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ある秋の日のおまじない

小学生の頃、いじめを受けていた。入学式のすぐあとから担任の先生にブスと言われ始め、ほどなくして毎日のように皆の前で顔を叩かれるようになった。同じクラスの子どもたちは素直に先生の行動にならい、5年生まで菌類の名前で呼ばれたり、いないことになったりしていた。

あるとき、親に頼み込んでおまじないと占いの本を買ってもらった。「それ何?」と、本をきっかけに会話が始まるクラスメートの様子をいつも羨ましく感じていたからだ。本さえあれば、私にだって友達ができるかもしれないと思った。中にはどきどきするような、不思議なことがたくさんたくさん書いてあって、夢中で読んだ。緑のボールペンでインクが尽きるまでお願いごとを書くとか、消しゴムに好きな子の名前を書くとか、人のかたちに切った紙を月の光に当てるとか、そういうの。

本は学校に持っていったけれど、私に関心をもってくれる子がいなかったので、学校の裏山の落ち葉がふかふかに積もったところに座って読んだ。秋だったのだ。「友達ができるおまじない」というのがあって、すぐにやってみた。あたりは夕方のやさしい光で満ちており、大きく息を吸うと枯れ葉のにおいが胸いっぱいに広がった。明日からの日々が、少し良くなるような気がした。

それから随分と長い時間が経って占い師になり、いつか子ども向けの占いやおまじないの本を出すことができたらいいなあと思うようになった。企画書をつくって出したこともある。小学生の女の子はけっこうな確率で占いやおまじないにハマる。できれば、友達と見せっこしたり、引っ込み思案な子がコミュニケーションのきっかけを作ったりしてくれたらいいなあ。そんなことを考えながら「こういうしくみなら楽しめるんじゃないかな」「こんなテーマが盛り上がりそう」なんて、ノートにアイデアをためていた。すると、自分でも驚くことに叶ってしまった。

2017年10月7日、長年の夢は私にとって9冊目の本『キラキラハッピー!あたりすぎる心理テスト&うらないブック』(宝島社)という形で世に出ることとなった。

発売日は土曜。書店に足を運んだら、見本として出してある1冊を女の子2人がのぞきこんで、互いに心理テストを出し合っている。小さな頃の私が、夢にまで見た光景がそこにはあった。私にはできなかったこと。味わえなかった体験。本当に嬉しかった。視界がにじんでしまって、色とりどりの子ども本コーナーをしばし離れる。

人生はどうしたって、どこかで何かがぽろっと欠けてしまうことがある。その欠落を抱えながら生きていく。私も友達がほしかった。ひとりぼっちで過ごしたくなんてなかった。でも、時間は取り戻すことはできない――そう思って過ごしてきたけれど、私以外の誰かが楽しそうに、嬉しそうにしてくれることでやさしく埋められていく欠落も、あるのだと知った。

友達からも写真つきメッセージがたくさん届いた。彼ら・彼女たちの子どもが食い入るようにして読んでいる姿を見て、また涙目になってしまう。そうだ、あのときの「友達ができるおまじない」は、すぐには効かなかった。それでずいぶんがっかりしたけれど、小学校生活の終わり頃からじわじわ効き始めた。その効果は今に至るまで、ずっとずっと続いているんだ。


『キラキラハッピー!あたりすぎる心理テスト&うらないブック』


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