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届けほめ言葉

「人をほめるのが苦手なんだよね」

数年来の男友達に言われて驚いた。もったりとした空気がまとわりつく夏の夜、床がつるつる滑る高架下のラーメン屋。我々はばかみたいに真っ赤なソファのボックス席で、醤油ラーメンとたこから揚げとレモンチューハイを間に向き合っていた。苦手ってどこが。あなたはいつも、たくさん私をほめてくれているじゃない。

事実、彼は会うたびに私をほめてくれるのだった。あの文章はよかった。あんなに本を出して、頑張っているよね。毎朝占いを続けてるのすげえよ。こないだより元気そうだよね。全然ムチムチじゃないよ。彼の言葉はいつも正直で善良でさりげなく、友人として関心を持ってくれていることが伝わってくる。心が元気なときでもささくれだらけのときでも、心地よく響く彼の言葉が好きだった。まあムチムチはムチムチなのだが、それは言うまい。

うまいほめ方のテクニック的なことなんて、ちょっと検索すれば星の数ほど出てくる時代だ。男の人ならこだわりや持ち物を褒める、仕事なら姿勢やプロセスを褒める、などなど。忖度と計算、コントロール欲の応酬。

ほめるのは難しい、と思う気持ちもわかる。ほめているようでただのマウンティングに成り果てる喜劇、かえって相手のコンプレックスをほじくり返すことになる悲劇。下手をすればセクハラになりかけたりもする。ただ、彼のほめ言葉にはそうしたいやらしさはかけらもない。変にこねくり回さなくていいのに。

「あ〜、もっとなんかこう、うまくほめられる人になりたいんだよなー」

そうか、と甘ったるいレモンチューハイのジョッキを傾けながら思う。いくら相手が「ほめられた!」と思っても、ほめたと思っていないと本人は「自分はほめるのが苦手だ」という認識になるのか。

「上手にやろうとしなくていいじゃん、ほめるのうまいよ」そう言うと、彼は「えーなにそれ適当!」と破顔した。つられてこちらも笑ってしまう。うるせーその飾らない言葉だからいいんだ、一生不満がってろ。あなたは普通に話しているだけで人をちゃんとほめている、すごい人だよ。言葉の海にまみれていつか届け、私のほめ言葉。


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