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ずっと前から花には嵐

曇ったり晴れたりの昼間を過ぎて、夜もふけた頃に雨粒が窓を叩く音がした。強い風がガラスを揺らす。おだやかな日だったのに、と外を見ると、闇にぼうっと桜が浮かんでいる。もはや有名すぎるほど有名な漢詩だが、于武陵という唐代の詩人が作った五言絶句『勘酒』を思い出した。

『勧酒』
勧君金屈巵
満酌不須辞
花發多風雨
人生足別離

これをすばらしい訳に仕立てたのが『山椒魚』などで知られる井伏鱒二だ。

この杯を受けてくれ
どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ

「春の嵐」ということばがあるように、花が咲けばまるで狙っていたかのように突風が吹き、殴りつけるような雨が降る。「明日ありと思ふ心の仇桜夜半に嵐の吹かぬものかは」と親鸞上人も詠んでいる。

何より印象的なのは「さよならだけが人生だ」という一文だろう。その寂しさに、そして現代でもそれが変わらないこと普遍性にはっとする。たぶん唐代でも「それな!」と言われていたに違いない。そもそも日本に目を向けてみても、万葉集の惚れた腫れたは腰を抜かすほど現代と同じだ。そこに人間の業を感じて嘆くのか、変わらない滑稽さを感じて笑うのかは、どちらも真実だろう。

ならば、と私は思う。さよならだけが人生ならば、せめて今つながっている人を大切に。花が開き、人生の頂点のような日々を過ごしていても、人生にはいつ嵐がやってくるのかわからない。大切な人をちゃんと大切にしよう。美味しいお酒を注いであげて、さあ飲もうよ、今を楽しく過ごそうよと言うようにね。罪深い花散らしの雨音を聞きながら、そんなことを思う。またいつか会いましょうと、桜の満開を待たずに逝った人への言葉を虚空に放って。


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