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サムスン・シンバル試奏会〜夢のシンバル探検隊ふたたび〜

●はじめに

 みなさんこんにちは。2015年5月、シンバル好きな大人達が集まって夢のシンバル探検隊とか勝手にネーミングして記事をアップしたその後、なんとふたたびシンバルを試奏させていただけるという機会に恵まれました。そのシンバルの名は「Samsun Cymbal」。えっ?サムスン?あの電子製品の?...と思う方も多いと思いますが、あちらはSamsung Electronics、こちらはシンバルのメッカであるトルコの、Samsun地方のシンバルメーカーなのです。

参考:Samsun地方(GoogleMap)

 今回機会をくださったのは、福島のアイヴィー楽器さんです。以前、大阪の小出シンバルさんのセミナーでお邪魔したことがありました。アイヴィー楽器さんは株式会社リヴァーズウェイを母体として、楽器店だけでなく、ジョジョ・メイヤーがライブを行ったこともあるライブハウスC-moon、スタジオ、音楽教室などもやっているところです。今回、アイヴィー楽器さんの代表である片桐さんと、シンバル販売を担当している市川さんからお声掛けをいただいた次第です。

↑片桐信吾さん

↑市川和哉さん

 2015年、暮れも近づく某月某日、秋葉原は末広町駅近くにあるスタジオNOAHさんをお借りして、試奏会が行われました。メンバーは前回同様、河崎真澄さん、大井澄東さん、山本拓矢さん、そして私、山村牧人です。現場に到着し、車から大量のシンバルを運び出す中で、どこかで見たことのある方が...。そう、片桐さんがドラムを叩いているバンド「∞Z(ゼロゼロゼット)」のギター・ボーカルのエリカさんでした。なんでもこの日にナタリーの取材があるということで一緒に上京されていたようです。インタビューの模様はこちら
 話が大きくそれましたが、シンバルがスタジオ内に持ち込まれると、まずはラインアップのおさらいと、今回持ち込まれたものの中から一番標準的と思われるものから順次試奏していきました。シンバルをズラリと並べて軽くチェックしてから、ドラムセットに組み込んで叩いていきました。今回試奏のお供として使用したのは、スタジオに備え付けされた「SAKAE Almighty」のセットでした。アタックが明瞭、ふくよかなサウンドで、今回のシンバルのオールラウンドな実力を試すにはもってこいだったと思います。

●試奏したシンバル達

 今回、以下のシンバル達が用意され、まずはスタンドにセッティングして聴き比べてから、主だったものをドラムセットへセットし、各ドラマーの必要に応じて交換しながら叩いていきました。

●Regular Traditional Line:レギュラー・トラディショナル・ライン
●Regular RB(Raw Bell) Traditional Line
●Regular Evo Line:レギュラー・エヴォ・ライン
●Regular Brilliant Line:レギュラー・ブリリアント・ライン
●Regular RB Brilliant:レギュラー・ロウベル・ブリリアント
●S-Raw Eclipse:S-ロウ・エクリプス
●S-Raw Orbit:S-ロウ・オービット
●Raw Earth Line:ロウ・アース・ライン
●Raw Zebra Line:ロウ・ゼブラ・ライン
●S-Raw Halo:S-ロウ・ハロ
●S-Raw Galaxy:S-ロウ・ギャラクシー

●試奏

 まずはレギュラー・トラディショナル・ラインのハイハット、クラッシュ、ライドをセッティングし、試奏をスタートしました。表も裏もレイジングされた、いわゆる標準的なルックスのシリーズです。クラッシュの位置を変えたりサイズを変えたりしながら、4人がそれぞれの方法でチェックしていきます。そしてベルの部分が削られていないRB=Raw Bellのモデルを織り交ぜつつ。このシリーズからは、Samsunシンバルの基本的なクオリティを確認することができました。4人のドラマー全員が、音楽的な実力の高さを感じるコメントをつぶやきながら試奏していました。

 そして次に、レギュラー・エヴォ・ラインをセットで。カップ周辺はブリリアント、ボウのエッジ寄りがレイジングされたルックス。そしてブリリアント、RBブリリアントなど、エフェクト系やバリエーションなシリーズで在庫のあるものを試奏していきました。ブリリアント系ならではのサウンドですが、カップに施されたハンマリングなど工夫や一手間が感じられるものでした。

 ブリリアント系に続いて、レイジング加工に特徴のあるS-ロウ・エクリプス、S-ロウ・オービット、ロウ・アース・ラインなどを織り交ぜて。レイジングのバリエーションも様々なメーカーでいろいろな試みがなされていますが、Samsunならではの落とし所を感じさせます。サウンドの違いは是非動画で確認してください(この記事の終盤にあります)。

 最後に、チャイナ・シンバルは各シリーズ毎に揃っているということで、ひとまとめにズラリと並べて叩き比べました。今回は試奏ということで純粋に楽しみながら比較もできましたが、ここから1枚選べと言われると、どれも魅力的という感想もありました。

●総評

山村:試奏中にもなかなか良いコメントがビシビシ飛んでいましたが、みなさまそれぞれ総評をお願いします!

大井:まずは、とても使えるシンバル達だなと思いましたね。ひとつのシリーズの中でセットで揃えるというより、このシリーズのハットとあのシリーズのライドと...、みたいにすると自分のオリジナルなベスト・マッチングが見つかるかなと思いました。

山村:いろいろ取り混ぜて組み合わせるということですね。

大井:他のメーカーだと、シリーズの中で揃えたほうが良いと感じることもあるんですけど、サムスンはむしろ同じシリーズの中でも結構違いがあったりしていて、他のメーカーとシリーズの括りが違うように思いました。レイジングの削り方とか、ブリリアントの具合など、いろいろバリエーションがあって面白いですね。

↑大井澄東さん

山村:河崎さん如何でしょう?

河崎:そうですね〜これは結構使えるな!ってというのがまずあって。イメージでしか言えないんですけれども、トラディショナル・シリーズを叩いたファーストインプレッションはすごく良くて、そして値段を聞いて、クオリティとコストパフォーマンスもまたすごくいいなと。

山村:特に良かったものとかありますか?

河崎:個人的に良かったのはトラディショナルのThin CrashやMedium Thin、そしてハイハットですね。欲しくなりました。ただ、やはりジャズ寄りなので、もう少しウェイトのあるものなど、他のバリエーションを試したいですね。

山村:evoやブリリアントは、結構しっかり目だったと思いますがどうでしょう?

河崎:あのラインも良いのですが、個人的には硬くなって欲しいのではなく、トラディショナル・シリーズのような質感で、もう少しアタックが通るといいかなぁと。ただ、スタンドに立てて単体で叩いてみてから、セットに入れるとわりと印象が変わったので、実際使ってみないとわからないけど。単体ではアレ?と思ってもセットに入れると良かったり、サムスンの音がドラム・セットと融合した時の感じがすごく面白かった。逆に勉強になりました。あとは、シズル付きのスプラッシュも良かったですね〜。総じてクオリティ高いシンバルでしたね。自分の生徒達にもススメたいとも思います。

↑河崎真澄さん

山村:では、山本さんおねがいします!

山本:全体的に、ちゃんと作られてる感じがあって、特にトラディショナルが普通に良いですね。某社の著名ジャズ向けシンバルと同レベルと感じました。

大井:そうそう、見ないで叩いたら、これは某大手メーカーのジャズ向けのアレかな?って思うところもありましたね。

山本:いろんな中から選べるっていうことは僕にとっては大事で、ラインアップの在庫が充実していれば、サムスンで完結できる。大手のメーカー、みんなそれぞれ良いんですけど、どこかひとつのメーカーだけでって言われると困る。でも、サムスンならだぶん大丈夫じゃないかなと。

山村:そこまで言う!すばらしい!

山本:そうですね。サムスンはオーダーすればなんでも作れると聞きましたが、トラディショナルも、エヴォも、そもそもの芯はサムスンとしてしっかりできてますね。そして、ウェイトはグラム数単位でこだわっているという話なので、仕上げの部分で違いを出しているのかなと。だから、シリーズが違ってサウンドは幅広いんですけれどもサムスンのシンバルとしての芯があるから、サムスンの中からいろいろ選んでセットを組めるというか。

山村:気に入ったシンバルはありました?

山本:トラディショナルのThinやハイハットがいいですね。僕、普段あまりチャイナって使わなくて、いろいろ試してみると、これは良い、これはちょっと...みたいになるんですけど、今回のサムスンのチャイナは全シリーズそれぞれ全部良かったですね。

↑山本拓矢さん

山村:あえての苦言をお願いします!

山本:サムスン・ロゴの下のフォントがダサいかなw

山村:あははは。そこですか(笑)これから日本でこのシンバルが認知されていく中で「サムスン」っていう名前が与える印象ってのはあると思うんですよね。電子メーカーのSamsungは世界的に知られているところもあって、どうしてもそちらの印象が強い。自分もトルコにこの地名があるのはつい最近知ったのですが。サムスン・シンバルを略して「サムシン」と呼んだら、また違った印象になるかなぁ...(笑)

片桐:先日お店の方でもキャンペーンをやりまして、そこで売れてしまって試奏に持ってこれなかったものもあるので、またいろいろ入荷したいと思っています。今後リクエストみたいなものはありますか?

山村:そうですね。今日もなんだかんだスタジオの時間が足りなくなるくらいの結構な枚数を叩きましたけど、やっぱり主軸の製品であるトラディショナルやエヴォ、ブリリアント系は、すべてのサイズとウェイトを試したいですね。

山本:それだけのクオリティはありますね。試したくなります。

片桐:サムスンは、カスタム・オーダーによってどんなシンバルでも作れるよと言っているんです。最初いくつか仕入れた時に、ちょっとこれはどうなんだろう?っていうモデルもあったんですけど、ムスタファ・ディリル氏は「自分の作ったシンバルは間違いは無い」と返答してきたり、かなりポリシーがあるようです。

山本:(そのシンバルを動画でチェックしつつ)あぁこれは、すごく良いシンバルですよ(笑)

山村:うん。これはある種のドラマーの好きそうなところをわかって作ってるね。一般の人にはわかりにくいシンバルかもしれないけれど。こういうものを作って「どうだ!」と打ち出しているのだとすると、このムスタファ氏は、ドラマーの要求やシンバルに必要な音楽的な要素を、かなりニッチな領域までわかっている人なのだろうね。

山本:全然鳴らないシンバルの良さとか、そういうところもありますね。もっといろいろ叩いてみたい気になります。

山村:どこのメーカーもそうだけど、輸入する側は、本当に大変だよねぇ。在庫がものすごいことになる。ドラマー側は、18だ19だ20だって1インチ刻みで試したくなるし、同じサイズ、同じウェイトでも複数枚から選びたいってのもやっぱりあるし。

河崎:いろんなシリーズがあるけど、まずはトラディショナルがすごくしっかりしていて素晴らしいな。

山村:まずはトラディショナルでリファレンスが揃うと、より選択しやすくなるかもしれませんね。一番ノーマルなシリーズがしっかりしているっていうのは、やっぱり信頼感がありますね。

↑山村牧人

●試奏のオマケばなし

 試奏の後、総評を話し合っている間にスタジオの時間が終わってしまったため、私山村の総評と、試奏前後のおまけ話を書かせていただきます。
 サムスン・シンバルを作っているのは、ムスタファ・ディリル(Mustafa Diril)氏。某著名シンバルメーカーで10年以上職人を続けたムスタファ氏が独立して作っているということです。また、本国のサイトのProductsページでモデル名とサイズのチャートにマウスオーバーすると、各モデルのウェイト・リストが出てきます。例えばRegular Traditional Lineの20"Rideでは...

Extra Thin 1650g
Thin 2000g
Medium Thin 2350g
Medium 2700g
Medium Heavy 3000g
Heavy 3300g
Powerbell 3090g
Flat 2200g

と、しっかり定義されていて、仕上がりの重さにもかなりこだわっているようです。シンバル好きな人であれば、この、某著名メーカー、ムスタファ氏の名前、サムスン地方、厳密なグラム数管理...というキーワードでいろいろと想像が働くところです。実は、以前山本拓矢さんはネット上の画像を見ただけで、シンバルのプロファイルから「コレとコレとコレって...◯☓△◇☆... 」と言っていたのです。その真偽の程はわかりませんが、そこから察するに、そして実際に試奏して感じたクオリティからすると、ムスタファ氏は、今までにも数多くあったトルコの職人がスピンアウトしてできたメーカーの中でも、ど真ん中のサウンドからマニアックまでカヴァーするポテンシャルを秘めていると信頼するに足るキャリアの持ち主あるのではないでしょうか。

 特に、試奏後の河崎さんのコメントにあったように、ドラムセットと組み込んだ時の実力を感じます。通常我々は楽器店に飾られたシンバルを、スタンドに載せて単体で試奏することが多いですが、実際にはドラムセットと組み合わせて、そしてバンドやアンサンブルの中で、現場で試してみないと最終的なことはわからないわけです。楽器店で聴いて「おおっ!」と思うものが、自分のセットやバンド、ステージでは思った感じにならなかったり、「なんだかちょっと...」と思ったシンバルが、バンド全体やレコーディングなどで良い結果を出したり、これはシンバルに限らずスネアやドラムセット、スティックやペダルなどみんなそういうところがあります。そういう意味では、ムスタファ氏は、実際に音楽の中で使った時の情景を想定して各モデルを作りこんでいると感じます。個人的には、トルコまで行って会ってみたいと思いました。宝くじ当たらないかな〜(笑)
 この試奏の少し前に、アイヴィー楽器でサムスン・シンバル・フェアをやっていたということで、標準的なモデルで在庫の無いものもありましたが、宣伝や知名度に関わらず、目の付け所の早い人はどこにでもいるものですね。今後、あちこちで目に触れる機会が増えてくれたらとも思いますが、HandCrafted故のペースを守り、クオリティの高いシンバルを流通させてくれることを願います。

●試奏動画

 最後に、試奏中の動画をアップします。興味を持たれた方は、是非楽器店などで試奏の機会を見つけてください。

●おわりに

 実験的に始めた試奏の記事ですが、今回2回目を実現できました。機会を与えていただいたことに感謝します。今回ちょっと思ったのは、これを公開試奏にして終了後は参加者の方々も試奏して購入も可能、なんてイベントになったら面白いかなと思いました。この記事は特定の宣伝のためではなく、枯れ木も山の賑いとしてドラム界のさらなる盛り上がりを願って書いております。楽器を選ぶことはなかなか難しいものですが、楽器を製造することも、流通させることにも難しさがあります。その中で少しだけ何か繋ぐ情報となれば幸いです。長々と読んでいただきありがとうございました!今後もなにかしらドラム&ドラマーのお楽しみ企画を載せていきたいと思います。
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以上


#ドラム #シンバル #楽器 #音楽 #試奏

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