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8.アルタイの秘薬たち

アルタイでは随分薬草が珍重されているように思う。
今回出会った黒い粘性のエキスである「ムミヨー」などこの日本で何人知っているのだろうか。以前はウォカに漬けた「黄金の根」を飲んでいたことがあるが、これもなんだか調子の上がる代物であった。調べてみると和名はイワベンケイというそうだ。別名ラディオラ・ロゼラ。肉体的、精神的パフォーマンスを向上させ、鬱を軽減し、高山病に効果があるという。「赤い根」というのもある。これは男性の生殖器に効果抜群らしい。抗癌作用もあるとのこと。どのくらい信じていいかわからないので、飲んでみるしかない。
 前に聞いた話だと、アルタイは植物の原種の宝庫で、欧米から若い学者がバックパッカーのふりをして高山にはいり、発見、採取していたこともあるようだ。原種の種は大変高価に取引されているのだそうだ。自分にその方面の知識がないことが悔やまれる。
 さて、アルタイでは首都のゴルノアルタイスクのほかに、シェバリナという小さな町、首都郊外の少数民族フォーラムでも演奏した。少数民族といってもシベリア周辺の先住していた民族たちのことだが、かなり人口も減り、言語も失われつつあるので、それを考えようというものだ。フォーラムの中にショルという民族の人がいて、話しかけてきた。彼のお兄さんは日本で活躍していたとのこと。それは第29代WBC世界フライ級ボクシングチャンピオンの勇利アルバチャコフだった。そういえば以前彼のお姉さんにも会ったことがあった。勇利アルバチャコフは、日本では単にロシア人としか思われていなかったと思う。彼がショル人だと知るとより親近感が湧くのは何故だろうか。ぼくの中にはどうもシベリア贔屓があるようだ。
 このフォーラムにはアンプとかマイクとかドラムとかはなかった。そんな中でもヒカシューは演奏する。ロックバンドとしては、かなり逞しくなっているといえよう。おもいおもいの小さな打楽器やオカリナ、アルタイの楽器などを借りて、即興演奏や、ちょっとした歌を歌った。もうここまでくれば何でもござれである。
 帰りのバスでは、松脂のガムを噛んだ。口の中に森の香りが広がる。甘味も何もなく、ただ松脂を固めただけのもの。100パーセントナチュラルである。これもまたアルタイの秘薬のひとつに違いない。
ヒカシューは、これからシベリアの町バルナウルに向う。

巻上公一

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