憧れの話

4歳の息子はディズニー映画のカーズが大好きで、主人公のライトニング・マックイーンのミニカーをいくつも持ってる。し、今年も祖父母からのお年玉で新しいマックイーンを我が家にお迎えしていた。メーカー側も頑張っていて、映画本編で数秒しか出てこないカラーリングのマックイーンもしっかり再現して販売していて、我が家にはすでに7人以上のマックイーンが乗り物用引き出しの中にしまわれているのだけど、いまだコンプリートには届かないようである。そんな同じようなものを何個も…と親目線では思うけど、本人にとっては一つ一つ大事な友達らしく、出かける時に一緒に連れていくマックイーンをかなり繊細に選んでいるようだった。今日は公園に行くから、汚れても良い、ボロボロマックイーン。幼稚園のリュックのポケットにそっと忍ばせるから、新しいピカピカマックイーン。車でお出かけをするから、マックイーンと、親友のメーターと、先輩のキングも。
 彼らのおかげで息子にはいつも一緒にいてくれる友達がいるし、時々心の逃げ場になっているようで、精神的な安定を感じるようになってきた。そういう姿を見て、ハッとしたことがあった。


ギターを初めて1年ほど経った15歳くらいの頃、初めて自分のお金(と言ってもお年玉だけどね)でギターを買った。黒いジャンボボディに白くて四角いピックガードのアコースティックギターで、見た目のインパクトに一目惚れで、コレにします!と震える声で店員さんに伝えたのを今でもよく覚えている。それからはいつも目につくところに置いてあったし、基本的に飯風呂寝る以外は触れてたと思う。
 それから程なくして当時の我が家にもインターネットが導入され(ダイアルアップ接続!)、インターネットから音楽や楽器の情報を探せるようになって…見つけてしまった。憧れの超有名ブランドで、黒いジャンボボディ、サウンドホールの上下にジェントルメンの髭を思わせるピックガード。インパクトもすごい、デザインも細部まで世界観を表現してる、自分の黒いギターのネクストステップ!市内の中古楽器店でお値段12万円!お年玉では数年待たないといけない、中学でバイトと言えば…新聞配達か?高校入ってからバイトするか?それまで残ってるのか?取り置きはどれくらい可能なのか?購入のためにありとあらゆる手段がシュミレートされる!いずれにせよ、めちゃめちゃ頑張れば手が届く憧れ!興奮気味に母親に、今度このギターを見に行ってこようと思う、頑張れば買える値段だと思う、旨のことを伝えると、キョトンとした顔で、今持ってるやつと同じじゃない?そんな同じのじゃなくてもっと違うのにすれば良いじゃん。音も似たような感じなんじゃない?

 言わなくて良かった。息子に。思う存分マックイーンをお迎えしたら良い。
 まあ、よくある親子の会話だし、そこであのギターを買う選択をしてたら、今と違う人生だったろうし、極端な話、結婚相手や組んだバンド、音楽性も全然違ったと思うから、むしろあの選択はあれでよかった。感謝なんだけど、あの時の自分の水を指された気持ち、取り戻すのはまだ遅くないよなとも思う。憧れを追い求めて、自分が求めるものをこの世に生み出していくための原動力が、この時の出来事から掘り起こせるんじゃないか。と、そんな予感がした。

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