マガジンのカバー画像

入道雲products

6
メンバーの作品を掲載しています。 創作物が寄り集まって風景になる。 ぜひ、眺めていってください。
運営しているクリエイター

記事一覧

行ってきます。

Created by なま かつて、鏡に向かってこう問いかけたものがいたそうな。 「鏡よ、鏡、世界で最も美しいのはだれ?」 生まれてこのかた、どうにも鏡というものを好かない。そこに写る虚像であるはずのものが、私を飲み込むように思えてくるのだ。似たような感覚でいくと、自撮りなんてしない。私の見える世界に、私はいない。写真に写ることも、正直に述べれば避けたい事態である。しかし、拒み続けることはできない。なぜなら、社会生活を営むうえで、鏡も写真も、切り離すことは難いことだからだ

おふとんのなかのくに

お布団の中にいると、まるで宇宙を漂っている羊のような気分になるんだ。広いんだよそこは、ほんとうに広いんだ。どこまで進んでも終わりが見えない。ただただ星たちの瞬きが見えるだけさ。 外に出る?外に出る? 君は僕に外に出てこいと言うのかい?太陽がコンクリートを焼き付けている外に出ろと?いやだね。僕はいやだね。 いいじゃないか、君は外で暮らす。僕はお布団の中で暮らすよ。 何も問題なんてないじゃないか。 君は外の方が明るくて広いなんて言うけどさ、お布団の中に潜ったことがほんとうにある

早春

 徐々にボリュームを上げながら、無機質な電子音が響いている。カーテンが閉まっているので、部屋は暗い。ひろみは枕元のスマートフォンを手に取って、アラームを止めた。時刻は、朝の七時四十五分。瞬く間に目が覚めた。即座に布団を蹴り上げた。すぐにリビングに駆け込んだ。 「かあさんっ!」 母は悠長に朝食を摂っていた。慌てて飛び起きてきた娘の姿を見て、首をかしげた。ひろみは、その母の姿を見て、前髪をかきあげ、ため息をついた。 「かあさん、起きてたのなら起こしてよォ。」 「あら、何かあったの