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第19話「悟り」

前回 第18話「21日目」

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渡米


亜衣は羽田空港から寛子や両親に見送られてアメリカ行きの飛行機に乗った。海外は高校の時に研修旅行で行ったオーストラリア以来だったが、今回は仕事での海外出張でそれも1人でということで飛行機に搭乗する時から緊張しつつも、「さあ門出だ。」という高揚感と共に出発した。

長いフライト時間を潰すために機内で映画を観ようと座席のモニターをいじっていると、

ー「フリーダム・ガイ」ー という映画が目に入った。

オープンワールドのゲーム内のNPCが、ある時自我に目覚めて自分の人生を自分の意思で生きるようになり、最後は仮想現実の消滅危機を救うヒーローになるという内容だった。

「これ、面白そうね。『Don't have a good day, have a special day!』っていうキャッチコピーが良いわ。

『良い日じゃなくて、特別な日にしよう!』って感じかしら。

私のアメリカ生活もそういうふうにしなきゃね!」

    ◇

サンフランシスコ国際空港の到着ゲートを出ると、Murmur社から出迎えに来てくれたスタッフがプラカードを持って待ってくれていた。

「Hi,Ai,Come here! I'm Kathy from the same project team at MurmurCompany」
ハイ、亜衣こっちよ!私はMurmur社の同じプロジェクトチームのキャシーよ。」


〜以降日本語訳で〜

「初めまして。岡村亜衣です。わざわざ出迎えありがとうございます!」

車でMurmur社まで向かう道すがら、同僚となるキャシーが目をキラキラさせながら亜衣に話しかけてきた。

「亜衣、あなたの哲学に私達チームのメンバーは興奮しきりよ! 

数学オリンピックにも出たのよね?年度は違ったけど私も出たの。チームメンバーでも出たって人いるのよ。あとで紹介するね。

あ、禅もやってるのよね? 亜衣は上手?
ね、ね、お寺ってどんな感じなの? 東洋のお寺ってとってもクールだわ! やっぱりあなたの凄いアイデアは禅から得ているの? ぜひレクチャーして欲しいわ!」

渡辺社長からプロフィールその他が伝わっていたらしく、キャシーは亜衣に興味津々で質問攻めをして来た。

「私も最近初めてお寺に行って学び始めた程度で、そんなに教えられるほどじゃないの。それに哲学って何のこと?」

キャシーの熱量に押されながら答える亜衣。

「何言ってるの、亜衣。哲学ってあなたの開発したシステムのことに決まってるじゃない! 皆惚れ込んでるのよ? 

あっ、今回のチームは〝ボス”の直属の部署からの編成でね、『Murmur社に息を吹き込んで来い。』って言われて集まったのよ。

年齢は若い人が多いけど、皆世界を変えるような才能と気概を持ったエリートなのよ。もちろん私もね! 私の専門は宇宙工学で、〝ボス”の元では通信衛星の開発・管理をやっているの。

自前で人工衛星を打ち上げて、紛争地でも災害地でも地球上のどこでも電波を飛ばしちゃうってあり得ないわ。クレイジーよ!もちろん良い意味でね。亜衣もそう思うでしょ?ねっ? 亜衣にも同じ哲学を感じるわ。皆会えるのを楽しみにしてるのよ♪」

キャシーはいつ息継ぎをしているのか不思議なくらい一気に話したいことを吐き出したようだったが、亜衣に会えてテンションが最高潮になっているようで、亜衣自身も悪い気はせず嬉しい気分になっていた。

「〝ボス”ってアイロン・マックス会長のことよね? 直属のスタッフなのね。凄いなぁ。私も会えるの楽しみ♪

でも私の哲学かぁ、、、哲学なんてそんな高尚なものが宿ってるのかしら? 日本の上司や社長は認めてくれているけど、そうなのかなぁ。」

日本人特有の遠慮や謙遜ではなく、〝哲学”と聞いてピンと来てない亜衣を見て、キャシーは意外そうな顔で見ている。

「今日はボスもMurmur社に来るから、亜衣も話すと良いよ。」

とキャシー。

「えっ、会長が現場に来るの? いきなり会うのか、緊張するなぁ。」

無意識に前髪を整え出す亜衣。

「ふふふ、亜衣、あなた〝おじ様”に興味あるの? 気に入られたら玉の輿ね!」

とふざけるキャシー。

「やだ、そんなんじゃないわよ。日本のボスの親友でライバルだからね。実際どんな人か気になるのはあるわね。」

と言いながら、対向車線にどデカいトレーラーがすれ違って行ったのを見てアメリカを感じる亜衣。

お喋りと景色を楽しんでいると1時間余りでMurmur社に着いた。

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Murmur社にて


改札形式のエントランスを抜けプロジェクトチームのフロアに上がると、メンバーが揃っていて亜衣を待っていた。

「亜衣! ようこそ!」
「よろしく、リーダー!」

握手にハグに、歓迎ムードで皆キラキラした目をして亜衣を見ている。

自己紹介をすることになり輪になって集まった仲間に向けて話すように促される亜衣。

「あー、ゴホンッ。日本から来ました岡村亜衣です。専門は遠隔ロボット用のシステム開発で、今回開発した〝KIDS”はその分野の応用で。

まあ詳しいことはまた個別にやり取りするとして、、、このシステムの意義は何ていうか、何だろうな。。。現場の子どもやスタッフの健康管理とかだけでなく、何ていうか効率化のためでもあって、、、

うまく言えないけど、えーっと、、、」

言葉に詰まる亜衣を見て顔を見合わせるメンバー達。

「はい、リーダー!」

と手を挙げるスラッとした立ち姿にスタイリッシュなドレッドヘアの黒人女性のメンバー。

「私、イライザです。リーダーの作ったシステムって、つまりは〝皆を一気に救う凄いやつ”って感じですよね?最高にcoolだと思います!ねえ、皆もそう思うわよね?」

と周りに呼びかけるイライザ。

「うんうん、俺が子供の時にこれが学校に標準装備されていれば良かったのにって思うよ。俺、はみ出し者だったから。それは今でもそうだけど。ハハッ。」

と同意する金髪イケメンのイリアス。

それを聞いて亜衣は、

「ありがとう!私は世の中を良くしたいとかそういう大きな哲学は分からないけど、何ていうかもっと身近な所で救える人がいるならって思って、、、イリアスみたいに私もはみ出し者だったから、、、あっ。。。」

と言いかけたところで止まった。

ー私のような変わり者でも、伸び伸びと生きられる社会を作ることです。ー

入社試験の面接時に社長に「夢はありますか?」と聞かれてとっさに答えた自分の言葉がふいに思い出された。

保育園での〝クビ宣告”や以降の抑圧された自分の幼少期も思い返しながら、今の会社に入ってすぐにこのシステムを作り始めた時にまるで元から構想が頭の中にあってそれを現実化しただけのようなあの感覚の意味がここでようやく理解出来たのだった。


「私が救いたかったのは、、、私自身。。。

そうか、そうだったのか。寛子に誘われて入社試験を受ける気になったのも、ここなら作れるっていう実感を持てたから。そして入社間もない自分が本当に企画化できたのはきっとそれが課長の夢であり皆の夢だったから。。。!?」

皆が注目している中、床を見つめながら独り言のように呟く亜衣。

皆は何のことだろうという感じで見ている。

「あ、あ、私がこのシステムを開発したのは、、、

それが幼い頃からの私の夢だったからです!私が心身ともに健康で私らしくいられる場所が欲しかったから!そう、そうなんです!!」

晴れやかな表情で言い放つ亜衣。
その様子を見て顔を見合わせるメンバー達。

「ブラーボー!」
「エクセレント!」
「さすがリーダー!」

皆も「哲学を超えて〝夢”とは最高にcoolだぜ!」という感じで拍手をしてくれた。

  ◇

Miky先生、私やっと分かったような気がします。私は元から知っているんでした。〝確固たる目標”というのを。私は私自身を救いたくて助けたくてずっともがいてたんです。救いたくて助けたくて、でも、もがいている自分を認められなくて。

自分を救いたいという〝確固たる目標”があったのに、いろんな理由で自覚できてなかったんです。

ああ、Miky先生。私、Miky先生と話したいです。私は今きっと自分自身として生きていくための〝時が満ちて”います。

今やっとオープンマインドの意味が分かりました。ああ、話したい!Miky先生と話したい!いろいろ話して「さすが亜衣、よく気づいたね!」って褒めて欲しいです。 Miky先生、Miky先生。。。


この日もMiky先生宛てにアメリカ到着や新しく出来た仲間達のことをメッセージに書いて送ったが、Miky先生からの返信はなかった。

次回に続く


 


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