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火打石


友人から伊勢土産に「火打石」をいただいた。
古来より、厄除けや縁起担ぎに使われていたらしいが、お土産としてはなかなか楽しいチョイスです。ありがとう。

そうなの。火打石って、石と石を叩き合わせているのかと思ったら、石と鋼(火打鎌)を叩き合わせて、鋼を削っているのだね。そういえば子どものとき、金属バットや大きなシャベルをコンクリートでこすって、微かに発する火花で遊んだことがあったような。
石も特殊なものかと思ったら、ローズクォーツだとか、アメジストだとか、水晶だとか、エメラルドだとか、女子ウケしそうな石がたくさん。とりあえず硬度があって尖っている部分があればいいらしい。そんな宝石を鋼に打ち付けていいのかと、ちょっとびっくりする。まぁ、きっと指輪にして鑑賞するほどの純度ではない石たちなのでしょうけれど。
そして今回、そんなキラキラした石たちの中から、私にと選んでもらったのは「虎目石」、別名「タイガーアイ」。……女の子(嘘です。おばさんです)へのプレゼントとしては、なんだか強そうだネ。思わずドロップキックでもしそうな……。実際のところ、すごく火花が飛ぶ種類らしくて、オススメなのだそう。


さて早速「切り火」の練習。
この強そうな虎目石を火打鎌に打ち付ける。とんがっているところが砕けないか心配になる。
でも「えい!」とやると、初回から、いきなりバチッとそれは美しい火花が散った。線香花火の火花のように、本当に火の「花」。うまくいくとすごく嬉しい。何度も練習する。
そして、毎回姿を変えて現れる火花がとても可憐。
古くから神聖なものとして崇められてきたのはよくわかる。
というよりかはまだ慣れないうちは邪念が出てきて、次はもっと大きな火花を散らしてやろうと躍起になってしまうのだが……。
火花もポロポロっと服にかかるけれども、瞬時に消えるので大丈夫そう……。でも、真冬のダウンなどの化繊は怖いので、少し離れたところでやろうと思う。
子どものころ、近所のおばあちゃんがご主人を送り出すときに玄関で「カチ! カチ!」と火打石を使っていたのを思い出す。

これで、毎日のお見送りが楽しみになった。
朝、バタバタしている中を「いってらっしゃーい」と漫然と声をかけていただけだった毎日。
これからは、さて今日は飛びきり大きな火花を散らしてやろうと、息巻いて玄関にやってきては、忙しい家族を相手に「カチ!カチ!」と隣で火花を散らすのだから。
そして「はい、これで今日は大丈夫!」という気持ちで送り出すのは、お互いなんだか晴れ晴れするのである。


そして。朗報もあります。
ついに私が出かける際に、嬉しそうに息子が玄関にやってきたのだった。
ご想像していただけるだろうか。あれほど乳が欲しい、愛が欲しい、抱っこして欲しいと泣きわめいていた過去などケロリと忘れ、中学生になって、いきなり「親なんてさ。うるさいだけっスよ」とスカし始めていた息子が、切り火をしたいがためにお母さんをお見送りに来たのである!

カチ!カチ! と送り出してもらって、母、幸せな気持ちでドアを開けたのは言うまでもない。
「まま! いってらっちゃーい!」と小さな手をぶんぶん振ってくれたのは、いつのことだったろうか……。
どうかこのブーム、もうしばらく続いて欲しい。



ここまで読んでくれただけで、うれしいです! ありがとうございました❤️