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「晩ごはん何食べよう」をイカします! #100日間連続投稿マラソン



 今日も蔦縁ヨウさんからいただいたお題をイカします!(≧▽≦)


「晩ごはん何食べよう」

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン

「今日何時に帰ってくる?」

「遅くなると思う」

「え、なんで?」

「変な時間に打ち合わせ入れられたんだよ」そう言うと、僕の口は勝手に舌打ちを放った。

「それ日にち変えられないの?」

「変えられるわけないだろ」

 僕はコーヒーのカップを空にすると、食卓に置いた。思いのほか大きな音が鳴ってしまう。相向かいの妻は、カップを唇につけたままじっとこちらを見据えている。

「そっか、しょうがないか。分かった。じゃあ、帰るの待ってるね」

「別にいいよ。なんだよ急に」

「なんでそんなこと言うのよ」

 彼女は立ち上がって、僕が空けた皿やカップを自分のものと重ね始めた。ネイルの色が新しくなっている。前のピンク色より少し青みがかかって、ちょうどこないだ枯れてしまった紫陽花の色に似ている。紫陽花はテーブルに落ちた米粒を擦りとって、茶碗に放り入れた。僕はクローゼットからネクタイを取り出した。

「和食っぽいのがいい?」

「何でもいいよ」

「でもケーキかあ、洋食のほうがいいかな」

「ん?」

「麻婆豆腐とか簡単でいいんだけど」

「あれ味が濃すぎていやだよ」

「回鍋肉は?」

「キャベツそんなに好きじゃないし」

 ネクタイが曲がってしまって、また勝手に舌打ちが出る。

「いっそのこと、おっきいお肉買ってきて焼いちゃう?」

「いやいや何でもない日にそれはないだろ」

「やだ、照れちゃって」

 僕がネクタイを結ぶのを見届けると、彼女は縞模様のハンカチに包んだ弁当箱を手渡した。形がいつもよりいびつだった。触るとビニールの音がして、遅くなるんでしょ、だからちょっとだけクッキー、と妻。

「ケーキは帰りにお願いしてもいい?」

 僕はため息をついた。

「だからなんでケーキなんだよ?特別な日でもないのに」

「え?」

「それに糖質制限はどこ行った?夜は甘いものを控えて、月末までに痩せるんじゃなかった?」

 僕はそう言うと鞄に弁当箱を入れた。ガサガサと音がする。資料のファイルやバインダーが整然と並ぶ中に、弁当箱の丸みや質感がどうも合わない。弁当箱を新調するか、社食に切り替えるか、彼女と相談しなければそろそろ我慢できなくなってきた。一度弁当を取り出して、ファイルと筆記用具の向きを変えて入れ直す。妻が静かだ。いつもなら百倍くらいにして投げ返してくるはずが。

 僕は顔を上げた。

 妻は、カウンターをはさんだ台所で真っ赤になって震えている。

「あんた、本当に覚えてないの?今日が何の日か?意味が分からない、本当に覚えてないのね?最低すぎ!いろいろ準備してた私がばかみたいじゃない!ああ、それより大事なことがほかにあるって?家の外に?どおりで最近帰りが遅いと思った!もう勝手にして!知らないから!」

「待てよ、なんだよ」

「コンビニのおでんでも勝手に食べてれば?」

 彼女はエプロンを脱ぎ捨てて、玄関から出て行ってしまった。マスクもつけないで、素足にサンダルのまま。僕は竜巻に出会ったみたいに呆然としてしまって、声も出なかった。電話をかけてみたが、ソファの上で『星に願いを』が鳴った。舌打ち。

 僕は冷蔵庫に貼ってあるカレンダーを見た。ゴミ、ほけんやさん2じ、宅急、デンキ代、妻の字で細かいメモがたくさん記されている。

 

 今日、7月30日の欄には、紫色の丸印がひとつ。

 

 僕は頭を掻いた。

 答えらしきものがひとつも浮かんでこない。

 紫?

 黒とか、赤とかじゃなく、言葉でもなく、丸?

 紫の丸?

 髪の毛がキシキシと音を立てた。シャツの脇が冷たくなる。僕はスマホ画面で彼女の名前を探した。マ行の上から三番目。通話ボタンを押す。

 ソファからまた音楽が流れ、部屋中に僕の舌打ちが響き渡った。 









 #100日間連続投稿マラソン 27日目でした!お付き合いいただきありがとうございました(*'ω'*)

 紫の丸、いったい何だったんでしょうか(*´ω`)

 では、また明日お会いしましょう(*´▽`*)/

サポートをお考えいただき本当にありがとうございます。