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映画「メッセージ」(ネタばれあり)/未来のために今を我慢しない生き方

先日旅行に行き、話題作「メッセージ」を機内でみた。SF小説の傑作といわれるテッド・チャンの短編「あなたの人生の物語」を実写化した作品だ。公開初日にFacebookで友人が絶賛していたのもあり、気にはなっていた。ただ私は、SFの世界観があまり得意ではない。「インターステラー」ですらぴんとこず、「オデッセイ」も「ゼロ・グラビティ」もそんなに楽しめなかった。

「読書が好き」という人は概ねミステリー派とSF派に分かれるように思う。私は生粋のミステリー派でアガサ・クリスティとレイモンド・チャンドラーの著作は全巻持っているほど。いっぽうSF小説はブラッドベリを少々嗜んだ程度で、名作、と言われている作品にすらほとんど触れたことがない。テッド・チャンという名前も初耳だった。
そんな状況だったから機内のエンターテインメントリストに「メッセージ」があったのはとてもラッキーだと思った。話題作だから内容は抑えておきたいものの、そこまで積極的にみたい訳じゃない。だから、狭い機内の中で時間つぶしにみるくらいがちょうどいい、そんな感じのモチベーションだった。

作品中、最初にぐっときたのが、未知の生命体とのコンタクトをとろうとする時にヒロインがとった手法だ。映像の中で彼女がやろうとしたことは、大学で習った、未開の地で言語学者が試みるアプローチそのものだった。言語学的アプローチが宇宙人とのアプローチにも役立つ可能性にワクワクした。SFはどこか架空の出来事を取り扱っている、そんな冷めた目を持っていたのだけれど、物語にぐっとひきこまれるきっかけになった。

そして最後まで見終えて、何よりぐっときたのは、「未来」に起きる困難を受け入れる選択をした、ヒロインの生き方だった。

私が知るSFというのはいつだって、気に入らない未来を変えてきた。素敵な未来を手に入れるためになら何だってする、というのが、私がよく目にするSF作品だ。
だけど、この「メッセージ」は違う。よくない未来に繋がる現実を、主人公はそのまま受け入れる決断をする。この選択が、心に響いた。

前の夫と離婚してもう4年経つ。離婚する時に決めたことがひとつだけあって、それが「先の未来のために、今を我慢しない」だ。
アラフォーとなり、「若さ」が失われ、これからどんどん老いていく、という時に、「結婚」という契りを交わしたパートナーがいる、というのはとても心強いことだった。それを自ら手放す、というのは未来を見据えるなら、おろかな行為で「もう若くはないんだからさ」と色々な友人から、引き止められた。

ただ私はやりたいと思ったことはやりたい性分で、それをおさえながら生きていくことも、元夫にそれを許容してもらうように迫るのも、どうもピンとこなかった。

「メッセージ」をみた後、とても清々しい気分になった。たとえその先に悲しいことが待っていたとしても、当面のやりたいことに目を瞑るのは性に合わない。未来のために目の前の現実を我慢するのと、今のために未来の不安を許容するのは、足して2で割るなら同じこと。だったら私は「今」を選びたい。

人には人の数だけ、生き方がある。未来のために今を我慢しない生き方がある。「メッセージ」はそんな人を勇気付けてくれる映画。そう、思う。

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