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核と映画


次男が『猿の惑星』シリーズにはまっている。映画専門チャンネルで8連作一挙公開しているのだ。
このところ猛烈に忙しい私は、ちょこちょこテレビのある部屋に入るたびにその映画をチラ見する。顔にゴムを貼り付けたような猿が実写でなんとか頑張っていたり、かと思うとCG時代に突入して涼しい顔をした猿がスマートに動き回っていたりと、映像技術の向上に唸りながら部屋を出る日々。

私個人はだいぶ前に観た『猿の惑星』だが、今回改めてふと足が止まったのがアメリカ人の「核」の意識について。猿の惑星の舞台って、放射能で汚染さされた世界で、それにより突然変異が生まれたというストーリー。だが、それでもやっぱり放射能って毒ガスぐらいの認識なんだよなぁと感じる。
マスクや防御服を着ていれば高濃度なんてへっちゃらと思っている節があるのではないか。メルトダウンといっても、その本当の恐ろしさが語り尽くされていない気がした。

でも、『猿の惑星』はまだいいほうだ。
『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』では心底びっくりした。おいおい、ルーカスもスピルバーグも知識はそんなもの?!
たまたま紛れ込んだ核実験施設内のインディ。そして核実験開始。
爆心地にいても鉛の冷蔵庫に入れば大丈夫と思っているインディ。そして冷蔵庫にいたおかげで傷一つなかったインディ。爆風で転げたけれど、冷蔵庫もなんだか無事。頭上のキノコ雲を見上げるインディ。その後、米軍基地にて石鹸で洗われ、シャワーで洗浄されれば、もう大丈夫なインディ。走って戦うインディ。そんなアホな。 
本来ならば、すぐに顔や体が腫れ始め、全身の皮膚がずるりとむけて、遺伝子が崩壊して再生能力がなくなり、死に至ってもおかしくない距離である。走るなんて、喋るなんて、ましてや悪と戦うなって……絶対に無理!
おっとその前に、潰れた冷蔵庫の中で圧死しているのが、もっとも現実的な描写ではあるのだが。

シュワルツェ・ネッガーの『トゥルー・ライズ』は、もっとひどかった。
「ショータイム。爆発を見るな。閃光を見るな」と決めゼリフを言いながら、シュワちゃんは核爆弾のキノコ雲をバッグに、目を瞑ったヒロインと熱いキスをしてしまうのだからして、放射能の恐怖を知っている視聴者は揃ってお口ぽかーんなワケである。
「シュワちゃん! 後ろ後ろ! ヒバクヒバク!」とテレビの前で騒いでいても伝わらない。
本来ならばキスが終わるか終わらないかの頃には、爆風に吹っ飛ばされて海に落ちるとか、すぐに頭髪が抜け落ちたり、後遺症に悩まされて食欲もなくなり、そのうち癌に侵されてもおかしくない距離である。
彼は核弾頭を所持するテロリストと闘うアメリカのスパイの設定なのだが、そんなわずかな知識でよくぞ重要任務がつとまった。核爆発は、彼が言うように、まさに「ショー」。まるでキスシーンを盛り上げる打ち上げ花火なのである。

どうやら、多くのアメリカ人は核爆弾を「ちょっと派手めでヤバめ☆の爆弾」とぐらいにしか思っていない節がある。
地球に攻撃的な宇宙人が来るような映画を観ていても、すぐに核爆弾でどうにかしようとする。宇宙人は死ぬかもしれないけれど、その後の地球人はどうなるの? と思わずツッコミたくなる。
不可視な物質によって遺伝子が破壊され、細胞は分裂を阻害されたり癌化する。そして地上に残されたその毒性は物によると何百年も半減しないことがどうやら理解されていない。場所によっては数分もいられないということや、防護服も通過することはわかっていない。花粉のように簡単に払えると思っている。


実際に、とくに冷戦時代は、あえて国家戦略であまり核の詳しい知識を広めない傾向にあったアメリカ。
だって一番の核保有国になるためには、誰がその爆弾を山のように作るのだ。工場を各地に建てて、従業員を働かせるのに、あまり詳細な知識を与えると働き手が得られないし、そもそも建設を反対される。
現在はもう稼働していないが、ロッキーフラッツというアメリカ最大の核工場が一番有名だ。ずさんすぎる管理のもと、大して知識を与えられていない何万人もの人たちが核爆弾の製造に従事し、今でも健康被害にあっている。革のグローブだけで核物質を扱っていた時代もあるし、放射能物質をドラム缶に入れて外に放置していたということもあった。核反応による火災事故も起こしたし、周囲に放射能が撒き散らされていることを当時の住民たちは知る由もなかった。

もちろん個人差はあるだろうが、まだチェルノブイリ原発事故の際に、風の流れによって核の脅威にさらされたヨーロッパ人のほうが、放射能の知識があるように思えるのが私の実感だ。
やはり本土が焦土と化したことのない国というのは、末恐ろしいというか……。
世界一の核保有国であり、唯一の核爆弾投下国がこの調子であるのだから、核の脅威というのはまだまだ身近な気がしてならない。

『チャイナシンドローム』や『ヒロシマナガサキ』など、核と真剣に向き合ったアメリカ映画もあったけれども、いかんせん興行収益の桁が違いすぎる。
日本も、もっと当時は『インディ・ジョーンズ』や『トゥルー・ライズ』に声を大にして抗議しても良かったんじゃないかな……と、今さならだけれども思う。



ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️