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浅生 鴨「中の人などいない: @NHK広報のツイートはなぜユルい? 」/世の中は案外、綺麗事で出来ている。

今月のコルクラボの課題図書は元NHK広報の方の著書「中の人などいない:@NHK広報のツイートはなぜゆるい?」。

NHK広報局のTwitterアカウントは2017年5月現在、約170万を超えるフォロワーを獲得している。AKB48のさっしーこと指原莉乃が約160万、糸井重里さんで約200万なのだから、すごい数である。そんな「伝説の広報アカウント」をどのような心持ちで作ったのか、の秘密に迫るのが、この「中の人などいない:@NHK広報のツイートはなぜゆるい?」だ。

まず面白かったのが、著者であり、このTwitterアカウントを最初に開設した浅生鴨さんが、この本を書くに至った経緯だろう。

私がNHK広報局の公式アカウントでツイートするようになってからおよそ1年。
(中略)
私は本当にこのやり方でいいのかなと少しだけ不安を感じていました。そんな時にたまたまネットで見つけたのが「ソーシャルメディアで楽しくコミュニケーションして、お客さんを満足させるマル秘テクニック」といった感じの、ちょっと微妙なタイトルのセミナー。おっこりゃ他の会社の人と知り合いになるチャンスかも。これに行って他の会社の人たちがどんな感じでツイートしているのかを聞いてみよう。
浅生鴨「中の人などいない:NHK広報のツイートはなぜゆるい?」

そんな気持ちで参加されたセミナーで取り上げられたのが、なんと、自らがまさに運用しているNHK広報局のアカウント。そしてその内容に大きな違和感を感じられて、それで執筆されたのが本書、なのだそうだ。

そして読んで頭が下がる思いだったのが、浅生さんの「フォロワー」に対する真摯な姿勢だ。NHKを少しでも身近に感じてもらいたい、そのためにはどうすればいいか、が「NHK広報局のTwitterアカウント」の原点。フォロワーを増やして、影響力を持ちたい、などではさらさらない。先に挙げたセミナーで浅生さんが感じた違和感の正体は詳しく書かれてはいないのだけれど、的外れに思われたのだとしたら、恐らくそこが原因だろう。
概してこの世の中においては、「Twitterフォロワー数=力」だと思われている。そして力を持つために、何とかフォロワーを増やせないか、という発想でTwitterを使いこなそう、そう思う人の方が圧倒的に多い。
かくいう駆け出しのライターである私も、@makicooo というアカウントを開設していて、なんとかフォロワーが増えないものかと試行錯誤をしている最中。が、この本を読むと、そんな「フォロワー数=力」に魅入られているようでは、てんで人の心を掴めないのがよく分かる。

世の中には色々なハウツーが溢れている。Twitterのフォロワーの増やし方についても、それこそたくさんのノウハウがネット上に溢れている。リツイートをよくする有名人アカウントにリプを飛ばす、トレンドワードを上手く使ったツイートをする、写真付のツイートの方が読まれやすい、etc..etc..

本書にはそんなハウツーの類はない。唯一あるとすると、目的をもってアカウントのキャラ設定をきちっとしようということくらい。ただそれすらも「枝」でしかないのは、たとえTwitterであろうがなんだろうが、相手があってこその言葉、ということを、この本は繰り返し教えてくれるからだ。

伝えたい気持ちをどうやって言葉にするか、は難しい。それはTwitterであっても、文章であっても、そして大切な人との会話であっても。

ただ誰かに伝えようと一生懸命考えた言葉は、より伝わる可能性は高くなって、それを突き詰めていくとNHK広報局のTwitterのアカウントになり、多くの人の心をうつ文章になり、そして大切な誰かを動かす一言になる。

世の中は案外、綺麗事でできている。

そんな清々しい気分にもなる、まるでサプリのような一冊なのであった。



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