、これまでに省エネといったアウトプットを抑えることを考えてきたが、自社にとってベストな省エネ対策が構築された後は、太陽光・風力発電設備の導入、グリーンエネルギーや排出枠の購入など、インプットを検討していくのが良いのではないかと考える。

尚、上記はなるべく自社に損しないように、利益や効率を踏まえて話をしてきたが、サステナビリティを自分ごとのように考えなければならないほど、世の中の環境問題を含む社会問題が大きくなっており、今、世界は危機的な状況になってきているのだと思っている。それ故に、これまでの損得を中心とした考え方から、損をしてでも社会問題を解決していくという考え方へシフトしていかなければならないのだと、私は考えている。

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