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第6話「3日目」

前回 第5話「2日目」


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午前

今日は3連休の最終日。祝日のため会社は休みだが、亜衣はいつもより早く起きて寝覚めのコーヒーを飲みながら、さっそくチャートに向かっていた。

亜衣がワクワクした気を発しているからか、レオナルドも早起きをして亜衣の足元にまとわりつきながら、「にゃ〜ごにゃ〜ご」とアピールしている。

亜衣は前日にMiky先生から出された宿題について、過去チャートで検証を始めた。

チャートと別ウィンドウでMikyさんのブログの水平線の引き方のイラストを表示させていた。

「言ってることは分かるんだけどなぁ。動いているチャートだとうまくいかないのよね。。。」

直近の高安に水平線を当てる。

言葉にすると簡単だけど、いざリアルチャートでやろうとすると

「直近ってどこ?ここも高値、こっちも高値。
こっちはちょっと遠すぎるかな。。。」

という感じで〝正解”が分からない。

それでもブログに書いてある手順に沿って、過去チャートではエントリーできるポイントをいくつかピックアップしてみた。

「あれ、ここはどっちのセンターラインでエントリーするのが〝正解”だろう?」

「ここは結果伸びたけど、高安のセンターからはズレているからダメよね。」

そんなことを考えつつやっているうちに

「今やっていること、Mikyさんの宿題とは全然違ってたらどうしよう。。。貴重な休みを1日使ってそれだともったいないわ。

よし、早めに聞いてみよう。」

時計は午前7:00を指している。スマホ宛てのメッセージなら迷惑だろうが、SNSのDMなら大丈夫だろうと思い送ってみた。

「Mikyさん、おはようございます。

直近の高安に合わせる場合、どちらの引き方が〝正解”でしょうか?」

画像1

そう打ってチャート画像を添付しEnterボタンを押した瞬間、チャットスペースに「記入中」の意味である鉛筆マーク✏️が付いた。




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答え合わせ


「どちらも正解なんだし! さすが亜衣だし!吹っ切れてからの理解力はやっぱり凄いし‼︎ どちらのラインも有効なんだし!正解なんてものはないから安心するんだし!自分がエントリーしやすい所がベストポイントだし!」


はやっ!返信早すぎてヤバっ!秒で返ってきた!私のこと、そんなに気にかけてくれてるのか。。。そう思うと亜衣は涙が出そうになった。

「朝早くからすみません。さっそく過去チャートを見ていて引っかかったもので。

センターラインで揉み合ってからどちらに抜けるのかっていうのも判断が難しいです。いわゆる騙しってやつに引っ掛かります。

値動きだけ見ていてはダメなような気がします。ロウソク足の形やオシレーター等合わせて根拠にすべきでしょうか?それとも何か他に見るべきポイントがあるんでしょうか?」

亜衣は思考の方向さえ合っていれば、課題点を見つけ出すのは人一倍早い。

「ふふふなんだし。 亜衣、値動きの次の展開を予測するには。。。?」

Miky先生が意味ありげに言った。

(次の展開・・・ブロックごとの塊・・・サポート角度・・・)「あっ、MA!!!!」

一度〝波に乗れば”思考スピードは超絶マッハな亜衣。

「そのとーりだし!あとはもう分かるんだし? やってみるんだし!!」

「はい、先生!」

亜衣は過去チャートを遡りながら、

「ここも!ここも!ここも!!
 全部そうなってる!!」

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MA=25EMA・75EMA・200EMA・200SMA
画像3
画像4
 ※上記チャートは都合の良い所をピックアップしたわけではなく、このnoteを書いている週の直近のものです。


もはやわざわざラインを引かずとも左にスクロールしながら目視でイメージをすると、次々にエントリーポイントが脳内に飛び込んで来た。

それも、エントリーできるところを1つ1つ遡って個別に見つけるのではなく、1~2つの波の往来の中で「こう見ても良い。」「こっちの見方でもセンターから伸びている。」「いや、同じ場所でも高安を広く取ってそのセンターで入ったほうが大きく伸ばせる。」といった感じで、フラクタクルにとらえられるようになっていた。

高安のセンターを探すというより、「揉み合っている所がいずれかの高安のセンターである」というイメージを持って、そこを中心にチャートの左を見ると高安がある、、、という実戦に応じた逆の思考。これだと逆算的に左部分の値幅のどこが始点かということも必然的に分かる。

そしてセンターから高値か安値かどちらに向かうのか、、、それはMAが向かうほうであって、逆にセンターからはMAが向いてないほうには進めない。

「そうか、なるほど。そういうことか!

これまで水平線はもちろん斜めラインでも

『〝サポレジ転換”はどこか』
『そのラインが〝レジサポ化”するか』

という視点で見てしまっていたけど、本質はそうじゃないんだ。

意識されたラインがサポート化するかどうかを見るのではなくて、主役はあくまで値動きそのものなのよ。

値が揉み合ったまさにその塊のセンターにラインを通しておいて、値がどちらに抜けるかを見る。そのガイドとなるのがMA!

MAがセンターを挟んで上下のどちらに偏って長く居るか、、、それで今後値がそっちに引っ張られていくっていう感じね。MAがいったん逆ゾーンに入ってから長く居た元のゾーンに返すような動きもあるわね。

ぴったり効く天底ラインが分かれば凄いけど、リアルトレードにおいては節目のラインから伸びるほうに付いていくという考えのほうが優先なのよ。

その節目っていうのは揉み合いのセンターライン。そしてその揉み合いっていうのは、、、

直近高安のセンター!!

今まで斜めに囚われすぎていて、ヘソみたいな小さなWで斜めの角度を取ることにこだわっていたけど、そんなポイントこそ水平で見たら良かったのか。

なるほど!なるほど!!」

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「ヘソ」とは、ひと波出た後のもみ合いのWのこと。  水平だけでなく右上がりや右下がりもある。


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人は見たいようにしか物事を見ることができない。それはチャートでこそ言えることであり、値動き自体はチャートを初めて見たその瞬間から今の今までずっと同じパターン、ずっと同じ法則で変わらず動いている。

であるのに「トレードのための見方」からはピントがズレてしまい、過去チャートではうまくラインが引けるのにリアルでは引けないという状況に陥る。

ただ、ちょっとしたきっかけで目線が変わり、まったく違って見えるようになることがある。そのきっかけを掴むには自分だけではどうしようもないことも多く、第三者の言葉によって〝自分目線”から外れ、大きく視野が開けることがある。

そのきっかけを掴むには「こんなことは何回もやってみてダメだったやり方であって、使える代物ではない。」とクローズドなマインドで否定するのではなく、オープンマインドで受け入れることであり、そこにこそ活路がある。

「知っているはずの知識」も活用できていなければ知らないのと同じ、いや、場合によっては知っているよりもマイナスで、自分で自分を低レベルなほうへミスリードしていることもある。

「知っているのに使えていない」ということは、知識として間違ったインプットをしてしまっているということである。「オシレーターは買われ過ぎor売られ過ぎを測るツール」「ネックラインを割ったらショートする」などについても、値動きの法則に基づいた実戦的な話を聞けるチャンスかもしれないその時でも、

「自分も初心者の頃にハマったなぁ。そんなことに着目したって勝てないのに。」と相場に長く身を置けば置くほどそう思いがちである。

いつでも本質をつかもうとマインドをオープンにすることが大事である。そう心がけることで、「あと少しで手が届くところまで頑張ってきたけれど届きそうで届かない、辛くて挫けそうな自分」を救えるというものだ。

※「波は規則正しい」ということについて補足すると、値動きの大きな方向はファンダが決めるとはいえ細かい波の動き方には相場心理や大口の操作は関与しない。

したとしても、政府レベルの為替介入や天変地異などの大事が起きた時に、それまで分足のリズムで刻んでいた値動きが時間足の大きさの波に一時的に切り替わるというだけである。

(上記については、出来高の少ない個別株やマイナー通貨についてはその限りではなく、売買が一定レベルで安定しているメジャー通貨や大企業株のこと。)


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「でも、抜けると決まる細かいタイミングが難しいわ。損切をある程度広めにしていればプラスにはなるけど、そこのリスクリワードで迷っていること自体が実戦で仇となりそう。。。

3本のMAの役割がミソっぽいわね。
Miky先生に聞いて・・・

いや、いったん自分で考えてみよう。何だか分からないけど、今日はひらめきそうな気がする。」

亜衣がMikyとやり取りを始めてからまだ3日目。亜衣の思考の早さ・深さを土台にして、Mikyの確かな存在感を感じながら過ごしてきたこの数ヶ月。

初めてメッセージを送ったのがほんの3日前であるということも忘れて、亜衣は「Miky先生だったらどう言うかな?」という思考が〝癖”になっていた。

「癖は癖でも良い癖をつけるのがトレード上達のコツ」

亜衣はブログでMiky先生が繰り返し言っているワードをつぶやきながらロウソク足の表示を消してMAだけ残し、

「検証 けんしょう ケンショウ!」

と目を輝かせながら言った。


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午後

亜衣は一心不乱にTrader’s Viewのリプレイ機能で、エントリー&エグジットを繰り返していた。

シンプルにチャートを見るという意味が分かって、「センターでエントリー⇨高安到達で利確」というやり方で大方7割程度の勝率で回せるようになっていた。

「グゥゥ〜!!」

大きな腹の虫が鳴いたので時計を見てみると、夕方16:00だった。

「うわっ、ヤバっ!もうこんな時間!? 洗濯してない!!」

亜衣はいったんPCを離れ、栄養補給その他をこなすことにした。

レオナルドがジトーっとした目で亜衣を見ている。

「何よ、レオ。そんなふてくされたような目して。」

レオナルドは午前中に必死にかまってくれアピールをするも、亜衣がモニターに一点集中まったく気にしてくれず、何時間もモニターを凝視しているので諦めてふて寝していた。

そんな愛猫の気を知ってか知らずか、亜衣は自分の気晴らしに猫じゃらし型のおもちゃでレオナルドを釣って遊んだ。

「だから気持ちと関係なく手が動くんだにゃん。遊んでやってるわけじゃないにゃん。そこんとこよろしくにゃん💢」

家事を済ませパンをかじりながらひとしきり猫と遊んだ亜衣は、再びPCに向かった。

「あと一歩なのよね。損切幅を広く取っていれば勝率9割は越えるんだけど、『もう動き出す』というタイミングで、センターラインを背に損切を設定したいのよね。練習で確実に動き出すタイミングを100%掴んでも、実戦では焦りやミスのせいで勝率が落ちるとするならば結果的に7割程度の勝率になる、、、って感じだと思うわ。」

亜衣はこの半年余り自分なりの〝テクニカル”を根拠にここぞというところでエントリーするも、後から良くみると「なんでこんな所でエントリーしたんだろう。。。」という経験を嫌というほどしてきた。

自分が天才でも何でもなく、〝平凡以下”だと思ってしまうくらいに相場の死神にケチョンケチョンにされてきた。

リプレイで90%の勝率なら実戦では良いとこ65
%、相場の状況しだいでは60%を切るかも。。。そんなふうに思うようになっていた。

ただ、Mikyさんとのやり取りを通したこの覚醒期にはその感覚が良いほうへ作用していた。「もっと上へ、さらに上へ。」そう思いながら取り組むことが楽しくて仕方なく、自分の成長を実感できる時でもあった。

「EMAが3本上向きになるタイミングで入っても、逆方向に振られる時があるのよね。どうやって防ぐのかしら。。。」

亜衣はMikyさんのブログに載せられている水平線でのトレード例を再度見返した。

「あれっ、この水平線のエントリーポイント、斜めのチャネルも当ててある。値動きの大きなルートをかたどるように引かれているけど、同じ角度で薄いラインも足されてる。。。これ、何のために。。。

あっ‼️   」

亜衣は急いで過去チャートを開き、残していた水平ラインと仮想エントリーポイントを見返した。

「水平線基準で動き出したように見える所も、多くの場合斜めの単純なサポートラインが走って来ている! 『頭の中で斜めを意識するのは良い。』ってMikyさんが言われていたのはこれのことよ!

斜めのセンターも効く

騙しに遭った所はすべて斜めのサポートラインまで遠い所。。。

そういうことか‼️

そして薄く引いてあるラインは、、、特に75EMAがそのラインに沿って上がっていくような引き方になってるわ!



よし、、、実弾でやってみよう。。。」

祝日だが相場は開いている。

「仕事に脳のリソースをいくらかでも持っていかれてしまう平日だと、落ち着いてトレードができない。鉄は熱いうちに打てとも言うし、イメージが熱いうちにリアルでやってみよう。」

亜衣はそう思い、深く深呼吸をしてリアルタイムのチャートを開いた。

「まずは水平っと。。。」

仕掛けたい方向とは反対に押した波に合わせて水平線を引き、そのセンターラインも自動で表示されるようにしている。

「落ち着け、落ち着け〜 私。」

ドル円、ロング方向、水平良し! で、、、斜め良し!!MA良し!! 行けっ、ロングゥ〜ッ‼️」

速攻逆行損切乙。

レオナルドが寝床のカゴから出て欠伸をしてから背伸びをし亜衣の足元に擦り寄って来たが、見上げたご主人様の顔が半笑いで引きつって固まっているのを見てギョッとし、

「に、人間は分からないにゃん。」という感じでそっとしておいてあげるかのようにその場を離れていった。

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夜になって亜依は、渾身の一撃で撃沈したトレードを何度振り返るも、うまくいった時との違いが分からず思考停止していた。

「Mikyさん、私やっぱりセンスがないみたいです。もうはっきりおっしゃってください。『お前なんかが相場に手を出すなんて笑う。体中の毛をむしり取られる前にさっさと辞めちまえ。』って。。。」

亜衣は頼るでもなくすがるでもなく、もう退場するきっかけを探っているかのようにMikyにお祈りメールを送った。 

「さすが亜衣なんだし! 引導を渡されることを自ら祈るタイプのお祈りメールなんて超レアなんだし! 企業が採用をお断りする時に『あなたの今後のご活躍をお祈り』するのが普通なんだし! やっぱり亜依は個性的なんだし!」

とまたまた亜衣の心を見透かすかのような返信が来た。

ただ、けなしてほしい時に無理矢理褒められるのは逆に辛いものがある。というか皮肉にしか聞こえない。

(自分が凄腕だからって勝てない人の気持ちが分からないのよ!)

と亜衣は生来の気性の粗さが出るも、

「亜衣の今の状況からして、たぶん失敗トレードでは〝あれ”を忘れてただけなんだし! 該当のシーンを見せてみるんだし!」

とMiky先生からの返信にすぐに気を取られた。

(あれって何かしら? 私教えられたとおりにやったわよ。それでダメだったのよ。この上何があるっていうの。。。)

そう思いながら失敗トレードのシーンを送った。


「これです。。。」

亜衣は弟子として申し訳なさそうに言った。

「やっぱりなんだし! 思ったとおり、亜衣は水平もセンターもMAも斜めも実戦的なレベルで分かってるんだし! ただ、これらのことを意識するあまり『これまでは普通にできていたこと』を忘れてるんだし!」

そうMiky先生は見通すように言った。

(普通にできていたこと? ・・・・何だろう? )

亜衣は持ち前の処理能力の高さで常人の何倍もの速さで振り返りをしたが、なぜ失敗したのか分からず師匠に〝引導依頼”のメッセージをしたのである。この後に及んで自分で見返してもそのミスに気づけるはずもなかった。

「先生、忘れていることとはなんですか?」

亜衣はそんなもの本当にあるのかしら?と訝しながら返信した。

言葉はなしで2枚の添削画像だけが送られてきた。
1枚目はポイントに赤丸だけ付けられたもの、そして2枚目はそれを上下反転させたものだった。

「あ゛っ!!!!!!」

亜衣は思わず大声を上げた。カゴの中で螺旋状になって寝ていたレオナルドが「んにゃっ!?」っと飛び起きて周りを見回した。

〝値動きは200MAの向きに沿ってブロックごとに形成されていく”

Mikyさんのブログに出逢って最初に衝撃を受けてすぐに検証をし、現にそうなっている事実を受け入れることで前に進めたあの経験、あのブログが一筋の光のように思えて勇気を出してメッセージを送ったあの気持ち。。。

それらを否定するかのように、実戦においてはまるで死神がその記憶だけを抜き去ったかのようにすっかりと忘れてしまっていた。


「ま、Miky先生、、、こうでした。」

(いつも馬鹿でごめんなさい。不出来な弟子でごめんなさい。こんな初歩的なことでお手を煩わせてごめんなさい。)

亜衣はそう思いながら恐る恐るチャートを添付した。

「うむうむ。200SMAも太くなぞってみるんだし? そして本来の水平線エントリーのポイントに矢印を付けてみるんだし!」

「は、はい。」


200SMAが元のサポートを右にそれている。EMA でも同じことだが、SMAのほうがより長期のルートを示す。

亜衣はもはや頭の中で正解は解っていたが、自分を戒めるかのようの言われたとおりにラインを引き直し、矢印を付けた。

「大正解なんだし! 前に『正解』はないと言ったけど、これは亜衣にとっての大正解ポイントなんだし!」

添削されてヒントをもらって正解することと、自力で正解まで辿り着くことに雲泥の差があることは、これまでの人生でもたくさん味わって来た亜衣である。それも自力でたどり着けるほうの人間として。

「私、少しトレードはお休みしたほうが良いでしょうか。。。?」

亜衣は謙虚でもなく卑屈でもなく、もう自分がどのポジションにいてどういう感情で振る舞って良いのかすら分からなくなっていた。

「ははは! 何言ってるんだし! 亜衣はもうこれでこのポイントでは実戦でも失敗しないんだし!」

どこまでも前向きなMiky先生。もはや後ろ向きの日本語を忘れてしまっているかのようだった。

「そ、そうでしょうか? 自信ないです。。。」

亜衣が〝頭脳系のゲーム”でここまで自信が持てないのは初めてだった。

「自信も何も、たぶんもうこのポイントでは失敗したくてもできないんだし! 良い癖が付いたと思うんだし!」

本当にそうなら嬉しいが、亜衣はもはや独りで実戦トレードに臨むには気持ちが追いつかないくらい自分に対して疑心暗鬼になっていた。

そんな亜衣の心を見通して、Miky先生は言った。

「よーし、リアルタイムで一緒に付いてトレードを見てあげるんだし! 今からリモートで繋ぐんだし!カメラはなしで良いんだし!」



えっ⁉️



亜衣はキョドった。いまだかつてないくらいキョドり倒した。

えっ? はっ? へっ??  マジっ??
で、でも、スッピンだし、急に言われても!
いや、カメラはなしって言ってる。。。

いや、でも無理!いきなりはムリゲー過ぎ!

はぁはぁ。。。

レオナルドが、顔を赤らめて息づかいを荒くし始めた亜衣の元に駆け寄り「人間は面白いにゃん」という感じでじゃれついて来た。

「だ、ダメよ、レオ。今大事なところなの。  ふぅふぅ。。。」

ドキドキしながら返信しようとするも、Backspaceボタンで何度もメッセージを消す。

Miky先生には記入中の鉛筆マーク✏️が見えていて、キョドっているのが丸わかりのはず。

「あ、あのMiky先生、急に言われても、、、心の準備ができてなくて緊張します。。。」

正直にストレートに言った。

「緊張? 何に緊張するんだし? チャートに対してなんだし? それともエントリーに対してなんだし? それ以外のものについて緊張なんかしてるんだったら一生勝てないんだし!今こそマインドをオープンする時なんだし!」

ハッとした。

(見ず知らずの私に、幾度も優しく応えてくれているばかりか、貴重な時間を割いてまでトレードに付き合ってくれると言っている状況。

それも欲望とか見栄とかプライド、落胆・怒り・失望・諦観・自暴自棄・・・そんなややこしい心のうちをおそらくは見通しているだろうMiky先生が御自らコーチングをしてやろうと申し出ている。

こんなチャンスは2度とないかもしれない。どころか1度たりとも起こり得ないことかもしれない。大多数の悩めるトレーダーにとっては。せっかくの大チャンスをオープンマインドで臨まなくてどうする。。。

「あ、あ、あの! お願いします‼️」

亜衣は気持ちを切り替えて勇気を出して願い出た。

「望むところなんだし!」

Miky先生はそういうとリモート用のURLを送ってくれた。

亜衣はチャートを開いてから一回深呼吸をし、リンクをクリックした。

〝待機しています”

の文字。ドキドキする。

〝オーディオデバイスに接続中”

の文字。いよいよつながる。

イヤホンを通してガサガサっという音がした。
つながった。

「もしもーし?」

(あ、聞こえた。あれ?でも若い女の子の声。私と同じ世代っぽいな?誰だろう? 最近人気のアイドル、〝そのちゃん”にも似た甘ったるいような特徴的な声、、、)

「あ、亜衣なンゴ? よろしくなンゴねー!」









・・・・・・・え゛〜〜〜〜〜っっっ⁉️

Mikyさんって女の人なんですかぁ〜〜〜⁉️」



亜衣は、欲望も見栄もプライドも、落胆も怒りも失望も諦観も自暴自棄の心もマイナスなことは全部ぶっ飛んで、渾身の水平線トレードを1発かましてからその日を終えた。


次回 第7話「予兆」

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