見出し画像

田中圭一「うつヌケ」/もし今度うつの人に出会ったら。

機会があって「うつヌケ」をいただいた。

「うつヌケ」とは、鬱病を患った人がどのようにその状態を抜けたかがまとめられた、ノンフィクションのコミックス本。筋肉少女帯の大槻ケンジや、作家の内田樹といった、著名人の「うつヌケ」についてもまとめられている。
この漫画、noteで連載されていた時からずっと気になっていたものの、なかなか買おうという気にはならなかった。というのも、大好きだった親友が「うつヌケ」しなかったからだ。
要は、その彼女は、27歳の誕生日の前に、自殺した。

彼女は高校生の時のクラスメート。本が好き、という共通点から仲良くなった。
気さくで、面白くて、とにかく嫌いなところが一切なかった。女性の輪が苦手で、好んで男性といることが多かった私には、生まれてはじめてできた、気のおけない同姓の親友でもあった。

ただ、出会った当初から、彼女は少々不安定なところがあって、手首を切ったり、そしてびっくりするくらい、「死ぬ」ということへのハードルが低かった。
普通学校で嫌なことがあったら「明日学校休んじゃおうかな」と思う。それが彼女の場合は「死んじゃおうかな」だった。とにかくいつも死の誘惑と戦っている人だった。

「うつヌケ」はそんな「死んじゃおうかな」をヌケた人たちの物語だ。注目すべきは、「どうやって抜けたか」は人によって違うということ。他人の言葉に救われた例もあれば、極限までブラブラした結果、生きる勇気が沸いてきたという話もある。
こうすれば直る、という単純な話ではないのがよく分かるし、かといってどんなにひどい状態に陥ったとしても、ずっとそのまま、という訳ではないのもよく分かる。
そして、作者の「気候の変化で気分の浮き沈みが多くの人にある」という気づきは、実に多くの人を救った気がして、漫画内で紹介されている感謝のツイートを読みながら、胸がぐっと熱くなった。

もし次に「死んじゃおうかな」という人に出会ったら絶対にこの本を渡そうと思う。

私は親友が選んだ「死」という結論を尊重している。生きるか死ぬかを決めるのは、その人自身だ。死ぬことによって死の誘惑から開放され、楽になる。その選択を本人が望んだ以上、尊重するしかない。

ただこの本を読み終わった感想は、できたら彼女が決断をするまえに、この本を手にとって欲しかったな、だった。
彼女の決断はそれでも変わらなかったかもしれない。
ただ、もしかしたら、と考えたくなるくらい、苦しんでいる人にとっては、希望に溢れている本だと私は思った。

親しい人を亡くすのは、とても悲しいことだ。一緒に年をとれたらどんなに楽しかったんだろう、と何年たっても頭をよぎる。

だから自分には「うつ」は縁がないと思っている人にも是非手をとってほしい。そしてもし、身近に精神的に参ってる人がいたら、ぜひこの本を渡して欲しい、そう思う。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?