見出し画像

「社内副業」は難しい:バックオフィスと協力が必要な検討箇所

 社員に対して正社員契約の時間とは別に業務を依頼する「社内副業」に関するニュースが再び出てきました。Twitterの反応を見ていると何者かあまり分からず警戒している方が多いようです。

 以前このコンテンツでもお話しましたが、2019年後半に「社内副業」なるキーワードが流行し、私も制度として検討したり、テスト的に回したりしていました。今回は「社内副業」を巡って何を検討すべきかを過去の経験を踏まえてお話します。ニュースを受けて「弊社ではやらないのですか?」と社員や経営層に言われたときの参考になればと思います。

 先に結論としてお話しますと、制度上とてつもなく面倒くさいので単一部署で走ることは危険です。労務・法務・人事と膝を突き合わせて時間をかけて打ち合わせないといけない代物です。仮に制度を実現したとしても広報に出すには躊躇う結果になりがちなのが「社内副業」です。

 まずは社内副業のメリットについてお話をした後に、検討すべき課題についてお話していきます。

 有料設定していますが、最後まで無料でお読みいただけます。もしよければ投げ銭感覚で応援をお願い致します。

【企業側】社内副業のメリット

 0から社外の副業人材を受け入れるより採用コストがかかりません。顔が分かり、スキルセットとレベルが偽りなく分かり、加えて人物面も当たりがついている人材に+αで働いてもらえるというのは大きなメリットです。社外副業人材と比較してスタート時点では遥かに安心材料が多いです。

 また、残業が社会悪となりつつある中、社員に規定時間以上に働いてもらうのは難しいものです。それをクリアするために社内副業が流行っている、そんな空気を感じています。個人の感想です。

【従業員側】社内副業のメリット

 リモートワーク全盛以前では、移動を伴う帰宅後にもう一社働くというのは非常にハードルが高いものでした。そのためそのまま場所固定でスライドで働くことができる社内副業にはメリットが感じられました。

 プロジェクトの状況や発注者、同じ副業者の顔が分かるというのはリモートワーク普及期の今でも大きなメリットです。副業や転職を躊躇うITエンジニアの理由の一つが「新規に人間関係を構築することに対するハードル」にあったりするので、予めある程度の関係性がある方からの発注にはそれなりに優位性があります。

 次に異動前のお試しとしての社内副業です。これにも一定のメリットがあるでしょう。自社内で異動してみて「やはり思ったのと違う」となってから転職活動をするということは履歴書の行数がいたずらに増えずに済む可能性も高く、メリットがあります。一方で異動の受け入れ部署としても、次々に異動して来られてもオンボーディングに困るので、社内副業のようなスポットでライトに始めた方がお互いのすり合わせには丁度良いのではないでしょうか。

社内副業を巡るサイバーエージェント社のプレスリリースの衝撃

 コロナ禍以前の2019年10月、サイバーエージェント社が社内副業についてのプレスリリースを発表しました。同時に新卒エンジニア逆求人イベントでも彼らは新しい取り組みとして紹介し始めました。しかしそれ以上に興味深かったのはその周囲の渋谷界隈のメガベンチャーが採用イベントなどで「実は我々も試行している」と言い始めたことです。ただし小さな声で。

 試行はしている、しかしプレスリリースを打つのは躊躇いがある、そしてどの会社も説明が凄く歯切れが悪い。それは何故かというと社内副業で乗り越えなければならない項目が複数あるためであり、全てを解決して表向きに発表するまでの道のりが妙に遠いためです。会社構成や契約形態によってこれらの課題は大きく変わってきますので、あくまでも一例として捉えてください。

課題1: 契約元の分離

 所属企業と複数の別の契約を結ぶのはおかしなことになります。正社員雇用契約を結んでいる所属企業Aとは別のグループ企業Bと業務委託契約を締結し、Bから作業指示を受ける形態になることが多いでしょう。この時点でグループを持たない企業だと厳しいかと思います。

課題2: 内容の本業との分離

 本業の業務内容Cに対し、副業でCをやらせるとなると雇用契約書と業務委託契約書を持って弁護士等への確認が必要かと思います。多くの場合は異なる業務内容Dを依頼することになるのではと思います。

 社内副業適用対象者が過剰労働で倒れたりしたとき、内訳を見たら同じ業務でしたとなると、更に厄介になるポイントだと予想しています。

課題3: 残業時間の管理

 これも面倒です。まず見込み残業とのバランス。45時間見込み残業があったとして、そこに+αで副業を載せたときに過労死ラインが見えてくるケースがあります。企業A、Bでそれぞれ過労死ラインには達していなくても、グループ企業として見ると越えているので管理責任が問われる可能性があります。

 また、社内副業に対して社内で反対意見が出やすいのが「見込み残業で良いのでは?」勢との衝突です。見込み残業を廃止してから社内副業に取り組んだ方が変な矛盾を抱えずに済みます。

 加えて有給を取って社内副業をする人が出てきたときに論理的には正しい気はするのですが、外から見たときに同一企業内で有給買取して働いているように見えなくはないので、中間管理職としては複雑な表情になります。

課題4: 本業と副業の業務時間バイオレーションが起きやすい

 同一組織という甘えから、社外副業よりも本業中の内職が多いのでは?という懸念があります。Githubのコミットログとかでバレがちです。社内で完結してしまえるからこそ、違反者に対する罰則規定をどうするか設定しておく必要があります。

課題5: マネージメントを誰がいつするか

 契約時間外に稼働する副業人材のマネージメントは誰がするのでしょうか?一般的な副業であれば、組織外の人なのでマネージャーの気持ちの整理もつかなくはないのですが、社内副業となると「あなた、副業。私、残業」という構造が明確に現れます。更にここにマネージャーについて見込み残業を適用すると荒れがちです。

 余談ですが、社内副業の制度検討・調整コストが余りに高いので、個人的に湧き上がってきた感情としては「この制度づくりをする時間からして副業にならないかなぁ」というものがありました。

 マネージャーの気持ちの折り合いが付きにくいのという特徴もまた、社内副業だと感じています。

まとめ: 社内副業のプレスリリースは大体歯切れが悪い説

 メリットに対して課題が多すぎるのでは?というのが私の感想でした。

 メンバーは「うちには社内副業はないんですか?」「いつ社内副業が始まるんですか?遅いですね」と中間管理職に要求しがちです。しかし運用するには繰り返しになりますが労務・法務・人事と連携して検討しないとまずいのが社内副業です。

 いっそ見込み残業を廃止、一分単位で残業精算、組織を横断して業務を依頼・履行できる流れを作った方が良いのでは?と個人的には考えています。

執筆の励みになりますので、記事を気に入って頂けましたらAmazonウィッシュリストをクリックして頂ければ幸いです。
https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/COUMZEXAU6MU?ref_=wl_share


ここから先は

0字

¥ 500

頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!