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ハピネス

部屋の照明を消すとちいさな青いライトがすうっと灯って、やがて消える。青いのが消えるまでお話しようか、と恋人が言った。今日も楽しかったね。晴れていてよかったね。どのごはんもおいしかったね。次は何をつくろうか。

小さな幸せ、

眠気が混ざった口調で彼がそうつぶやいてひと呼吸おき、かすかな寝息が聞こえてきた。すこやかで気持ちの良い音。耳を澄ませていたら、引き込まれるように青いライトも消えてとっぷりとした闇が訪れる。「小さな幸せ」というのは嬉しいとき、彼がよく口にする言葉だった。それが実在するのだということを確かめるように、噛み締めるように。

彼は“小さな幸せ”と言うけれど、私にとってはとんでもなく大きな幸せだった。長いあいだずっと欲しくてたまらなくて、でも手に入らなくてもがいていた。やっと手にしたと思ったら、淡雪のように消えてしまったこともあった。そもそもひとりよがりな幻想にすぎず、苦さだけが残ったことも少なくない。全然小さくなんてないよ、すごく大きい幸せだよと抗議すると、彼はふと真面目な顔になって言うのだった。ねえ、こういうのは普通なんだよ。あかりさんには普通の幸せをもっと、もっとたくさん味わってほしいよ。

名前を呼んでからだに触れて、言葉を交わすことを忘れずにいましょう。突然いなくなったりしないで、お互いにとってベストな一致点を見つける努力をしましょう。ふたりで小さな幸せを見つけて、ひとつひとつ積み重ねていきましょう。幸せが小さいだの大きいだのと言いながら12月の私たちがした約束は、お互いがずっと手を伸ばしてきたものなのだろう。傷つくような悲しい思いを「しないように」から「させないように」とベクトルが変わった、つめたい風が吹くあたたかな冬。



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