スタートライン 11(小説)

 報道記者に密着取材を受けるのは初めてであった。海で開催されるダイビング講習に、共同通信社の記者が二名同行していた。僕や他の人たち、そして講習生役になってくれた人にもインタビューをした。寝る所もその記者と同じ、食事も同じという事もあり、こういう機会なんて滅多にないからこそ、抱えていた疑問をぶつけてみた。

 共同通信社の記者は様々な現場に出向き、記事を作る。そしてその記事を全国の新聞社が採用し、ネットニュースにもなるし、テレビのニュースでも頻繁に取り上げられている。ただの好奇心から報道の裏側を覗くつもりで質問をした。そしたら、この講習会の主催者と一緒に、障がいのある人へのテレビ番組の姿勢を教えてくれた。それは想像を越える内容であり、益々障がいのある人への偏見が削がれて良かった。学科講習でも、障がいとは特徴であり、いい人もいれば悪い人もいるというのを知らされていた。善人ばかりではない。乙武さんみたいに前向きな人もいるけど、悲観的な人もいる。それにはハンディの有無は関係などない。演出とやらせの実態も聞いたが、それから僕のテレビ番組を見る姿勢に変化があった。障がいは特徴だ。僕は目が悪く、コンタクトかメガネを普段使っている。コンタクトやメガネがないと僕は見えない。江戸時代だとおそらく障がいの一つと見られていたのかもしれない。

 海で実際にハンディのある人と潜ったが、その時が初めてのハンディダイビングであった。
 どんな人だろう?と多少の緊張があった。その人はダイビング経験者であるが、今回講習生役に手を挙げてくれたらしき。その人は障がいを持ってからダイビングにチャレンジして、その歴は立派なヘビーユーザーと呼べた。

 僕達が先に就いて待っていると、一台の黒い車が入ってきた。その人だ。
 駐車すると、
運転席が開いた。後部座席にあった車椅子を手際よく出し、彼はそこに座った。
 何かした方がいいかも?と思ったが、事前にあまり手を出さなくていいと言われていた為、僕は彼の動向を見守る事に徹した。手をだすと、後で彼が自分で戻したり手が届かなかったりするから、困っていそうであった場合、手より先に声をかける様にと言われていた。出来る事は全てやってもらうという方針は、双方にとって居心地いいものになっていると実際に目にして感じた。

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