第36話「融合」
前回 第35話「突破」
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紛争地にて
「私が行かなくては、、、他の誰でもない、この私が行かなくては、、、私が!!」
マイはそう決意し、止める仲間に向かって「大丈夫。何も心配要らない。」と諭してから、地上への入り口まで来た。
見張り役の仲間が1人で出て行こうとするマイを見て「何事か!?」という顔をし、
「いけません!今度こそ狙い撃ちされてしまいますよ!?」
と慌てて止めに入った。
マイはゆっくりと首を横に振り、そして仲間の目を見ながら微笑んで
「ここで行かなければ何も変えられない。私が、私自身が本気で示さなければ誰も付いてこない。世界を変えるなんて出来っこない。」
と悟りを開いたかのような曇りのない目で言った。その覚悟に満ちた真っ直ぐな眼差しに仲間はそれ以上何も言えなくなって道を開けてしまった。
「大丈夫よ。敵も全世界に配信されていることは知っているみたいだから。まさか公開処刑なんかしてしまったら、いくら何でも世界中から非難されて孤立することぐらい分かっているはずよ。」
とマイは自分にも言い聞かせるようにそう言って、ゆっくりと建物から出ていく。
◇
脚が震える。いや、身体中が震えていることに歯がカチカチと鳴る音で気付いた。次の瞬間に命が潰えているかもしれないのだ。普通なら怖くて歩を進められないどころか、一目散に逃げ出してもおかしくはない状況だ。
「あのお姉さんは凄いなぁ。見ず知らずの幼かった私のために、いつビルが崩壊してもおかしくない所へ自分から助けに来てくれたんだもんなぁ。」
マイはあの地震の時に命を顧みず自分の命を救ってくれたお姉さんのことを思った。
「そう言えば、お姉さんも身体中震えていたっけ。それなのに私のことを励ましてくれて。。。」
マイはそんなことを思いながらもユーリが倒れている方へ進んで行く。
が、もうあと少しというところで脚がすくんで動かない。敵の銃口がこちらへ向いている絵が浮かぶ。一度電磁波銃で撃たれた時のように、こちらの〝演出″を狙って撃ってくるつもりだろう。そう思うと脚が止まって動かない。
とその時、
「大丈夫やで。私が付いとうやろ?大丈夫、私が守ったるし、なんも心配せんでええ。」
あのお姉さんの声が聞こえて、背中に手を当ててくれている感触がした。
「多香子さん。。。」
マイは「うん。」と自分自身で頷いてから、倒れているユーリの元へ一気に駆け寄った。
「大丈夫!?聞こえる?」
仲間が超小型ドローンによる機能でユーリのバイタルを取り、マイに状況を伝える。
※参考:非接触でバイタルサインを測定
https://medical.jiji.com/column4/amp/147
「呼吸をしていません!脈も極めて弱いです。このままでは危険です。」
マイはそれを聞いてから人工呼吸をするためにユーリの身体を何とか仰向けにしようと抱き抱えたが、小柄な女性の力ではなかなかひっくり返せない。
テコの原理で半分身体が捻られ、あと少しで仰向けにできる、、、という時だった。
刹那にマイの身体が雷に打たれたように痺れてからその場に倒れ込んだ。敵方の電磁波銃だった。前回とは比べようもないくらいに強力なパワーによるショックが小柄なマイの身体を襲い、ユーリと並ぶように倒れ込んでしまった。
衝撃でマイの首からペンダントが放り出され、蓋が開いて中の写真も飛び出ていた。
飛び出た1枚は養父であるマックスとのツーショットだった。
配信用のモニターに昆虫型ドローンが撮っている映像が映っていたが、ドローンも電磁波の衝撃のためかフラフラとして焦点が定まらずに、倒れたマイの首元がアップになっていた。
ペンダントの中に二重で入れてあったもう1枚の写真が見えていた。しわが寄って汚れも付着しており見にくい状態ではあったが、男性2人が中腰になり真ん中にいる女性が両サイドの2人の肩に腕を回してウィンクをしている写真のようだった。
それは多香子と、、、若かりし頃のマックスと浩二の3人で撮った写真だった。
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ホテルにて
大会4日目を終えた亜衣、1位のテリー氏との差を縮めたものの、明日の最終日で逆転勝ちすることは難しい状況であることに変わりはなかった。
ただ、今日の終盤にテリー氏がおそらくはわざと残したであろう自分のチャート上のサポートラインを目撃して亜衣はついにチャートの見方が完成するのではないかという予感があった。
チャートを見始めた初心者の頃は〝点″でしか見ていなかった。それが〝線″として繋がり、そしてついに〝面″で捉えることが出来るようになるか、、、
そういう気がしてチャートを開いて分析を始めた。大会の疲れなどは気にならず、とにかく1秒でも早くあのサポートラインの検証をしたいと思った。
「・・・本当だ。ここも、こっちも〝起点とサポート″が絡んでいる。これか、テリーさんはこれでピラミッティング的にエントリーをしていたのか。。。
でも分割エントリーをしていることからも、サポートラインとフィボナッチが連動していることには気付いてなくて、〝浮いているサポートライン″までは見えてないんだと思う。。。」
亜衣はデスクに置いてあるポットからお湯をカップに注ぎ、コーヒーをズズズっとすすった。
「反転ポイントはどうやって見極めているのかしら?そこは天性の感覚? 私は反転を確認してひと波が出てからそれについていくことしか出来ないけれど、テリーさんはいつももっと早いタイミングから分割ポジションを入れ始めているのよね。一体どうやって見極めているのかしら。。。」
亜衣はタブレットPCと睨めっこをしていたが、「ふ〜っ。」っと息を吐いて座っていた椅子から立ち上がり、ボフッとベッドに寝転がった。
天井を見上げながら、空中にラインを描くように指を動かし、「うん、うん」とついに手にしたシンプルなチャートの極意を確認しながら、それでも満足はせず〝反転ポイント″をどうやって見極めるのかについて気持ちは走ったままだった。
「ふ〜、シャワーでも浴びるかな。」
と亜衣はいったんブレイクタイムを取ろうと、備え付けのクローゼットを開けて着替えを用意した。ベッドにはタブレットPCが無造作に置かれている。
デスクに置いていたコーヒーが冷めないうちに飲んでおこうと手に取り、口元にカップを運ぼうとしたその時だった。
ベッドの上のタブレットPCがふと目に入った。チャートに各サポートラインを当てた画面が映ったままだったが、タブレットPCの置いてあった方向が今は上下逆向きのため、チャートも上下反転して見えていた。
「ん? 上下反転。。。」
亜衣は飲もうと思っていたコーヒのカップを口から外し、一点を見つめて考えている。
「シンプルなサポート、、、波の起点、、、上下反転、、、」
チャートが面の上で幾何学模様のように動いているならば、水平で見ても斜めで見ても同じ法則で動いている。今はもうそのことについては確信しているとかではなく、いかに効率的に水平と斜めの連動性を捉えるべきかというところで思考している亜衣だったが、、、
〝チャートは上下反転させても同じ″
ここに来てそのことにやっと腑に落ちたのだった。
Miky先生があれだけ「まずは水平が大事」だと言いながらも「サポートとの絡みに注目するンゴね〜。」と言っていたのは、まずは基本を押さえた後に然るべき時が来たら、水平との連動性に亜衣が気付いてチャートの本質に辿り着くことを期待していたに違いなかった。
「Miky先生、Miky先生。。。」
亜衣は上下逆さまにしたままのタブレットPCを見ながらそう呟いた。その目はキラキラしていて、まるでチャート分析を習い立ての初心者が大きなヒントを教わった時のようだった。
苦難のスタートを切ってからずっと溺れながらも何とか泳げるようになり、そして使命を帯びて相場に望む亜衣には新鮮な感情だった。
「チャートって面白い。。。」
その鼻の穴は大きく膨らんでいた。
次回へ続く
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