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読んだり観たり。

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読んだり観たりしたものを書き留めています。
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『落下の解剖学』 ANATOMY OF A FALL

久しぶりに、どれくらいの人が見てくれているのかな、というのと、感想を書き留めておかないと何もかも綺麗さっぱり清々しいまでに忘れていく、というのもあって、「読んだり観たり」を更新してみることに。
『落下の解剖学』を、(オウチスキーなのでプロジェクターで居間の壁に映し、ソファーでくつろいで)観た。2023年 ジュスティーヌ・トリエ監督。おお〜これは観る人の人生経験や普段の問題意識や引っかかりとその感度

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持続可能な魂の利用

持続可能な魂の利用

著者の松田青子さんに『赤白つるばみ・裏 / 火星は錆でできていて赤いのだ』の帯に文章をお願いしたのには、いくつか理由がある。『ワイルドフラワーの見えない一年』(河出書房新社)を読んで、特にオフィーリアが実にさりげなく流れて行くところ(最高なのでぜひご自身で確認してほしい)に感服し、それからたまたまいくつか彼女の帯文を見る機会があり、松田青子さんの書く帯文は、いずれも彼女の作品と同じクオリティだとい

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KILLING EVE

 Fleabag の脚本、主演も全てこなした今を時めくフィービー・ウォーラー=ブリッジ(Phoebe Waller-Bridge)の次なる作品、ということで、 公開前からイギリスでは相当な期待がかけられていた KILLING EVE ですが、 期待を裏切らず面白い。サイコパスの殺し屋ヴィラネル(ジョディ・カマー)の情け容赦のない描写もいいし、MI5で働くイヴ(サンドラ・オー)のリアリティも良い。フ

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Battle of the Sexes/Three identical strangers

 飛行機で観て非常に得した気分になった映画2本。

 前回のフライトで、あと30分くらいのところで着陸態勢に入ってしまい、クライマックスの試合の結果を見ずに尻切れトンボで終わった Battle of the Sexes(邦題『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』)のつづきを1年越しで見ました。だいたい想像がつくからまあいいや、と思って気になりつつもそのままになっていたのですが、こんなにもスッキリ爽快な結

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DON McCULLIN + BURNE-JONES ★★★★★

DON McCULLIN + BURNE-JONES ★★★★★

Tate Britain で。

 ラファエル前派は、好きだけどちょっと綺麗すぎるんだよね、でもまあテートでやるバーン=ジョーンズは見ておかないとな、と、最終週に見に行ったらすごい人人人で、わあ失敗、と思いましたが(人が多いともう見ないでそのまま帰ってもいいかなくらいにテンションが下がります)頑張って見切りました。ペンとインクのドローイングが凄くて、でも水彩も油もキラッキラでやはり凄くて、すごーい

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The Favourite

昨日BAFTA(ブリティッシュ・アカデミー・フィルム・アオード)で『The Favourite/女王陛下のお気に入り』が Best British Film, Best Actress, Best Supporting Actress, Best Original Screenplay など7部門で受賞した記念に、正月ごろ観てだいぶ時間が経っていますがちょっと感想を書こうかな、と思って思い出しつつ

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ROMA

 アルフォンソ・キュアロン監督『ROMA/ローマ』を、ロンドンで2番目にお気に入りの映画館のお気に入りの席(最後列の二人掛けに一人で座る)で観ました。ロンドンではその系列の映画館のみで公開。しばらく1番お気に入りの映画館で事足りていて、こっちに来ていない間に、4Kラージスクリーンに加えドルビーアトモス音響システムが導入されていて、四方八方から音が聞こえてくる。ベース音も座席に響く。なるほど、これな

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Can You Ever Forgive Me?

私が世界で一番好きな映画『ウィズネイルと僕』のウィズネイルが、年取って丸くなってちょっと人の気持ちがわかるようになったけど、まあ基本的に相変わらずのろくでなしっぷりで、それをまた水を得た魚のごとく素晴らしく演じるリチャード・E・グラント、を、かっこいいわーかっこいいわー、と、ときめきながら観る。ための映画である。私の他に5人しか観客のいない平日13時半の映画館の三人掛けソファーに一人で陣取り、カウ

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ニュルンベルク合流 「ジェノサイド」と「人道に対する罪」の起源

ニュルンベルク合流 「ジェノサイド」と「人道に対する罪」の起源

 去年、訳者の園部さんから直々に頂いた550ページ以上ある大作です。(厚さがわかるよう、隣に『犠牲のシステム 福島・沖縄』を並べてみました。)

 頂いたにも関わらず、そのあまりの厚さと主題に臆して、なかなか取りかかれずにいましたが、Holocaust Memorial Day ということで、読み始めるのには最適な日ではないか、と、読み始めたことをここにこう書き記しておけば、後に引けないんじゃない

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『犠牲のシステム〜』読了。哲学者高橋哲哉氏による2011年の著作。犠牲にする者、されるものという視点から、今現在の日本の状況を順序立てて考える手助けになる。自己責任などという意地の悪い、軽い、何も意味しない(または本来の意味を秘匿する)言葉とは違う、責任の所在を真摯に考える。