似ている人が世の中に三人居ると聞くけれど

▼登場人物紹介
若草香月(わかくさ-かづき)
服飾デザイナーをしている、誰もが振り返る超美人。
じっとしていたらお人形のような、小さくて可愛い女性。

桐谷光(きりや-ひかる)
とある街のお巡りさん。
人当たりがよく、毎朝街の人と挨拶を交わすのが趣味。

長船光隆(おさふね-みつたか)
とある街で『トラットリア 長船』というお店を開いているオーナーシェフ。味もさることながら、美しい顔面であるのでファンが多い。



 それは、麗らかな春の一日の出来事。

 桜の季節は過ぎてしまったけれど、緑が萌える、生命の息吹を感じる季節の到来だ。
 若草香月は、自分の名前にも入っている若草の頃を、少しばかり浮かれた気分で歩いていた。
 おろしたばかりの新しい靴は太目のヒールで安定していて、普段よりも少し高い視界でも真っ直ぐ前を見て歩くことが出来る。
 過ぎ去った桜を思って薄桃色をメインカラーに取り入れたコーディネイトとしてみたけれど、主役にしたワンピースはレースもたっぷり使われていて可愛らしい。
 お揃いの生地で作った大きなリボンは頭の後ろで結んでいて、見ようによっては猫の耳のようにも見えなくはない。
 何もしなくても誰もが振り返るような整った顔立ちであるのに、服装が甘めでもはや人形のような井出達であるといっても過言ではないだろう。
 本人はそのつもりが無いが、兎に角街中に居れば目立つ存在であるのは間違いなかった。

 そんな視線を受けつつも、香月は一人、軽い足取りで歩を進める。

「今日は久しぶりに美術館にでも行きましょうか。見たい展示がやっているみたいだし、その後は……」

 あれやこれやとプランを練る。
 やりたいことが沢山あって、自分がもう後何人か欲しいくらいだ。
 お気に入りの格好をしているから、振る舞いはいつもよりも少し上品に。
 そして、いつもよりも沢山のわくわくを詰め込んで、休日を楽しむべく歩いて行った。

 程無くして美術館に到着する。
 今日は印象派と呼ばれた芸術家たちが遺した絵画の展示を観に来た訳だが、思っていた物と違って衝撃を受けた。
 淡い色合いで自然界の光を閉じ込めたような柔らかに感じるものもあれば、明暗がはっきりしていて直線的で硬く感じる作品もある。
 自分が洋服をデザインする際のインスピレーションが得られるかはさて置きとして、こういった芸術に触れるのは大事なことであると再認識をする。

(一人で来るのもいいけれど、今度はお誘いしてみようかしら)

 ふと、浮かんだ人の事を想ってつい笑ってしまう。
 誰かと感想を言い合えるというのは贅沢なことであると知ってるからだ。
 とは言え展示に満足したので少し重たかったが図録を買って、美術館を後にする。併設された喫茶店も魅力的だったけれど、今日は少し足を延ばすことにした。
 一人でもお店に入ることは苦ではない性質なので、以前から行きたかったお店のリストを確認していく。

「ええと……ここからだと、ちょっと遠いかしら。でも平日だし、今日なら空いているかも」

 そうして、彼女はまた歩き出していく。
 目指すはとあるオフィス街の一角。最近噂の「トラットリア 長船」へと。


・桐谷光と若草香月

 麗らかな春の日。近年はほんのひと時しかない季節を、職場で感じていた。
 柔らかな日差しは眠気を誘うが、流石に眠りこける訳にはいかない。
 桐谷はぶんぶんと首を振って、それから職場である街の交番から二歩ほど外に出た。
 現在地は住宅街とオフィス街の境目である。
 朝には子供たちが元気に前を通り過ぎ、昼時になれば近所のお年寄りが病院へと向かうのを眺めたりもする。
 挨拶をしたりもしつつ、街の様子を見ながら、平和な日ならばまったりと。そう、今日の日差しのように穏やかに過ぎていくのである。

「今日は平和がいいなぁ」

 ぼんやりとしながら呟くが、目に見える範囲に人はあまりいない。
 いや、居ない、と思っていた。
 ふと視線を横へとずらすと、猫耳のような何かが視えた。

「……、……え」

 見間違いかと思って目を凝らす。
 すると猫耳では無く大きなリボンをした女の子が、難しい顔をして手元の携帯電話を見ている最中だった。
 壁寄りで立ち止まってはきょろきょろと辺りを見回し、首を傾げている。
 ふわふわとした可愛らしい恰好をしているので、一瞬人形にも見えたがそうではない。どこのお嬢さんだろうかと考えるが、思い当たる節が無いのでこの辺りの子ではないのだろう。
 平日の昼間に居るということは学生さんではないのだろうが、迷子……いや、取り敢えず困っているようではあるし声を掛けるかと桐谷は考え彼女に近づくことにした。

「あの、……どうかされましたか?」

 声を掛けるのと、彼女が気づくのは同時だったと思う。
 僕を見るなり一瞬驚いた様に目を見開いたけれど、それも束の間。
 警官の制服に安心したのか、視線があがるとぱっとした輝くような笑顔が目に入った。

「ああ、申し訳ありません。道に迷ってしまって。お巡りさんに声を掛けて頂いて良かったです、あの……此処に行きたくて」

 見た目通りの可愛い声だったが、思ったよりは落ち着いた声音でギャップを感じた。
 そんな彼女は、いそいそと携帯電話で表示されていた地図を見せてくれる。
 番地を見れば、どうやらオフィス街に行きたかったらしく、此処は境目でもう少し歩けば該当の場所であるとは伝えた。
 説明をすれば納得をしたようであるが、やはり少し心配だったので簡単な地図を描いて見せる。

「まあ、ご親切にありがとうございます」

 丁寧に頭を下げられて、寧ろ慌てた。

「いえ、どういたしまして。お気をつけて、お嬢さん」
「ありがとうございます、お巡りさん。行ってきます」

 手を振り去っていく彼女を見送り、ふと目を細める。
 頭の後ろにつけたリボンと、着ているワンピースの裾が動きに合わせて揺れている。

「最近読んだ本で、ああいう子が出てくるのがあったなぁ……。帰ったら探してみよう」

 タイトルが何だったかと思い浮かべながら、先程の彼女が今度は道に迷わないようにと、小さく祈った。


・長船光隆と若草香月

 ランチタイムのピークも過ぎて、一息ついた時刻。
 オフィス街に位置するトラットリア長船はひと時の忙しさも過ぎ去り、その片付けも粗方終わった頃合いである。
 そう広くは無い店内ながら、座っているのも一組程度と落ち着きを取り戻しており、オーナーシェフである長船は夜の営業に向けて仕込みを始めようとしている最中だった。
 そんな時、からんからんと、入店を知らせるベルの音が控え目に聞こえる。

「いらっしゃいませ」
 
 そうして迎えたのは、人形のような可愛らしい女性だった。
 女の子、と称するには大人びて見える気もするし、妙齢の御婦人としておこう。
 まるで物語から飛び出してきたような井出達の彼女は、ホールに居る青年に案内されるままにカウンター席に着き食事を摂ることになった。
 オープンキッチンである為、傍に来た客人に挨拶をし、長船は仕事を手早く済ませていく。
 メニューを決め、新商品の試作もしていく。試食ついでに届けに行くある人の分も準備して、としていた時、興味深そうにカウンターの婦人が見ている事に気付いた。

「気になりますか?」

 思わず声を掛ける。普段はトラブルの元にもなるので声を掛けたりはしないが、この女性が手元を見ていた様だったので何が気になるのか興味が湧いたからだ。

「あ、ごめんなさい。頂いていたお料理があんまりに美味しかったから、つい見てしまいました。……それは、何を作っておられたのですか?」

 控え目に尋ねられて思わず笑ってしまう。
 美味しそうに食べてくれていたのは見えていたので、なんだか嬉しくなって答えてしまった。
 そこから、作業しながらあれこれと答えていたらすっかり打ち解けてしまって、料理の感想まで丁寧に貰ってしまった。
 それが恐縮する程だったので、美味しく食べて貰ったお礼にと珈琲をサービスしたら、これもまた喜んで飲んでくれたので気持ちのいいお客さんだという認識だ。
 彼女が帰る頃に「ありがとうございました」と声を掛ければ「また来ますね」と笑って扉の向こうに消えていく。

「……ああいうお客さんが居るからやめられないよねー」

 思わず零せば、ホールに居る青年も「まったくだな」と返して笑ってくれた。

「作った物に感想貰えるの嬉しいなぁ」

 しみじみと言いつつ、作業と一緒に詰めていたタッパーを見て苦笑した。
 これにも一言貰えるといいな、なんて思いながら。
 ディナータイムの営業も頑張ろうかと、意気込み新たに作業を続けることにする。



・その後の若草香月。

 大変満足な一日を終えて、帰路に着く。
 美術館では観たいものが見れて刺激を受け、少々道に迷いはしたが、親切を受けていきたい場所へと行くことが出来て。
 美味しいご飯も食べれて、充実していたと幸せに浸る。

 ただ一つ、驚いたのは出会った人々だ。

「……トラットリア長船のオーナーさんは、雑誌で見かけたことがありましたけれど。お巡りさんも、凄くよく似ていたらしたような……」

 バランスよく整った顔立ちと、柔らかに細めてくれる瞳。
 多少の違いはあるけれど、似ているといって差し支えない容姿。

「似ている方が世の中には三人居ると言いますが、……そのうちのお二人なのかしら?」

 もしかして、ご兄弟とか? なんて、そんな想像をしながらも足取りは軽い。
 今度は誰かと来たいなと思いながら、こうして彼女の一日は幕を閉じていく。


・あとがき
香月はAPP18の美女ですが、小さいので幼く見えたりしなくもない。
デザイナーをやっています。
桐谷さんと長船さんも高APP。なり卓出身で、同じ人がベースなので、似ているのは当然だなって話(笑
ご指名頂き感謝でした!
日数経過してる割にはささっと書いたものですが、日常を感じて頂ければ幸い。
2022-06-24

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