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スタートアップ界隈に思い入れはありますが、誰でも勧められるものじゃないですというお話

私自身、2012年に学術からビジネス領域に移ってきてからというもの、合計3社の社員数50-1000名規模のベンチャーを渡り歩き、今でも開発組織構築のお手伝いなどをしているため、だいぶスタートアップ寄りの人生です。

ここに来て、スタートアップが若い人たちに人気だという話がありました。

スタートアップへの転職に関する質問では「条件次第ではしたい」が58%と最多。「積極的にしたい」も9%だった。「どちらかといえばしたくない」は22%、「したくない」は7%だった。

エン・ジャパン調査

スタートアップそのものは日本政府も後押しするように、新しい産業を作るという点では結構なことだと感じています。しかし手放しで誰にでもお勧めできるかというと違うなというのが個人的な見解です。今回はスタートアップをキャリア選択に入れるという点でアンチパターンや適性についてお話しします。

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スタートアップを選択する上での注意点

新卒、中途に関わらずスタートアップ企業に入社するという意思決定前に意識しておく必要があるものを次に列挙します。

スタートアップは自由ではない

スタートアップを希望する理由について、規則や評価制度からの開放を挙げる方が居られます。

特に初期のスタートアップにおいては規則はまだ未整備なだけです。採用のために「思うような組織作りをして貰って構わない」と言われているケースもありますが、2022年11月以降の景気後退で売上優先になっている組織ばかりのため、内部を整えるのは後回しになる傾向があります。

度々見られる組織として「規則は作らない」と豪語するスタートアップもあります。時折炎上する某社での「バカは入れない。入ると規則を作らねばならず、不自由になる」というものがあります。リファラルを中心に目の届く規模での組織であれば50名くらいまでは耐えられる場合があります。多くの場合、人数が増えたり、人数増加速度が早いと破綻します。エンジニアの中には規則を見るとハックしたくなる人も一定数居り、歪んでいきます。大抵の組織においてある程度の人数規模を越えると規則の作り込みをせざるを得ないです。

また、社長が規則という組織もあります。多くの人にとって明文化されている方が自由でしょう。

詰まるところ、需要があり、成長していくスタートアップについて入社前に感じる自由は気の所為です。

リスキリング文脈でスタートアップに派遣される人が居る事実

大手企業系VCで出資と共に人を出すケースがあります。当該役職の人がバリバリのスペシャリストであり、スタートアップらしくしゃにむに働くのであれば理想ですが、そうでもないケースが多々見られます。

全くの異業種からリスキリング(学び直し)文脈でやってきたりすると教育コストが発生します。期間限定で本人は元に戻れると思っていたりすると学ぶ姿勢はなく、期間内は耐え忍ぶ姿が見られたりもします。

エンジニアでも当該プロダクトのモダンなスキルセットを持っていない人が派遣され、プロダクト開発を経て当該モダン言語を習得して戻ってくることが期待されているケースも見られます。こちらも教育コストが発生します。

類似の事象で複数の大手企業によるジョイントベンチャーでお金と人を出すケースがあります。スタートアップだからと入社したところ、多くのメンバーが天下りマインドで、「選考時には壮大な話があったが、これまでの人生で一番働いていない」とボヤく話も聞こえてきました。

立ち上がったばかりのスタートアップに風評はありませんが、副業や業務委託から始め、内情を見極めてから正社員になるのが宜しいでしょう。

従業員がワークライフバランスを求めるとシード期スタートアップは倒産リスクが高まる

2022年までは頭数を揃えることが正義だったので、スキルがジュニア層で「ワークライフバランスが大事」という人も採用されていました。

2023年になり、スタートアップ界隈でも具体的な売上を求められるようになっています。その中でよく経営層からご相談を頂くのが「ジュニア層の社員が残業しない」というものです。月に1時間残業すると文句を言われるというレベルです。中には業務時間外に障害が起きても連絡がつかないケースもあります。

ワークライフバランスを求めるのは結構なのですが、スタートアップでそれを求めるのは違うと思います。特にVCなど他人のお金を元手に事業を開始している場合は速やかに収益化し、EXITを目指すべきです。しかし残業してくれないジュニア層が多数を占めると、時限爆弾を背負った経営層と、業務委託のような正社員メンバーの乖離の構図ができてしまいます。

全く業務時間外に働きたくないという人を動かすのは極めて困難です。そういう方には1分単位で残業時間を精算する大手・中堅企業に行っていただくのがお互いにとって幸せでしょう。

スタートアップ界隈で起きがちな不景気に弱いキャリア構成

今でもベンチャーであっても一部企業では下記の項目をアンド条件で中途採用をしている組織があります。大量採用には全く向いていないのですが、コンサバに組織拡大をしていることからエンジニアバブル後の現在であっても継続的に採用している傾向にあります。

  • 次で3社目であること

  • 1年未満離職がない

  • 離職理由が前向きなものである、もしくは合理性がある

  • いずれの組織でも何かをやりきった実績がある

スタートアップで見られやすい短期離職

しかし非常に残念なことに、こうした企業とスタートアップキャリアの相性は良くありません。スタートアップは下記のようなリスクがあるために短期離職が発生しやすいです。

  • 会社倒産

  • ピボットによる当初入社者が抱いていたミッションとの乖離

  • 小さい組織故のハラスメント、労基無視

2番目については起きやすいです。新規事業の構想に賛同したものの、リリースまで辿り着かなかったり、リリース後ほどなくして撤退することもあります。プログラマの場合はあまりありませんが、エンジニアリングマネージャーがプロジェクトマネージャーに、マーケターがセールスになど不可抗力によるキャリアチェンジなどもあります。私もいつの間にか予算目標が背負わされ、アカウントマネージャーとして営業活動をしていたことがあります。

3番目もよくある話です。一桁人数の組織だと人事異動をしても上司は変わらないでしょう。「俺がルールだ」と過去の判例を踏まえても訴訟リスクのある10%以上の減額を連発する組織の話も聞きました。

いずれも退職はやむを得ないように見えますが、転職が続くと受け入れハードルの比較的低いスタートアップか、フリーランスでしか生存できなくなるリスクがあることは頭に入れておく必要があります。

スタートアップに入っても良い人の傾向

スタートアップに入っても問題ない人の特徴は下記です。

  • 育ててもらうのではなく自立自走できる

  • 自分の専門性を名言できる

  • 会社が倒れても転職できるスキルと自信がある

  • ハロー効果に恵まれなくても大丈夫と言いきれる

キャリアには「外に向けてアピールできる実績」というお土産が必要だと考えています。実績そのものは当然事業貢献という形で企業に還元されるわけですが、被雇用者のポートフォリオとしても有益です。うまくすれば給与以上のリターンがその後得られる可能性があります。

スタートアップ企業にしても事業にしても、ゼロからのスタートに憧れる人たちは多いですが、やりきるためには本人やチームの努力やスキルだけでなく、世間的な需要も伴わないとなりません。リリース前やリリース直後にお取り潰しになる可能性もあります。

このnoteでも度々紹介していますが、アメリカのスタートアップの暗部を描いた一冊です。2017年の話ですが、これと同じことは日本のスタートアップでも起きています。入社意志決定前に読んでおくことをお勧めします。

キャリアの仕切り直しにはスタートアップは有効

個人的にはオーバードクターをしたために30歳で就職をしたわけですが、就職活動時にはビジネス界から見ると「未経験なのか経験者なんだかよく分からない」という評価になりました。そんな私に声をかけてくれたのもスタートアップならではだと思います。

やりきる覚悟があり、暫く企業や事業が存続するのであればキャリアをロンダリングするチャンスがあるとも捉えています。ただし本人がやりきるだけの腹を括るだけでなく、企業全体がやり切れる状況にあり、世間の需要も後押ししないと何者にもなれないリスクがあるので、しっかりと企業を選ぶ必要があります。

スタートアップの雰囲気を味わえるが、リスクは少ない企業の条件

たびたび人材紹介のエージェントの方ともディスカッションになる項目でもあります。いくらスタートアップへの就業が自己責任とはいえ、企業をお勧めする立場にあるのが人材紹介であるため、勧めて入社した先がほどなくして給与未払いになりましたという展開は割けねばなりません。他にも収益都合で内定取り消しが起きたり、人材紹介フィーが払えなくなったという話も耳に入っています。候補者だけでなく、人材紹介会社も勧める先の企業の確からしさについてアタリをつけて行かなければなりません。

仮説ベースですが、いくつか企業の確からしさを裏付けるものとしてチェックポイントがあるのではないかと考えています。

一つはどこから借り入れをしているのかというものです。私自身個人で細々と事業をやっていますが、どうも世間的なスタートアップの定義は「資金調達し、ガツンと時価総額を上げる」という暗黙の定義があり、スタートアップ扱いされない感じが強く、スモビジ(スモールビジネス)として扱われている印象があります。他からお金を借りるのがスタートアップだとすると、外資VCなどを頼ると国際的な景気だけでなく、為替の影響もあるために国際経済的な読みが必要です。特に2022年‘11月以降は出資が厳しいため、背に腹は代えられずによく分からないところから借りているところも多いです。

スタートアップ事業や会社の歴史が浅い場合であっても収益の柱としてクライアントワークやコンサルティング部門があったりすると、借り入れをしていない、もしくは銀行借り入れのみ実施というパターンがあります。お金回りについて外的要因にさらされにくい分、リスクは低いと言えます。実際に採用を継続している企業もこうした傾向が見られます。

他に収益の柱としてITとは遠い全く異なる業態のものが収益の柱であれば、IT業界の不景気から距離を置けるためリスクヘッジになります。

いたずらに若手にスタートアップは勧められない

VCでは祭りのスポンサーなどを通し、学生を集めてお祭り騒ぎをし、事業化の卵を集める集客手法が見られます。「元気な若い人を集める」という手法は成功しているように思われますが、資金調達のリスクなどについてきちんとインプットしているのでしょうか。リボ払いと同質の問題が起きているように思えてなりません。

また、ここに来て業界をけん引してきたコンサルブームに陰りが見え始めています。大量採用しすぎたことと、新規案件に限界が見えてきたためにアベイラブル(案件未アサインの待機状態)になる方が増えているというお話です。PIPが言い渡されたり、居た堪れなくなって転職する方も居られます。ただ元コンサルティングファームという肩書のハロー効果は大きいので、スタートアップ界隈にもより流入していくことが予想されます。経営企画室やCSOなどに入る方もここ数年見られるのですが、カルチャーが違いすぎるので必ずしも定着するとは限りません。

楽し気なイメージ、自由なイメージで入るとお金があるうちは理想とマッチするかも知れませんが、永続的に反映する企業は稀です。事業が成長し、会社規模が大きくなれば普通の会社と同じように規則ができます。

人数が足らず、ハードルを下げて積極採用している企業であれば中途入社しやすいのは確からしい傾向にありますが、倒産するリスクもありますし、給与未払いの話もあります。

スタートアップは自己責任です。安定やワークライフバランスを重要視するのであれば大企業に行きましょう。一旦それなりのサイズの企業に入り、社会の仕組みを見聞し、何かをやりきってから挑戦するというのも手堅いと考えています。


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